第27話 ここって通販番組のスタジオだっけ?

 呪武器カースウエポン研究クラブの部屋に入ると、そこには女子生徒1人しかいなかった。


 その女子生徒は紺色の髪を肩まで伸ばしており、手には表紙が禍々しい武器の描かれた本があった。


「生徒会書記のドゥラスロールさんと・・・、そちらはどなたですか?」


「はじめまして。本日付けで生徒会庶務になりましたライト=ダーインです。クラスはG1-1です」


「あぁ、貴方が噂のダーインクラブのお医者さんですね。確かに言われてみれば黒髪ですもんね。私は呪武器カースウエポン研究クラブの部長、カッツェ=クラレンスです。C5-1所属です」


聖職者クレリックコースの方が呪武器カースウエポンを研究されてるんですね」


「そうですよ。とはいえ、先輩方が卒業したせいでこのクラブには私1人になってしまいましたが」


 ライトはその発言を聞いて首を傾げた。


「ヒルダ、クラブって1人でも認められるの?」


「このクラブは籍だけ置いてる幽霊部員が多いの。だから、実際の活動人数はクラレンスさんだけなんだけど存続が認められてるんだ」


「それ、他の廃部ギリギリのクラブから妬まれない?」


「ここに籍だけ置いてるのって、守護者ガーディアンコースの人なんだよね。それが理由で妬まれることはないかな」


「どうして?」


守護者ガーディアンコースの生徒って卒業後は守護者ガーディアンになる人がほとんどだから、呪武器カースウエポンを手に入れた時のために必要な時だけここを利用するんだ。呪武器カースウエポンを使ってアンデッドと戦ってくれるなら、妬みだけが理由で廃部にできないでしょ?」


「なるほど」


 呪武器カースウエポン研究クラブが存続できている理由を知り、ライトは納得した。


「という訳で、普段は私1人で呪武器カースウエポンの研究に勤しんでるんです」


「クラレンスさんの研究テーマはなんですか?」


「・・・それ、聞いちゃいます?」


「はい」


「では、答えて差し上げましょう。ズバリ、私の研究テーマは呪武器カースウエポンができる原因についてです」


呪武器カースウエポンができる原因ですか?」


 そう言われてみると、ライトは呪武器カースウエポンがどうやってできるのか知らないことに気づいた。


 呪武器カースウエポンとは呪われた武器、あるいはアンデッドによって汚染された武器という認識であり、それ以上のことは考えていなかったのだ。


「その通りです。通説では2通りあると言われてます。1つ目は使い手が非業の死を遂げた時、その傍らにある武器が呪武器カースウエポンになるというもの。2つ目は強力なアンデッドを倒した時、近くにある武器が呪武器カースウエポンになるというもの。このどちらかです」


「何か法則性はあるんですか?」


「良い質問ですね。後者がもしも討伐されたアンデッドの怨念によるものであれば、2通りの呪武器カースウエポンへの変化には負の感情が必要であることになります」


「負の感情というと怒りや憎しみですか?」


「その他にも妬み嫉み恨み等々です。私が解き明かしたいと考えてるのは、どの程度の負の感情によって武器が呪武器カースウエポンに変化するのかです。負の感情の定量化ができれば、比較的デメリットの少ない呪武器カースウエポンを作れるかもしれませんからね」


 カッツェの話を聞き、ライトは素直に感心した。


 今、自分の右腕に嵌まっているダーインスレイヴも呪武器カースウエポンであり、その成り立ちが少しだけでもわかったからだ。


「興味深い試みですね。デメリットの少ない呪武器カースウエポンであれば、それを使って体調を崩す人が減るかもしれません」


「そうなんです! ダーイン君、素晴らしいです! 私の考え、よくぞわかってくれました!」


 ライトが自分と同じ考えに至ったことに感激してカッツェは勢いよく立ち上がり、それどころか興奮のあまりライトと握手しようとした。


 しかし、それはヒルダがインターセプトした。


「クラレンスさん、ライトに近づき過ぎです。離れて下さい」


「おっと、失礼しました」


 ヒルダが割って入ったことで、カッツェが落ち着きを取り戻したタイミングでライトが再び燃料を投下した。


「そういえば、昔、叔父様のティルフィングを浄化したことがあるんです」


「ティルフィング!?」


「ラ~イ~ト~」


「あっ、ごめん」


 興奮したカッツェを抑え込みつつ、ヒルダはライトにジト目を向けた。


 ライトも余計なことを口にしてしまったと瞬時に気づいて素直に謝った。


「教皇様専用の大剣ティルフィングを浄化したんですか!? どうやって!?」


「落ち着いて下さい」


「落ち着いてる場合じゃありません!」


「・・・はぁ。クラレンスさん、失礼します」


 ドサリ。


 一向に落ち着きを取り戻さないカッツェに対し、ヒルダは溜息をつくとその後方に回り込み、首に手刀を当てて気絶させた。


 そして、仮眠用ベッドがあったので気絶したカッツェをそこに運んで寝かせた。


 それが終わると、ヒルダはライトにジト目を向けた。


「ライト、反省しようね」


「ごめん。つい、話が面白くて」


「ライトの興味が多分野に渡るのは知ってるけど、私以外の女がライトに寄る原因をライトが作るのは良くないと思うんだ」


「注意するよ。今のだってカッツェさんに近づきたいとかそんな感情はなかったんだ」


「うん、そうして。今日だって泥棒猫が媚び売ってたし」


「泥棒猫って言い方は良くないよ。大丈夫。僕、ヒルダと婚約してからヒルダしか見てないし」


「・・・もう、ライトってば。許す♡」


 悪くなっていたヒルダの機嫌もライトの言葉を聞いてすっかり良くなった。


 それから、ライト達は呪武器カースウエポン研究クラブの部屋を出て最後の道具アイテム作成クラブの部屋へと移動した。


 呪武器カースウエポン研究クラブとは違って道具アイテム作成クラブの部屋には大勢の生徒が集まり、見学している新入生に対して部員が説明をしていた。


「はい、こちらを見て下さい。こんなシンクの頑固な水垢を見たらうんざりしませんか? そんな時、この液体石鹸キュキュリを使えば・・・。ほ~ら、ほら! サッと擦るだけでシンクがピカピカです!」


「ここって通販番組のスタジオだっけ?」


「ライト、何言ってるの? 通販番組とかスタジオってなんのこと?」


「ごめん、なんでもない」


 前世の記憶からうっかり口にしてしまったが、今のニブルヘイムにテレビなんて存在しない。


 だから、通販番組もあるはずがないのにもかかわらず、道具アイテム作成クラブの上級生の実演が通販番組の出演者さながらの喋り方だったせいで誤解してしまった。


「変なライト。それより、ここではどんなものを見たいの?」


「前2つのクラブとは違って完全に僕の趣味なんだけど、僕が見たことのない道具アイテム魔法道具マジックアイテムが見られたら良いなって思ってさ」


「あぁ、そっか。ライトって結構新しい物好きだもんね」


 正直なところを言えば、ライトは新しい物好きという訳でもない。


 ただ、地球で暮らしていた記憶があるせいでそれと比べて文化水準の低いニブルヘイムに窮屈さを感じているだけだ。


 その窮屈さをどうにかするには革新的な道具アイテム魔法道具マジックアイテムが丁度良いので、ダーインクラブにある工房に地球で使っていた物を再現したいとちょくちょく注文していた。


 そのおかげで、ダーインクラブは聖都や他の公爵家が治める領地よりも技術が進んでいたりする。


 それを手紙のやり取りで知っていたから、ヒルダはライトを新しい物好きと言ったのだ。


「新しい物が好きというか、生活を豊かにする道具アイテムが好きなんだよね」


「なるほどね。確かに香り付き石鹸とか送ってくれた時は私も感動したよ。おかげでクラスメイトや生徒会で質問攻めされたけど」


「あはは・・・。でも、香り付き石鹸を知った今となっては貰わない方が良かったなんて思わないでしょ?」


「うん」


 そんな話をしながら、ライトとヒルダは部屋のあちこちで行われる実演をのんびりと見学した。


 新入生達の感嘆の声が聞こえたが、ライトが求めるレベルではなかったので適当なタイミングで切り上げて部屋の外に出た。


「ライト、この後どうする? まだ時間はあるけど他のクラブに行ってみる? それとも生徒会室に戻る?」


「生徒会室に戻るよ。よくよく考えたら、僕が仕事を終わらせたら生徒会室で何やってても自由なんだよね?」


「勿論だよ。でも、何をするつもりなの?」


「ちょっとね。魔法系スキルの研究でもしようかなって」


 ライトの発言を聞いてヒルダは首を傾げた。


「あれ、ライトって<法術>以外に魔法系スキル持ってたっけ?」


「持ってないよ。でも、ヒルダは<水魔法>を持ってるでしょ?」


「私も研究に協力すれば良いんだね?」


「お願いできる? 上手くいけばヒルダの役にも立つからさ」


「任せてよ。私、ライトの婚約者だもん。ライトに頼ってもらえるだけで十分嬉しいよ」


「ありがとう、ヒルダ。そろそろ生徒会室に戻ろっか」


「うん」


 ライトとヒルダは見学を終えて生徒会室へと戻った。

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