第15話 乗るしかねえっしょ。このビッグウェーブに
ヒルダは目を覚ますと、ライトにずっと抱き着いたまま気絶してしまっていたと気づいてライトに謝った。
「ご、ごめんねライト」
「いや、ヒルダは悪くないよ。僕はヒルダみたいに先々まで考えてなかった。だから、僕の分までしっかり考えてくれてたってわかって嬉しいよ」
「ライト~」
ヒルダはライトにフォローされて恥ずかしい反面、ライトから家族計画の立案許可の言質を取ったことで嬉しくも思った。
「それでさ、ヒルダが気を失う前の話に戻るけど、
「う~ん、自分と違うコースのことってあんまりわからないんだよね」
「そりゃそうだよね」
「あっ、でも、アンデッドの特徴を学ぶ以外に1年目はヘル様へのお祈りや教会のお仕事の手伝いをするって聞いたことあるよ」
「えっ、何それ。領民の治療とかアンデッドを昇天させる研究とかはできないの?」
「講義ではそういう内容はなかったと思う」
「・・・そうなんだ」
期待している内容がなかったことでライトのテンションが下がった。
「で、でも、ライトがやりたいことはクラブ活動でできると思うよ」
「クラブ活動?」
クラブ活動と聞いて、地球からの転生者であるライトは学校で放課後の時間を利用するクラブ活動をイメージした。
転生してから今までの間、ライトがサッカーや野球のような球技、陸上競技や柔道のような体を使った競技を目にしたことはない。
だから、イメージしたクラブ活動は体育会系ではなく文化系に分類されるものだと思っている。
「放課後にね、卒業後の生活に役立ちそうなことに取り組めるの。ちなみに、私とイルミは
「
「うん。
「強制ではないんだよね?」
「強制じゃないけど入ってないと変な目で見られるかな。例外は生徒会への入会だけだったはず」
「うわっ、それって明文化してないだけで強制と同義じゃん。強いられる空気に身を置くのは嫌いだよ」
「アハハ・・・。ライトには向いてないかな」
ライトが嫌そうな顔をすると、ヒルダは苦笑いした。
ヒルダ自身は
しかし、ライトは元日本人なので、強制とは明文化されていないが実質強制という
ブラック企業では残業が
元ブラック企業の社員だった記憶が、ライトに
ヒルダが苦笑いしていることに気づくと、ライトは小さく咳払いした。
「ごめん、ヒルダ。ちょっと熱くなっちゃった」
「ううん。ライトっていつも落ち着いてるから、ライトの嫌いなことが知れて良かったよ。もしもそれを知らずにライトの嫌いなことをしちゃったら、ライトに嫌われちゃうでしょ?」
「気を遣わせちゃったよね? ごめん」
「謝らないで。ライトは悪いことをした訳じゃないもん。それよりもありがとうってお礼を言ってくれた方が私は嬉しいな」
「・・・わかった。ヒルダ、気を遣ってくれてありがとう」
「うん!」
ヒルダが嬉しそうに笑い、ライトを抱き締める力が少し強まった。
そこに廊下を走る音が聞こえ、ライト達の部屋の前でピタリと止まった。
その足音の主は考えるまでもなくイルミだった。
「ヒルダ、いた! よくも私だけシスター・マリアに捕まるようにしたね!」
「・・・なんだ、もう来ちゃったんだ」
「もうって何よ!? 私、1時間ぶっ通しでお説教されたんだけど!?」
「もっと怒られれば良かったのに」
「ライト~、ヒルダがお姉ちゃんを虐めるんだよ~」
ヒルダの自分への対応が冷たいので、イルミはライトに助けを求めた。
ヒルダの婚約者であると同時に自分の弟でもあるのだから、ライトが自分の味方をすればヒルダは自分に謝らざるを得ないと理解しての行動だ。
「ライト、イルミに耳を貸さないで。私、イルミを虐めたりしてないもん。ライトと2人きりで会う邪魔をされそうだったから、事前に排除しただけだよ?」
「ヒルダ・・・」
ヒルダの言い分を聞いてイルミは戦慄した。
今のイルミははしょっちゅう模擬戦を挑む戦闘馬鹿だ。
そうだとしても、イルミをやり込めるためにシスター・マリアを利用することは思いつかなかったのでライトも若干引いていた。
「ラ、ライト、どうしてそんな顔をするの? 私、怖くないよ?」
「う、うん、そうだね」
「ライト? 怖くないよ? 本当だよ?」
「いやいやめっちゃ怖いよね。私のことを陥れて自分だけライトの所に走っていくなんて、とんだ性悪だよ」
「は? イルミ、ライトの前で私の悪口言うの止めてくれる?」
「えっ、事実だよ? ライト、お姉ちゃんは間違ったこと言った?」
「ライト?」
「ライト?」
ヒルダとイルミからどっちの味方なんだという目線を向けられ、ライトは困った。
ヒルダの味方をしてもイルミの味方をしても、面倒な展開は不可避だ。
このタイミングで何を言っても状況が良くなるビジョンが見えず、ライトは必死に頭を回転させた。
その時、ライトを救う
「若様、イルミ様、ヒルダ様、入ってもよろしいでしょうか?」
アンジェラがこの場に入ってくれれば、ヒルダとイルミのピリついた空気がマシになると思ってライトはすぐに返事をした。
「良いよ」
「失礼します。お茶とお菓子をお持ちしました」
「ありがとう」
「それと、お二方に白衣を着た所をお見せしてはどうでしょうか? 今、お持ちしておりますがいかがしますか?」
そう言われた途端、ライトはピンと来た。
これはアンジェラが自分をヒルダとイルミから助け出すために介入してくれたのだと。
(乗るしかねえっしょ。このビッグウェーブに)
そう思ったライトはすぐに頷いた。
「そうだね。折角ヒルダもイルミ姉ちゃんもいるし、まずは2人に見てもらおうかな」
「かしこまりました。では、イルミ様、ヒルダ様、ライト様にお着換えいただきますので、少しだけ部屋の外でお待ちいただけませんか?」
「はーい」
「わかったわ」
アンジェラの申し出に対し、イルミとヒルダは了承して部屋の外に出た。
すると、アンジェラがライトに近づいて小声で話しかけた。
「どうですか、若様? 私、良い仕事したと思いませんか?」
「ここ以外考えられないってぐらい、ベストなタイミングだったな」
「それは勿論若様の専属メイドとして盗ちょ・・・、いえ、控えておりましたので」
「おい、今、盗聴って言いかけたろ? 一体何をどこに仕込んだ?」
「そ、そんな、仕込むだなんていやらしいですね。それなら私に子種を仕込んで下さい。デュフフ」
「感謝した気持ちを返せ、この変態ショタコンメイド」
「ありがとうございます!」
「感謝しちゃったよ」
「前にも申し上げました通り、我々の業界ではライト様からの蔑みの言葉はご褒美です」
「これがなければ言うことなしの最高のメイドなんだけどなぁ」
変態ショタコンメイドと言われて感謝するアンジェラを見て、ライトは養豚場の豚を見るような目を向けた。
しかし、外でヒルダとイルミが待っているので、ライトは白衣をすぐに羽織って2人を部屋の中に呼び戻した。
ライトの白衣姿を見て、ヒルダとイルミはライトを賛辞した。
どうにかアンジェラが来る前の重い空気が変わったため、ライトはホッとした。
それからしばらくして、学生寮の門限になったのでヒルダとイルミは帰って行った。
その後、ライトはパーシーとエリザベスに合流してローランドの屋敷に1泊した。
翌日、ライト達はセイントジョーカーを後にしてダーインクラブへと帰った。
今回のセイントジョーカー訪問で、ライトはヒルダから教会学校の内情を知ることができた。
その情報をふまえ、ライトは自分が入学する時に何をするのか決め、それに向けて入学までの時間を有効に使うのだった。
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