第39話 蛇淫の力

よしよし、上手く領主代行をジェドに押し付けたぞ。


まあ、定期的に連絡を取ることは強制されたが、こそこそと隠れているより、ずっとまし。それに俺だって実家の事は気になってたし・・・戻らないけどさ。


ナナミは想定内だと納得してるし、イルガーさんとドローウィッシュさんは驚いてたけど、俺が貴族でも平民でもどっちでもいいらしい、助かるよな、こういう人達。


あと、屋敷の使用人達には、ジェドの領主代行中、俺は他領も含めた視察中となった。

元々、呪術によって記憶があいまいな部分があったらしく、多少の話の無理は押し通した。


さあ、冒険の続きだ! といきたいところだが、


これ、どうしよう?   蛇人さん。

俺、全く関わってないのに、ナナミの奴が押し付けやがった。ちくしょー。


イルガーさんが、蛇人は良くも悪くも情が深い、悪く言えば執念深いなんて言うから、ナナミがあなたを助けたのは俺だとぬかしやがった、コノヤロー。


そして、懐かれている、めっちゃ懐かれているんだ。

目と耳の傷は呪術によって付けられていたので、今は塞がり、見た目もほとんど人になっている。


獣化が出来るタイプの人らしい。獣化というのはその名の通り、獣人が人よりも獣に近い姿になることで、足が速くなったり、目や耳が良くなったり、能力も様々に変化することだ。


そして、蛇人のシンシアさん、めっちゃ美人。肩までの黒髪に赤い瞳、白い肌にぷっくりとした紅い唇、妖艶って言葉がぴったりな美人さん。


そこまではいいんだ、だがな、蛇淫の性ってなんだよ!   

主様、どうか契りをって怖いわ、


しかも、だ、誓いを交わして契ると、24時間フルマラソンHって、どういう事? 死ぬわ、普通に。寝ることも許されず、ひたすら、交わり続ける? そりゃあ、もう、干からびて力尽きるだろう、


異世界でハーレム、いいよね、夢があるよ、うん。

異世界で性奴隷、夢も希望もないよね。   泣くよ、もう、俺、


ヘタレでいいんです。自慢の息子一本で、世界の頂点目指してませんから。半泣きの俺に、笑うナナミ、無言のイルガーさんと、ドローウィッシュさん。 お茶をすする猫又達。   誰か、助けて。


あまりにも俺が拒否するので、一歩下がるシンシアさん、やっとあきらめてくれたかと思ったら、 なんと、なんと、男に変わりやがった!!  はああああ、どうなってんの?


主様がそれほど嫌がるのは、女だからなのかと、ならばと、男になったらしい、余計な気遣い要りませんから。女が好きです、女がいいんです。


お願い、それ以上近づかないで、男になってもその美貌と色気、シンと呼んでくれとか、聞いて無いし望んでないんです。


体力には自信があるから任せてくれとか、貴方の体力、心配してません、俺の体力とメンタルが心配なんです!


どうしても、と拒む俺に出された妥協案が、主従の誓いだ。


それさえも拒まれるようでは自害すると、


なんで?   好きに生きようよ、せっかく呪術の縛りがなくなって、自由に生きられるんだよ、死ぬよりも酷い状況から救ってくれた、ならば、死ぬまで尽くす、と、   なんでだよ、俺じゃねーし、


そうだよ! 俺じゃないじゃん、あまりの状況に忘れてたけど、あなたが死ぬまで尽くすのは俺じゃないから。

そう、正直に言ったのに、ちらっと、ナナミを見て、彼女の魔力量も凄いが、俺のは魔力量は桁違いだと、だから、下手な嘘はつかなくて欲しい、と言われてしまった。



ぬおおおおう、俺の魔力量増えてたよ、そう言えば、って、俺の魔力量わかるんかい! ・・・・わかるらしい、・・・終わった、俺の人生。


蛇淫の誓いがフルマラソンなら、主従の誓いは何だときいてみたら、血を啜るのだと、・・・・なんで、そんな怖いのばっかなの?   


主から許しを得て、精気と共に血を体内に取り込み相手に仕えることを誓うそうだ。   


重い、重いよ、


そんな恍惚とした顔で言わないで、男の姿でも色気ダダ洩れですから、ほら、あのナナミまで、シンさん見て顔が赤くなってるよ、なんなの、この人?  もう、やだ。


だから、それ以上、近寄らないで下さい、お願いですから。


どうにもならない修羅場が続くなか、オブジェとなっていたイルガーさんが近づいてきた。助けて、イルガーさん、そんな涙目の俺を無視して、蛇人さんに近づいていく。


「お主、シンか?」    えっ、知り合い?   まさかの、


「なんじゃ、イルガーか、我は今忙しい。」


はあああ、と盛大なため息をついて、

「ダイチ、あきらめろ、相手が悪すぎる、主従の誓いでもいいならとっとと契れ。」


そんな、酷い!    


イルガーさんは俺の肩をガシッと掴み必死の形相になっている。


「いいか、ダイチ、よく聞け、こいつは既に発情してる、このまま放って、理性がぶっ飛んだままのこいつに襲われたら、命の保証は無い!お前の精気を喰らい尽くすぞ。」


死亡確定?!  ヤダ、そんなの、  フルフルと頭を振る。


「こいつは蛇人のイリーガル種だ、性欲が強すぎて大抵の場合は、相手を滅ぼしちまうんだよ、そんで自分もぶっ壊れる、それが分かってるから、こいつも主従の誓いと言ってるんだ、早く、血を吸わせろ。」


「・・・どうやって?」


呆然としている俺の腕を掴み、シンさんの前に突き出す。


「お前が一言、許す、と言えばいい。」

「・・・・・許す。」


キシャアアア、かすれるような擦過(さっか)音がかすかに聞こえ、ガブリと腕を噛まれた。


反射的にビクッ となってしまうが、痛くない。

ただ、どくどくと血が流れる感じが伝わってくるだけだ。

一滴の血も流れず、痛みもない、不思議な感覚を感じていると、不意にめまいを覚えてぐらりと体が揺れる。


慌てて、側にいたイルガーさんが俺の体を支え、ようとして、横からシンさんに奪われた。


抱きかかえられ、自分の腕を見ると、赤い二つの点があったが、一撫でされると見えなくなった。


シンさん、顔めっちゃ近い! スッゲー、艶々してるし、ああ、なんか、もう、どうでもいいか、


「シン、少し離れろ、お前はいろいろ危なすぎんだよ。」


「ああ、イルガーか、長い我が人生で初めて満たされた、満足だ。

これほど美味な血は味わったことが無い、我が仕えるにふさわしい。

魔力も極めて質が高く、深みのある味わいの中に残る甘み、そして、わずかな苦みが豊潤さを湛えて・・・」


「あー、そんなんどうでもいいから、正気に戻れや、めんどくせーから。」


「全く、同じ獣人なのに、優雅さのかけらもないな、君は。」


「そんなもん、いらねーし。」


やれやれと、肩をすくめて落とす視線の一つにも色気が零れる。


生まつきのタラシか? そうなのか? 前髪掻き揚げたら似合いそうだよな、おいっ。

そんな、ダイチの気持ちには全く気付かず、ダイチをそっとソファーにかけさせ、その前に跪く。


「主様、お許しを得て、お情け(血と精気)をいただき、これより先、身も心も主様に捧げる栄誉を与えていただきましたことを深謝し、この命尽きるまでお側におりますことをどうぞお許し下さい。」


満ち足りたシンさんに、なんて答えたのか、俺には記憶が無い。



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