46 冴えた彩りを君に (4)
異世界ものの物語で主人公が無自覚に規格外のアイテムとか作っちゃって“それは国宝級!”とか叫ばれちゃうテンプレ。
ようやっと、そんなテンプレを経験できた俺。
なんだろう、この新鮮な気持ち。
いや考えてみれば、昔から似たような事はかなりやってたと思うんだけどね。
でも何故か、“やっちまった案件”な感じに脱力される反応が多かったのがね。
やっぱりこう、良かれ悪かれ、人はオーバーアクションで反応された方が良いのだ。
そして、できれば褒める方向が望ましい。
……喜ぼうよ!
国宝級の魔石が最低200個は作れるんだからさぁっ。
市場価値がーとか、有難みの気持ちがーとかはこの際、ちょっと意識の隅にうっちゃってさっ。
「いえウザイン様。その魔石に関してだけは、御館様の判断をお待ちくださいませ」
「あーうん、やっぱりダメなやつだったか」
魔石自体というより、その活用法が致命的なダメな案件らしい。
よく、そういったアイテムを使って魔物の襲来を防ぐ的な結界はファンタジー物の定番で聞く。だが他国からの侵略防止ってのは少し新鮮?
そのあたりの説明を解る範囲で詳しく聞いてみる。
するとまぁ、なんとも物騒な内容だった始末。
この結界の仕様。言葉を飾らない言い方をするなら、誤魔化しようも無い報復兵器って代物だったよ。
例えばウチの国。水の魔石を守り石にしている国の場合。
自国内ならば干ばつの無い自然に優しい環境を維持する効果が続くものだが、これが一転、侵略してきた国土に対しての凶器となる。
端的に言えば、大水害だ。長雨やら河川氾濫、土地の低い地域なら沼と化したり、水に由来する病気が大流行したり。
これらの効果は守り石を置いた国同士ほど効果が凶悪らしく、それ故に下手な侵略戦争などは起こせないのだとか。
だが、そこで待てよと疑問が湧く。
この国には近く戦乱の時代が来る。
具体的には、俺たちが学院を卒業したタイミングでだ。
そういった未来の話は濁した感じで、過去の戦争の例を挙げて問うてみた。
すると答えはちゃんとあったり。
抜け道の条件は大きく二つ。
戦争相手が“正式に”国としてみとめられない存在だった場合。
そして一つの国に複数の守り石が存在する時期の場合た。
最初の例の代表は、隣国だな。
隣国は国を自称しているが、その周辺国にしてみれば国家サイズに膨れただけの山賊と変わらない。交渉や条約を結ぶ可能性は無いでもないが、その効力は無いも同然。約束を守る意識すら無いのだから、こちらにしてみたら無駄手間でしかない。
特に最近では、交渉事の担当は都度違う上に、その上の王すら日替わりで代わる始末だ。
本心からすれば、門前払いで追い返したい存在でしかない。
後の方の例は、守り石に据えた魔石の魔力切れに際し別の魔石に新たな処置を施す時期を言う。
短ければ数十年、長ければ百数十年。そのくらいのスパンで起きる状況らしい。
……となると、数年後がちょうどその時期というわけか。
ちなみに、変わりとなる魔石はちゃんと複数個、王宮の宝物庫に保管されている。
……こういった言い方をすると実は横流し何かでもう無い的なフラグが立ちそうだが、大丈夫。メイド隊の保証に何処まで信憑性があるかは謎だが、一応はそういったことらしい。
で、俺がその対象となる……にしても規格外な魔石を出したもんだから、メイド隊も珍しく慌てたわけか。
今この魔石を素材に守り石へと加工すれば、事実上この国の結界が消える事になるんだからなぁ。
うん、納得だわ。
「……それじゃあ、懸念は物理的に消しといた方が無難か」
適当な受け皿を用意させ、その上に置いた魔石にまた加工を施す。
途端に巨大な魔石は原形を失い、僅かに黄色みを残した粉末の山と化す。
うん、染料にするテスト用だし、こうしときゃ万が一の心配もない。
おいメイド隊、そんな心底残念な顔されてもなぁ。むしろ心配の元凶が消えて安堵してほしいんだけどねぇ。
「それじゃ、試作の再開だ。守り石の件はそのまま親父様に話を上げといてくれ。必要なら改めて魔石は作る」
「う……承りました」
さて、その後。
色付けの工程自体は……成功?
無事に黄色系に寄った〈
単色の彩度の調整でグラデーションも効いたから、他の“属性”の色との工夫で結構多彩に展開できるだろう……。
うん、属性。
黄色が土属性のように、他の属性に染めた色も、それぞれの属性が……切り離せない。
水は青系。風は緑系。火は赤系。
実に解りやすい。地水火風の四属性っぽい配色だ。
聖と闇の魔石が無かったが、それは〈
問題はぁー……その属性成分がそのまま使用者の属性強化、もしくは付与に働きそうな部分。
できたモノの機能的に、今はそう働くんじゃないかなーな予想のもの。そのあたりは――
「――とまぁ、こんな変化が予想されるんで、各自、試用してみた感じをレポートしてくれ」
“承りました”。
メイド隊各員の返事が重なる。
背後に控えるのは三人なんだが、いったい何人分の声だったかなんて聞くのは……野暮なんだろーなぁぁ。
配給するのはとりあえず黄色のみ。
このテストの次は別の色のか。
……あ、色つき魔石は作らんと言ったのに。
舌の根乾かんうちに訂正しとかんとかー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます