48 ダンジョンアタック・根回し
予定の時間の10分前……は何となく不穏を感じたので20分前に現地入り。
案の定、ちょうどリリィティア様と出会すタイミングになった。
今回は彼女も魔術士枠で参加らしい。
「ごきげんようウザイン、今日は、なんとも仰々しい姿なのね」
「おはようございます、リリィティア様。どうもリーダーとなる方から本気装備で来るよう言われまして」
「……ああ、あの冒険者先生の指示ですか……(本当に必要? 貴方の性能的に)」
「下級貴族というのは、周囲に要らん不和を蒔かないよう気遣いが要るんです」
前回の様子を知る故か、リリィティア様の指摘が容赦ない。
ただ言葉を潜めての形なので、一応は俺の真の姿(笑)は公言せんでくれるらしい。
そんな俺の今回の恰好。
ついた噓を通すため制服の着用はマスト。
その上に装着するのが自作ミスリル鋼板製のスケイルメイルである。
薄い小さな鋼板を魚の鱗のように重ねた鎧の事で、全身を鋼板で覆う割に動きの拘束度はあまり無い。
鋼板の下地とする物はチェインメイル、
理由は、一番軽くて動きやすいから。
剣は前回使ったのと同じ性能なんだが、今回は成金臭を演出してる金色でケバくて豪華な印象のナックルガードつきのやつだ。
黄金に見えるだけで本当はミスリル製。手首を充分に守れるし、なんなら接近時の殴りに使うのでも良い。
前回と同じスタイルなら確実に使わない無駄武装だがな。
リリィティア様の装備は前回と特に変わってはいない。
彼女の場合すでに何度もダンジョンには潜っているし、自分の装備への試行錯誤も済んでる域なんだろう。
……ふむ。
ここは先人に参考となる意見でも貰いたかな?
「リリィティア様は魔術士のスタイルを固定しているようですが、防御面に関しては何か工夫がおありですか?」
「私ですか? そうねぇ、被害の大きそうな火属性魔術、あとは物理系攻撃に対してのカウンター魔術は装身具として仕込んでありますわ」
「なるほど」
カウンター系の魔術。
それは設定した攻撃を受けた時にオートで発動する反射機能だ。
火系統はただでさえ延焼による二次的ダメージが出やすいし、物理はそのまま致命傷の可能性もある。
それを受ける時点で反射させる形で、結果的に被害自体を減少させる状況になるのだろう。
「……つまり、素の防御性はあまり強化していないのですね」
「それは結局装備の重量化や、維持用の魔力消費を増やしますもの。“普通”の魔術士は、普通、使い切れない魔力を持て余すなんて贅沢とは無縁です。限りある魔力をどう使うかに、ほぼ一生悩むのですよ」
「……なんとも耳の痛い話です」
藪蛇だったー。
というか、俺のコレも一応は努力の成果ではあるんだけどな。
まぁ、育成チートの手段を知る知らないの優劣はあったが。
「愁傷な姿勢を見せるなら、貴方の好意の形が欲しいものです。前回の魔道具でも良いのですよ。操作要らずの守護のゴーレムなど魔術士には最高の守り部です」
「……アレにそこまでの機能があるかは謎なんですが。いや、俺自身が作っといてなんですけどね」
「可愛いだけでも良いではないですか」
「アンタモカイ」
「は?」
「いえ、何でも無いです」
結局、アレの増産で在庫のミスリルが尽きた件。
それでも必要数には足りて無く、実家と支店経由で素材が集まり次第増やす予定になっている。
「しかしまぁ、生存性を上げるのに有用と望まれるなら提供はやぶさかでも。
ただこちらにはもう素材が無いのです。リリィティア様の方で素材を調達なさるなら、その場で即納いたしますよ、はい」
「あら、それは良い事を聞きました」
必要素材の一覧をメモってもらい、受け取り次第渡す約束をする。
魔石に関してはサービスだ。こちらも少し死蔵在庫を減らしたい。
……あ、魔石といえば。
今回の間に合わせというわけでもないですが……
後から思うに、この時の俺は〈ローズマリーの聖女〉の登場人物の保護に過剰に固執していたのだと思う。
リリィティア様の場合は事実上のラスボスで、将来的には倒すか表舞台から退場してもらわんと困る人なんだが……この時点では消えてもらっちゃ非情にヤバい人でもあるから……と……。
で、つい手持ちの便利アイテムを……。
「ウザイン……、貴方、またこんなモノを……」
マニキュア式魔道具、〈
なんとも頭痛を堪える反応は先日のメイド隊と被っていたり。
俺の探知への反応で、リリィティア様の保有魔力が20%ほど増えたのは確認ずみ。
それは当人も体感しているようで、簡単な化粧の手間だけで激変した自分の性能に混乱してるのは態度で解る。……なんとなく。
ちなみにコレは速乾性。定着処置要らずのお手軽仕様にまで改良済みだ。
「試作なので追加の期待は無い方向で。ですが使用感のリサーチを提出してもらえたら助かります。今後の機能改善への参考になりますので」
「……いきなりなセールス姿勢ですわね……」
商人上がりの成金貴族。こういった時の
「今回はダニングス先生の先導ですし、前回とは違う心配があるかもなのでの、保険です」
「……何か、思うところがありそうな様子ですわね?」
「まぁ、あるような無いようなな、不確かなもんなんですがねぇ」
とりあえず、数時間前に感じたダニングスの行動への不審は伝えておこう。
ベテラン冒険者の理性を信用したいが、そのベテランの焦りってのは知れば余計に不安になる。
今回ばかりは慎重派の同志が欲しい。
可能ならば、最期は力尽くで何とかできるくらいに。
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