第12話 神様認定

要するに、人気が無さすぎて人が集まらず、無くなる寸前だった。 


「出現した魔物が手強すぎてのお、だんだん人が来なくなり忘れられたのじゃよ」


 まあ、最初からあんまり強いとくじけちゃうよな。と黙ってきいていると、

 独り言のように、ぽつぽつとしゃべりだし、


「1階層なのにのう、ゴーレムが出たのじゃ。変異種で社畜ゴーレムとなっておった。催眠効果があってのお、急激な眠りに襲われるが寝ると電気ショックで無理やり起こされ、それが体力の限界まで続くのじゃ。」


 怖すぎる‥‥そんなの嫌だよ。しかも、ゴーレムってだいたいドロップ率も低いし、ドロップ品もしょぼいから、そりゃあ、人気ないだろう。


 その上、過労死したマスターが生み出す、社畜ゴーレム、嫌だ。

 戦う前に逃げ出したい。


「わ、妾もこれではまずいと思って、魔物の階層を変更したりはしてみたんじゃが、ダンジョンが生み出す魔物はマスターの意思を反映してランダムに生み出されることも多くてのお、社畜ゴーレムを始め、持ち物を隠したり、壊したりする虐めゴブリン、アンデッドのお局ドールや、全然強くはないんじゃが、気配がつかみにくく、人の欠点を指摘して笑う、陰口(シャドウマウス)のせいで仲間同士での喧嘩が起きるとか…なぜか変異種ばかり出現してのう…」


 過ぎ去った日々を思い出し、遠い目をして語るマスター・ミハル。


「即死効果はなくとも、無駄に疲れる魔物が多くてのう、おまけにドロップ品キュウヨもしょぼかったのじゃ。しょーもない。」



 どんだけブラックな会社で働いてたんだ。ミハルの内面を現した空間はファンタジー世界の住人に受け入れられることがなく、剣と魔法は現代日本の暗黒に呑み込まれたようだ。


 俺の過去なんて、甘じょっぱいレベルだったな。


「まあ、まあ、過ぎたことはもう良いのじゃ。これからはそなた達の協力を得て、復活すれば良いのじゃから。もちろん、我が力を取り戻した際には、この土地の守り神として十分にそなた達に報いる故、安心して良いぞ。」


 安心する要素が皆無なんですが、それに、


 ……守り神!?

 俺達の驚きをよそに、淡々と話は続く。


「特に秘密ではないのじゃが、ダンジョン・マスターはその土地の守り神でもあるんじゃよ。人々の信仰を集めて己が力と成し、あらゆるものを生み出し、命の循環を繋ぎ、時に奇跡も起こす。ダンジョンに不可能無し。(ダンジョン内に限る)

その土地に恵みをもたらす土地神なのじゃ。あまり知られてはおらぬようじゃがな、どうじゃ ”神” を崇めてみるか?   信者1号として優遇してやっても良いぞう。」


 確かにダンジョンの不思議は説明出来ないものが多い。けどさ、

 信者1号ってなんだよ、やらねーよ。


 このちびっ子が神様って…、尊く…ないし。


 不可能無しって、死にかけてんだよな? うん、崇めるのは無理だな。


「そんな事よりさ、なんで姿が変えられるの? どっちが本当、なんでネコなの」


 神様宣言を”そんな事”でスルーして、当たり前のように話をすすめるナナミが主導権を握る。


「もともとが精神体じゃからのう、どんな姿も可能なのじゃ。じゃから、最下層にある水晶や魔石、ドラゴンの核がダンジョン・コアだったりしておるし。」


 ファンタジー要素が盛り沢山の話の展開に、ナナミはノリノリである。


 ずっと、ボッチだったのでちょっと寂しくなって使役神をつくったが、人型を造るには魔力が足りず、自分と相性が良いのがネコだったので、一緒にネコ姿でお昼寝とかしてるらしい。


 ネコタイプの使役神。ネコ型ロボットでは無かった。


 ナナミのお願いで、使役神【猫又八人衆】を呼び出したら、八匹の猫がナナミの前にチョコンと現れて、

「どうか、ご主人様を助けて欲しいんだニャ、」とウルウルした瞳で見つめられ、

「お願いいたしますニャ。」と八匹がきれいに頭を下げた。


「キャー、可愛すぎる!!」 


 両手で抱え込んで、余すことなくもふもふを堪能して、スリスリしている。

 猫にまたたび。ナナミにもふもふ。  


 デキルお姉さまキャラだが、実は可愛いものが大好き。

 自分が身につけるものはシンプルなものを選ぶが、動物系癒しには弱かった。


 いきなり異世界に転生し、ハードモードな日々を送ったナナミはもふもふの欲に溺れ、我が身を投げ出す。人目も憚らない欲望全開の浅ましい姿に、さすがのマスター・ミハルも、若干引き気味だが、これで、ナナミは落ちたも同然。あとは、


「のう、ダイチ殿、明日も二人で訪れてくれれば、その翌日には2階層のドロップ品で好きなものを用意できるがどうじゃ?まあ。なんじゃ、好きなものというてものう、まだ2階層なので大したものは用意で出来んが、お主、料理が好きなのじゃろう、日本の食材、調味料などであれば用意できるがどうじゃ」


「マジで!!!」

「えっ、本当に、醤油や味噌、海苔にお米、砂糖が手に入るのか!?」

「もちろんじゃ、神に不可能は無い。」

「スゲー!、神様万歳、ダンジョンって素晴らしい!! 神様ありがとう。」


 それは、ミハルが神として認められた瞬間であった。

 どこまでもダイチはチョロい。


「あっ、でも、俺、そんな難易度の高いダンジョンクリア出来るかな。」


「気に病むでない、我も長き年月により搾取され続けた会社への恨み・辛みは浄化されたわ。罪を憎んで人を憎まずじゃな。我が負の気を巻き散らかした事により、この地は荒れ、更に人が近づかなくなってしもうた。最初はスライムやゴブリンしか、配置せぬよ。安心せい。」


 ダンジョンはどうしてもマスターの意思を反映してしまう。マスターが創造主であり、全てなのだ。カマッテスネークは、ミハルの寂しさが生み出した魔物の一つだった。


 そして、日本の食文化を思い出し、ダイチのおかげで味わうことが出来そうだと、心の中でガッツポーズを決めたミハルだった。

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