34 中間試験 (3)

 粛々と連行されて辿りついたのは……何処だ、ここ?

 いや位置的には理解している。複数棟ある校舎を二つ越えて、おそらくその校舎の中庭と兼用になる実技修練場だ。

 ただ、この場所に来るのは初めてだし、周囲に学生が……チラホラと数人しか居ないので今日に限っちゃ違和感しかない。


 要するに、ここは試験の会場としては使ってなさそうと一目で解るのだし。


「変な場所と思ってるようだが、ここも一応は試験会場だ」

「あれ、そうなんですか?」


 俺の雰囲気を察したのかブレイクン先輩から訂正が来た。


「ここは学院でも成績優秀者を専門に扱う。武技にしろ魔術にしろ、高威力なものは災害と変わらない破壊力がある。それを防護する環境となると、あまり広範囲には設置できんからな」

「ああ、成程」


 すると、ここに居る学生らはこの学院トップのお歴々というわけか。

 そんな視点で見てみると、案の定、全員が高位貴族の出身らしい。

 顔見て名前までは出ないが、来てる制服の高級感ったら物凄いとしか言えない。魔力の反応も感じるから確実に魔道具化もしてるだろう。

 たぶん、そこらの魔術なら汚れ一つ無く防ぐんだろうなぁ。


 俺の視線で向こうも気づくのか、チラリとこちらに視線を合わせる幾人か。

 ブレイクン先輩には興味を持つが、俺の姿が下位貴族と解ると途端に反応が消える。

 まぁ、せいぜい先輩のお付きか手下とか見られてるんだろーなぁ。


 ……で、そろそろ前振りはしとこうか。前情報も無く現地に放り出されても困るし。あと場所柄を考えて、今からでも言葉使いを丁寧に……。


「ところで先輩、“僕”の受ける試験はどのあたりになるのでしょうか?」

「……うっ」

「どうしました?」

「いや、突然妙な言葉使いになったんで、気持ち悪くなった」

「……そりゃ……悪うござんした」

 止めとこう。俺っぽくないらしいし。


「こっちは先輩とたててもらえりゃ普段どおりの口調で構わん。この学院で貴族の建前は不要だ。俺はその姿勢で風紀してるしな」

「了解です、先輩」


「で、お前の問いへの答えだが、もう一つ校舎を越えた先の特別修練場だ。ここはエントランス扱いになっててな、試験の合間に休憩を取れるようにしてある」

「……なる、ほどぉ」


 なんつー優雅な構造でしょう。

 機能面で凄いとか想像してたのの斜め上なやつだった。

 ……まぁ、そんだけ高位貴族の中でも高性能が集う場所なんだろうけど。


 目的地に辿り着く。

 すると前の中庭よりは学生の数もおおく、そしてちょっと学内に合って良いものか悩む規模の荘園としか呼べなさそうなバカっ広い庭園になっていた。


「……おかしい、地理的にありえない広さの空間がある?」

「おお、気づくか」


 気づかいでかっ。

 こっちは絶えず広範囲の魔力結界を敷いている。そうして日々学院内を動いていれば、大まかでも学院の全容は3Dマップのように脳内に記憶できていた。

 探知で使う全体マップも過去に作成しているし、如何に学院の敷地が広かろうと丘や山が庭として存在できる空間は無い。

 ……無かった、はずなのだ。


「ここは成績に関係無く、二学年目の学生に立ち入りを許される当学院所有のダンジョンになる。その一層目がこれだ。空間的に断絶してるので、どんな大魔術でも学院への被害は無い」

「……はぁ、さいですか……」


 あれぇ、〈ローズマリーの聖女〉に出るダンジョンってこんな感じだったっけ?

 確か、王都郊外まで遠足気分で行って、岩のトンネルな洞窟探検をして湧いた魔物を倒しましたってな感じのもんだった記憶なんだが?


「ふん、さすがに驚くか。やっと一矢報いた気分だ」


 ブレイクン先輩、それはちょっと年長者への畏敬の念が霞む態度だよ。


「お前は、実家が実家のせいか古参の傭兵隊長みたいな雰囲気だからなぁ。時々俺の親父よりドスの利いた年寄り臭い印象がある。そうした年相応の反応で少しは安心できるってものだ」

「……それは、正直心に刺さる事実というか」


 俺の反応に先輩は、もう露骨に“自覚ねーのかよっ”な表情の上に後に続くメイドにも確認する始末。

 対してメイドの……何号か知らんけどの対応は“通常運転です”な平然とした態度でやや頭を垂れるのみ。


 ……今日は帰ったら姿見で確認しとこう。

 おかしぞ。ウザインは小物の咬ませ犬。たまに確認する自分の面相は、そんな印象が変わらないやつなはずなのに?


 現着、と思ったのも束の間。今度はダンジョン内をまた徒歩で移動だ。

 足下はくるぶしが埋まる程度の草原。特に道は無い。先行するブレイクン先輩に着いてくだけの流れ。


 ……なんか、郊外のゴルフ場の接待に来てる気分だ。


「そろそろ目立つ目印でも――」


 そう先輩が言いかけた瞬間、前方の丘の影でフラッシュ光。続いて、軽く地響きが届いてくる。

 おそらくは爆裂系の魔術か戦技。いや状況から魔術の方か。


「――言ったそばからな目印だ」

「はい、結構凄い威力の魔術ですか」


 単発で終わったらしいが、さすがは上級生か。

〈ローズマリーの聖女〉の主要キャラはモブとは一線を画す高性能だから、攻略対象の一人かも知れない。

 二学年以上で絞るなら、メルビアス先輩か生徒会長のヒースクラフトかな?

 彼は文武両道の万能人間だったし。


 もしヒースクラフトと対面するなら、この機に聖女から遠ざけるように画策するか。

 貴族相手のキラーアイテム、〈神珠液〉の在庫が火を噴きゃ大概の流れは掌握できると思うし。


 下手すると献上量が増えるだけってとこは……心配だけど。



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