19 ダンジョンアタック・お試し (1)

 俺達が準備を整えて戻ったのは20分程度だろう。

 いくらお貴族様でも戦闘準備に1時間も2時間もかれてはいられんし。

 実際のとこ、元から付与魔術で防具扱いの制服の上に軽装防具を着て、適当な武器を腰に佩いただけのものだ。

 俺はショートソード、フラウはワンドをさしている。


「お待たせしました」

「あら、ウザインは剣を?」

「魔術の発動体は指輪にしてますから」


 噓です。

 俺、特に要らんもんで。

 そのあたり誤魔化しが効かなそうなヤンチャを披露はしてるがポーズは大事。

 死ぬまでつき通した噓は当人以外には真実は謎なのだ。

 真実は何時も一つでも、知られなきゃ永久に謎のままである。


「完全に魔術士スタイルはフラウシアだけですか。では私の守護者は一名出します」

「ではこちらはメイドを一名配置します」


 暫定、リリィティア様をリーダーとするパーティ構成は……

 リリィティア様――魔法剣士。

 守護者(リリィティア)――騎士。

 俺――魔法剣士。

 フラウシア――魔術士(神官)。

 リースベル――神官戦士。

 守護者(メイド)――盾兵士。


 ……のような見た目の者。


 完全に物理寄りなのは守護者の二名。

 騎士は防御に秀でた頑丈な装備の者で、盾兵士はその下位互換な印象。

 実際はうちのメイドも多少の魔術は使えるし、リリィティア様の方もそれは同じだろう。

 あくまで、ただの見た目の区別だしな。


 それは俺とリリィティア様も同じで、剣という武装はしてるが戦闘は魔術主体が基本と思う。だってヒースクラフトがリリィティア様に「君は後衛」とか言ってたし。

 フラウシアは、一応神官職を公開してないので魔術士扱い。

 ただ一人、神官戦士として正体を晒してるリースベルのみ神官としても振る舞えるのだが、確か彼女の経歴には“特攻野郎”的な記載があったはずだ。

 果たして……リースベルは回復魔術を使えるのだろうか?

 ここは、聞いておくのが正解かな? というか聞いとかないと拙いか。


 っと。

 そのリースベルが、クイクイと俺の服の裾つまんでの自己申告。


「ウザ兄さん、うち魔術苦手なん。でも壁は任せてな」


 ……はい。物理寄りは三名な解釈に変更と。

 さすが戦神。よく神官職に充ててるな。

 いや、巫女だっけか。

 神官と巫女の違いのとこがよく解らんのだけど、まあ戦いも会話も拳の戦神だしな。


 とりあえず、陣形は前衛に騎士とリースベル。中衛に俺、リリィティア様、その直ぐ後にフラウシア。後衛としてメイド、となる。

 後衛はあくまで背後から不意打ち対応とし、可能な限り基本の陣形での対処で行く。

 一層目は広いフィールド型だし、その程度の入れ替わりに支障は無いだろうな。

 問題は通路型の方だが、これは俺も未見なので何とも言えん。

 まぁ、経験者の騎士とリリィティア様の指示が優先だな。

 頼るにはやや不穏な人員だが、あまり疑念ばかり向けてても仕方が無い。


「さて、では現場に向かいながら話ましょう。道中の移動はこの陣形ですけど、おそらく貴方の開けた穴を下るまでは何も心配は要らないでしょう――」


 陣形と言いつつ、スタスタ進むリリィティア様先導で移動開始という……。

 なんでも、あの一件以降ダンジョン内の環境は大きく変化してるのだとか。

 少なくともフィールド内に居て当然の雑魚魔物が一体も居なくなった可能性は高いらしい。


「――変化前の通常ルートでの確認はほぼ終了したのですけどね――」


 二階層目と三層目に下りる階段は見つかった。そちらのルート踏破情報もあるので、学生と冒険者ギルドから調達した人員で調査中。今のところ不測の事故は起きていない。

 四層目と五層目は、推定だが階段の場所が崩落してるので大穴経由での移動で調査中。やはり事故らしい事故も無く、現在のマップ内容に更新調査の途中ということだ。

 で、やはりここまでの階層に魔物の姿が激減しているのが共通の異変とのこと。


「状況観察に長けた者達の所見では、一時的になのか判別がつきませんが五階層目までのダンジョン化が希薄化しているとの報告が来ています」

「ダンジョン化が希薄化……ですか?」


 ダンジョン自体の情報もよく知らんが、そういった変化は全く知らない話だよ。


「そうですね、似た例を言うとダンジョンを攻略し機能喪失途中の状態に近いそうですね。なんでもダンジョンとただの地形の状態が重なる曖昧な状況なのだとか。申し訳無いですが、これは私も未経験なので――」


 知らない事の伝え聞きはさすがにリリィティア様でも言葉を濁した説明になるか。

 というか、そっちは俺のゲーム脳が思い至る部分がある。

〈ローズマリーの聖女〉ではダンジョンの解釈が大雑把なとこがあるが、ラノベ解釈のダンジョン概念にはテンプレな共通点があるというか?


 ダンジョンは生物説。

 ダンジョン内は魔物の体内のようなもので、多少壊れても再生する内臓のような機能を持つ。成長という感じに拡張もするし、配置を大きく変える事もある。

 そして中で人が死ねば消化のように分解吸収されるなど。


 結局のとこ正体は解ってないが、昔々の冒険者の家庭教師もそんな感じの話はしてたか。


 で、最下層にあるダンジョンの核。〈ダンジョンコア〉を破壊する事でダンジョンは死に、生物的な活動も止んで後は死骸とでもいえる状態になるのだとか。

 腸の内側っぽいのがただの通路に。フィールド型の大半は巨大な空洞になるとかなんとか。


「つまり、俺が大穴開けた階層は一時的な仮死状態か、壊疽えそのような状態になっている?」

「かもしれませんわね。しかし問題は、穴の最下層となる六階層目ですわ」


 六階層目にも穴は開いてるのだが、崩落した瓦礫で大半が埋まってしまっているらしい。土砂や岩は速やかに土魔術などで撤去したのだが、ほんの一部。その下の七階層目と繋がる穴が開通すると、待ってましたとばかりに大量の魔物が出てくるのだとか。

 しかも、本来の七階層の魔物よりも遙かに強力なやつばかり。


 幸い、出てきても六層に留まり、五層目へは上がってこない。

 というか、五層目にきた途端に弱体化し、数時間もすれば死ぬそうだ。


「その状況を確認したので、学院上層部は今対応意見が二分しています。経過観察の派閥と強行偵察の派閥ですね」

「なるほど」


 まぁ、さもありなん。

 当座の危険性が無いと解れば安全策をとりたい気持ちは良く解る。

 対して、瓦礫を隔ててそんな強力な魔物が居るなら、下層域の現状を心配もするのも当然だろう。今は安全でも、何時それが無意味になるかも解らないんだし。


 現在は四層目と五層目の穴の斜面に陣を敷き、防衛隊を置くのと並行して一部の下層に続くルートから有志の強行偵察といったとこらしい。

 メルビアス先輩とブレイクン先輩は偵察隊として定期的に潜っている。つまりは、リリィティア様もだ。


「無為な活動というわけでは無いのですよ。魔物の異変が起きているのは一部のようで、20階層より下は通常と同じなのです。著しい変化は11階層あたりまで、総じて25階層の魔物と同程度の強化であることから、本来の25階層目に何か原因がという推測になっています――」


 まぁ、原因の心当たりは、あの巨大なヤツってか。


「まー、あの時殺った……というよりは諦めさせたって感じだもんなぁ」

「ああ、やはりですか」


 おっと口が滑った。


 で、現在調査は24階層目までは伸びている。

 が、そこで限界にもなっているのだとか。

 学生のトップ層でもここに至れるのは三組程度、他に冒険者のパーティも居るが、まったく無事なのは僅か一組、というか学院の教師をしてる、あの“ダニングス”が率いるとこだけらしい。


「中間階層ということで補給や回復要員が足りないのですよ。なので私が、その宛てを用意し潜るというわけです」

「なるほど……しかし、肝心の私はこのダンジョンが初見であり、階層のショートカットすらも開通していないと」

「そうですね。まあ、そこは通常通り進めば良いだけなのです」

「とはいえ、七階から下25階層レベルの魔物が相手な訳ですが?」

「ウザインなら大丈夫でしょう」

「……そげに軽く言わんでください」


 いかん、なんか段々敬語が厳しくなってきた。


 そんなこんなで、あの大穴が見えてきた。

 俺の記憶では魔法の高熱で焼け固まったクレーターだったんだが、今ではその縁の一角に櫓が組まれ、また簡易のバリケードなども設置してある。

 他にも複数のテントが建てられていて、最前線キャンプといった様相か。


 なんか空気も随分と剣呑のような……?

 でもまぁ、今日は様子見なんだし……あ、待て。

 ここから潜るなら、出る魔物はアレなんだよな。

 25階層相当の強化な魔物。


 ……ちくしょう、早速、言葉のマジックにしてやられたよ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る