第41話 蝶のように舞い、蜂のように刺すんですわ!

「それでは、決勝トーナメント第一試合、アルバス=ドゥネイルVSエルザ=オルトリンデ、開始!」


「先手必勝ですわ! 【突撃刺突ブリッツスタブ】」


「危なっ!?」


 開始早々エルザがレイピアを構えて突撃すると、アルバスはどうにか大鎌を盾にしてそれを防いだ。


 エルザは防がれたとわかるや否や、すぐにバックステップでアルバスの攻撃範囲内から出た。


 ヒット&アウェイがエルザの基本的な戦闘スタイルである。


「ガンガン行きますわよ! 【啄木鳥ウッドペッカー


「チッ」


 エルザが連続して突きを放つと、アルバスは大鎌を大道芸のように体の前で回して防いだ。


 大鎌なんて重量武器を使えば、どうしても小回りの利く相手に後れを取ってしまう時がある。


 だから、アルバスはそれを見越して大鎌でもそんな相手と戦えるように準備していた。


 しかし、アルバスがエルザの【啄木鳥ウッドペッカー】を防いで大鎌を横に薙いだが、エルザは後ろに退いていた。


「ちょこまかと鬱陶しいな」


「蝶のように舞い、蜂のように刺すんですわ!」


「じゃあ、それを俺は捻じ伏せてやる」


「やってみれば良いですの! 【突撃刺突ブリッツスタブ】」


「当たらねえよ」


「今のは布石ですわ。【蜂刺突ビースタブ】」


 【突撃刺突ブリッツスタブ】が防がれるのは織り込み済みで、レイピアが弾かれたその時にはエルザは体のバネを活かしてゼロ距離で鋭い突きを放った。


 だが、アルバスもそれは予想していた。


「【回転反撃スピンカウンター】」


 ゼロ距離からの突きを大鎌の柄頭で受け止めると、その勢いを利用して横に体を回転させた遠心力を上乗せした一撃をエルザに放った。


 しかし、大鎌の重さによって回転速度がそこまで上がらなかったせいで、アルバスが反撃する時にはエルザが後退していた。


「アルバス、その得物の使い手にしては技巧派ですのね」


「まあな。これぐらいやれねえと姉上とは戦えねえんで」


「アルバスの姉は生徒会長ですものね。確かにそれぐらいはできて当然ですわ」


「そういうこった。んじゃ、ギアを上げるぜ。【斬撃スラッシュ】」


「遠距離攻撃もできるのですね。けれど、当たらなければどうということはないですわ」


「それなら当たるまで攻撃し続けるだけのことだ。【斬撃スラッシュ】【斬撃スラッシュ】【斬撃スラッシュ】【斬撃スラッシュ】【斬撃スラッシュ】」


「無駄無駄無駄ァ、ですわ! 【流水歩行ストリームステップ】」


 エルザが技名を唱えると、アルバスの斬撃を受け流すようにしてアルバスとの距離を詰めた。


「ここですわ! 【蜂刺突ビースタブ】」


「【回転蹴スピンキック】」


「がはっ!?」


 エルザは想定外の回し蹴りを喰らって後ろに倒れた。


 そして、その隙をアルバスが逃すことなく大鎌の先端をエルザの首筋に向けた。


「そこまで! 勝者、アルバス=ドゥネイル!」


 エルザの負けと判断し、シスター・マリアは試合の終わりを告げた。


「くっ、まさかあそこで回し蹴りだなんて予想外でしたわ」


「別に、俺は肉弾戦ができないだなんて一言も言ってねえよ」


「完敗ですわ」


「おう。じゃあな」


 アルバスは一足先にその場から去り、決勝参加者の待機場所であるテントに向かった。


 そのすぐ後、聖職者クレリックコースの1年生によってエルザは運ばれていった。


 第一試合が終わると、次は当然第二試合だ。


 ザックが先に来ていたところに少しだけ遅れたライトが到着した。


「ライト、楽しみ」


「そっか。良い試合をしよう」


 2人の準備が万端であると確認すると、シスター・マリアは口を開いた。


「それでは、決勝トーナメント第二試合、ザック=ロアノークVSライト=ダーイン、開始!」


「【流水斬撃フロースラッシュ】」


「やるね」


 開始直後、ザックがメビウスの輪を描くようにドボルザークを振ると、流れるような斬撃がいくつも放たれてライトに向かって飛んだ。


 しかし、ライトはそれをしっかりと見極めて避けた。


 剣を使って防げば、その隙にザックに距離を詰められてしまう。


 だから、ライトは剣を使わずに足捌きだけで躱した。


 すると、ザックはドボルザークを2本の剣にしてライトに斬りかかった。


 今度は剣を使い、ライトはザックの攻撃を1つずつ確実に弾いた。


「片手で1本ずつ、しっかり扱えてるね」


「鍛えた」


「だろう、ね!」


 ライトは力を入れ、ザックの片方の剣を弾き飛ばした。


 戦場において、手から離れた剣は使えないと考えるのが常識である。


 だから、ザックは残った方の剣を両手で握ってライトと対峙した。


「【斬撃スラッシュ】」


「威力が上がったね」


「当然」


「そうだね。普通に考えて片手で剣を握るよりも両手で握った方が力は強くなる」


 ライトが【斬撃スラッシュ】を躱し、その射程距離が伸びたのを見てコメントするとザックは得意気だった。


「来い」


「じゃあ、たまにはこっちから攻めてみるか」


 ライトはそう言うとザックを相手に攻勢に出た。


 基本的にライトの剣は守りの剣だ。


 ライトは<剣術>等の剣を扱うスキルを持たないので、後の先を取るために自然とそのスタイルになったのだ。


 しかし、ライトは別に後の先が最も得意なだけであって自分から攻めるのが苦手な訳ではない。


 <剣術>がないから技が使えないだけで、基本的な剣を扱う動作はアンジェラから教わっている。


「不思議」


「スキルがないのに剣で戦えることが?」


「肯定」


「鍛えたからだよ」


「納得」


 ライトの強さは同学年の中で群を抜いている。


 それが天性の才能ではなく、弛まぬ努力の結果であることをザックはライトの剣筋から見て取った。


 その後もライトとザックの鍔迫り合いは続いた。


 時々ザックが【斬撃スラッシュ】や【刺突スタブ】を放つが、ライトはどれも躱してみせた。


 ライトも攻勢に出るものの、ザックの守りは堅くて試合が長引くことが予想された。


 そうなるとスタミナ勝負になる。


 HPはダメージを受けると減るが、それ以外にも空腹やスタミナの減少によっても減る。


 スタミナ勝負になった場合、ザックは不利なのは自分だと理解している。


 だから、勝負に出ることにした。


「<重戦闘ヘヴィバトル>」


 スキル名を口にした途端、ザックの攻撃に重みが増した。


「ザック、勝負に出たね。じゃあ僕も」


 ライトはそう言うと、先程の試合でエルザが見せた【流水歩行ストリームステップ】の足捌きを真似してザックの攻撃を躱し始めた。


「スキル?」


「<細剣術>も<剣術>もないよ。これは見様見真似。蝶のように舞い、蜂のように刺す。だっけ?」


 ザックの疑問に答えながら、ライトは舞うようにしてザックの攻撃を躱し続ける。


 そして、<重量戦闘ヘヴィバトル>の効果が切れ、ザックの動きが鈍った瞬間を狙ってライトはザックの鳩尾に剣の柄頭を思い切りぶつけた。


 ザックが気絶してその場に倒れた。


「そこまで! 勝者、ライト=ダーイン!」


 シスター・マリアが勝者を告げると、試合は終わった。


 これによって決勝戦はライトとアルバスの対戦となった。


 入学試験の1位VS2位の勝負である。


 ライトがアルバスの待つテントに移動すると、決勝戦は30分後から始めるというアナウンスがあった。


 生徒会としても、第一試合の勝者が休憩できているのに第二試合の勝者が連戦になるのは不公平だと判断したからだ。


 それに加え、例年と比べて決勝戦までのスケジュールが早く終わっている。


 その原因はライトが参加したDブロックの予選だ。


 他の予選ではG1-1の生徒同士の戦いがあったため、例年並みに時間がかかった。


 しかし、Dブロックに関して言えば乱戦もあっさりと終わり、G1-1のオットーですらライトに一撃で倒された。


 昼休みが前倒しになったから、午後の決勝トーナメントの開始時間が早くなった。


 時間にゆとりがあるからもっと準決勝が長引いても良かったが、アルバスもライトも生徒会が予定したスケジュールよりも早く試合を終わらせた。


 そういう事情から、当初は予定になかった休憩時間が設けられたのだ。


「ライト、決勝ではスキルを使えよ」


「そうだね。アルバスが相手なら使わないと駄目かも」


「それで良い。俺は全力のお前と戦いたいんだ」


 アルバスは好戦的な笑みを浮かべた。


「うーん、全力は武器の制限とかあるから厳しい」


「・・・ライトさぁ、それはわかってるけどそこは空気読んでくれよ」


「ごめん。それでもスキルは解禁するよ」


 ライトがうっかり事実を口にすると、アルバスは苦笑いした。


 そんなアルバスを見てライトも苦笑いしながら謝った。

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