18 飯テロは秘かに… (1)
さて、周囲が賑やかしくなってきたことで、時刻が昼近くなのだと知った俺。
学生たちが貴族用、平民用と別れた食事の場へと移動する様子を見て、俺も何か少し小腹に入れとくかと移動することにした。
「リースベルも一緒に行くか?」
「ん、ゴチになるのん」
元よりそのつもり。というかリースベルに遠慮の精神は期待していない。
こちとら前世も含めて成金気質だったとか知った以上、今さら自重の意識をもっても逆に無理だという気分が強くなっている。
「とはいえ……自前のケータリングは図書館に置きっぱなしか」
現状、図書館はツララより出禁をくらっている。
あの流れだと明日まではダメな感じなので、今日いっぱいは別の手段を用意しないと面倒だろうねぇ。
「とはいって、学内の設備は使う気になれないしなぁ」
貴族用のは行けば寄って来るタカリ屋が後を絶たないし、平民用のは単純に混雑していて近寄り難い。
学生食堂よろしく、リーズナブルに栄養満点の食事を得られる場は庶民に大人気なのである。
……実のところ、貴族用も平民用もメニューの質に大差無いのは公然の秘密。
違うとこは食器の質や環境、サービスの類のみ。
平民の方は当事者が動ければいい空間配置になっているのに対し、貴族用は召使いやお付きの人員も含めて行動できるよう広めになっている。
その程度、ではあるんだけどね。
……と、メイドに先導される形でフラウシアが合流してきた。
どうやら彼女の授業も終わったと。
というか……さも当然と案内してくるメイド隊。どうやってこっちの居場所の情報を共有してんだか……?
「………………」
「おう、暇になったタイミングでリースベルとは偶然合流してな、そのまま時間を潰していた」
俺とリースベルを交互に見比べ、小首を傾げるフラウ語に何時もの返答。
俺の予定は予め伝えてあるが、たぶんフラウとリースベルで共有してる互いの予定とは合致しない部分もあっての疑問なんだろう。
こうして何時もの集団になったなら、少し街中へと足を伸ばすのも良いかもな。
最近カンヅメっぽい日常でもあったし。
……支店でプールで水着観賞三昧? 知らんなぁ。
「さて、行くとは決めたが、俺もそう詳しいわけじゃ無いんだよな」
「じゃあウチが御贔屓のとこ行くなん」
「…………」
俺はそれなりに王都内を動いてはいるが、基本は自分とこの支店と別邸との間を馬車で移動するのみ。
お忍び行動も試した事はあるが、一度か二度で……しかもろくな結果になってないんでもう止めている。
その結果の一つであるリースベル。最初の出会いが正に市場での買い食いだったというものなのだし、俺よりは詳しいという話にもうなずける。
「器神兵で出禁くらったお店の数々、今度こそリベンジなのん!」
「リースベル、“御贔屓”って意味を知ってるか?」
器神兵……まぁ全身甲冑を着ててもゾンビはゾンビ。控えめな悪臭つきのお客には入店をご遠慮願う店舗の対応にむしろ好感がもてるというものだ。
「一生のうちに一度は行って食べたらシェフ呼びつけて“褒め称えるリスト”の対象にすることなん!」
「……どうしよう、微妙に合ってる気がする……」
いやいや、言いくるめられるな、俺。
要するにリースベルは、これを機会に美味いものトライアスロンでもする気だぞ。
リースベルは普段、戦神神殿の言い付けで部活……というかオプション武装の器神兵を連れて歩くのが決められている。
例外は学内での学生行動と、何故か俺と一緒の時だけは単身で良いというもの。
まぁ、俺と共になら結果的にメイド隊も引き連れての大移動だからな。大所帯なら彼女の安否も心配要らないって腹なのかもしれない。
……が、それを自覚したリースベルは俺と一緒なら常在戦場ならぬ常在バイキング会場と思い込んでる節もある。
別に金がぁ~とか嘆く気は無いが、食後のリースベルは高い確率で下っ腹がポッコリと膨れあがってる姿になるので……なんとも、その後の周囲の視線が零下なのだ。
……ちなみに、この実例は学内での話な。
見ず知らずの女子学生と廊下をすれ違う時の蔑みの視線を……ご褒美です! と言えるほどに俺の心は堕ちて無いので。
「まぁ、最初は全員が堪能できそうなとこを頼む」
未来のリースベルのイカっ腹は避けられないにしても、まずは普通の人枠のフラウシアが大丈夫なとこにしないと。
あと、女子基準で初っぱなからデザート系に突入ってのも避けないと……
……おや、案外と前提条件が多いな。
まぁ、ともかく。
こうしてる間にも準備はしてくれてるだろう馬車に乗るため、俺たちは移動することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます