27 収束 (2)
──イカロス・システム。
暴走、破滅の概念を内包するものが何故、利用されていたかは…今、私を作る香取詩杏の中より回答を得ました──
特異点・ウザイン・ナリキンバーグ。
貴方は我が子を救い、再び羽ばたかせようとするダイダロスの翼の化身です。
逆説的ですが、転生しきれず千年前に割けて散ったスバルの魂を、自らの聖女の血統に再び収束させるための鉛の羽の鋳型。
妻・香取詩杏が起点の特異点となり、我が子再誕のためにこの世界へ撒いた事象の種を集わせる、終わりの特異点として…夫・宇佐美博の個性を再生し、転生に似た形で生まれました。
──乙姫先生は、彼と同じ特異点の性質に引きずられて誕生したのでしょうね…
ただ、溶かしたはずの妄執の想いだけを強く残して──
……俺の脳裏に、ツララのものと思える意識が流れてくる。
──貴方の意識の変化でシステムへの侵食度 が一気に変わっただけです。
数値に直すと、79%といったところでしょうか──
……その数値とかシステムとか、この状況に関係あるのか?
こんな適当な、夢か妄想みたいな異世界にっ!
──関係する、と貴方たちが決めました。
物事は意識的に変化が可能ですが、変えるということは、変えられないためのルールも存在し、普段はそちらが優勢でなければなりません。
今の人の概念で言えば、それがシステムといった意識外で動くものなんでしょう。
ブログラム・システム。社会システム。生理機能のシステム。個人の意識の関わらない大きな、運命と言い換えたいルールを、あなた方三名は…そう決めた。
──特異点・ウザイン…いえ、もう宇佐美博としての貴方に近い“誰かさん”。
貴方は、貴女は、アナタは、この世界への転生を望みますか?
二千年前は聞くこともできず、千年前は聞く機会を失い、今ようやくの、アナタのママからの伝言です。
もうひとつ。強引で傲慢なパパが半分勝手に連れてっちゃって、ゴメンね…だそうですよ。
ツララの言葉に、俺の中から何かが動こうとしている。
いや、動いた。
それは意思の言葉だ。
『ママは?』
それだけの意味の、意思。
──香取…いえ、宇佐美詩杏は現在、ICUにて治療中。危険状況は脱していますが、昏睡状態からは回復していません──
……ツララらしいっちゃらしいが…その応えの中に詩杏の意思も内包していた。
──ママはスバルのところに行けないの…ゴメンね──
それはちゃんと伝わった。
今、俺の中の昴は悲しみの感情を爆発させている。
また、俺は別の部分に驚いていた。
現実の詩杏は、あの事故の日からまだ九日程しか経過していない。
──現実の世界に輪廻のシステムが存在する以上、宇佐美詩杏の、現時点での生存は確定しています。
向こうの時間で明日以降の生存の保証まではありませんが、それだけでも、私たちと同じ輪廻の行程からは外れてしまいました。
うん。
詩杏が昏睡中の間に、俺たちは初七日を終えて弔われ、正式に死亡と扱われている。
現代葬式は結構適当だが、それでも儀式としては成立するんだろう、
──ただし、昏睡状態の宇佐美詩杏は宇佐美博、音無夕姫の残留思念とも呼べる意識の残骸と共鳴融合して、この世界の基礎を作ってもいます。
こちらは…そうですね…現実の概念で幽界と呼んでいるような場所に存在を確定させた立派な異世界です。
宇佐美詩杏の意識の覚醒と共にリンクは切れますが、今は彼女の意識がこの世界を大きく変化させることも可能なのです。
むしろ、今の彼女にとっては、こちらが現実ならばと願っているからこその、この世界の濃密さでしょう。
つまり、詩杏は目覚めたら、この世界の俺達のことは、忘れる?
──夢としてなら、記憶には残るでしょう。
その記憶を夢に区切るか、本当にあったことと囚われるかは…彼女次第かと。
トリシアとして、この世界でやった用意周到さからすると…きっちり気持ちの区別はつけそうだけどな。
──普段から無茶をしがちな伴侶のせいで、そういった下支えに熟考するよう鍛えられたのですが?
…すいません。
ダメな夫で本当に…すみません、でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます