23 驚愕、未見の事実

 恐ろしい事実に意識が飛んでいたらしい。気づけば対戦を終えたフラウ達が俺の傍で覗き込んでいた。


「……(ウザイン様)?」


 うん、ちょっと心配気なフラウに癒やされる。


「ああ、ちょっとな。別に体調が悪いわけじゃない」


 意識が戻ればもう少し周囲にも関心が向く。フラウの背後ではMP不足も多少回復したのか、やや青い顔なりにこちらを気遣う様子のライレーネもいて……、不覚ながら彼女の“良い部分”を認めてしまった俺がいた。

 ……まずい。ライレーネの俺的印象が猛烈な勢いでプラス修正されている。

 こんなのっ、こんなのまるで思春期なガキの妄想恋愛じゃねーかな勢いだ。


 いや、俺って思春期な年頃だったね。

 適正な反応か。認めたくないものだなっ、若さ……以下略っ。


「それで、勝敗はどんな形になったんだ?」

「…………!」

「そうかそうか、今回はフラウの勝利と。というか定期的に対戦することにしたのか」

「以前から不思議に思ってましたが、貴方方、その様子でよく会話が成立してますわね?」


 ……なんかもう、すっかり打ち解けてるな。


「不思議も何も、普通に解るだろう。何処に悩む要素がある?」


 おや、何だその正体不明の魔物を見たような表情は。

 というかフラウも混ざるな。当事者その1。


「……」

「ん、ライレーネが一休みしたらまた対戦? ……定期的の意味が解らん。が、まぁ、(ライレーネに魔力の限界の感覚を教えてくれ。これ以上頻繁な蘇生処置は正直危険過ぎる)」

「…………(こくんっ)!」

「……本当に、なぜ会話できてますの、貴方たち」


 できる事を何故と問われてもなー、なのだよ。

 というか、もう再戦か? 回復速いなっ。

 どうやらライレーネが話せるくらい体調が戻ればな感じらしい。


「……が、何故にそんなに離れていく?」


 先程二人が対戦した場所は既に他の学生が使っている。

 それを見て、さらに遠くの空いてる場所へと行こうとしてるのだが……、すぐ近くに空いてるとこもあるんだぞ。

 なんか、俺の近くに居るのが怖いやつらが多いようで。


 だが、フラウは俺の言葉にただ否定の態度を返すのみ。

 これは流石に、意味が伝わってこないので解らん。


「離れるも何も、貴方の傍ではわたくし達は十全な魔術を使えませんから」

「……は?」

「何を不思議そうに……。え、まさか、自覚してませんの?」


 珍しく、応えて来たライレーネにフラウが何か突っ込みを入れている。それで察したのか、なんかバカを見るような表情をされたんだが。

 しばらく固まっていたライレーネ。復活するとスタスタと俺から遠ざかり、大体10m先で空中に手を充て、妙な事を口走った。


「“ここまで”、貴方は魔力の殻をもつ結界を纏っておいでなのですわ。私に正確な効力は解りませんが、結界の中では私は半分の実力も出せませんの。真に悔しい事実ですが、この中では貴方が何物にも勝る王として君臨してますのよ」


「…………え?」


 なに言ってんだ、こいつ。

 つい反射的にフラウに視線をやれば、やや困った笑みをたたえつつ“こくん”と肯いてたりする。

 え、本当にホント?


「先程、先生からも言われましたでしょう。貴方は絶えず、周囲に余人を寄せ付けない結界を張っています。魔力的な耐性をもたなければ、無理矢理にでも貴方の意志にねじ伏せられる様は見たでしょう。あの凡人なる学友たちのように」


 魔力の殻。結界。

 ライレーネに指摘され、彼女の手のあたりの空間の変化を見ようとしたが……やはり魔素や魔力を視る事は……

 俺の困惑を心配したか、フラウが傍に寄って来て耳元に囁く。


「……ここ、ウザイン様の魔力に満ちてる。濃すぎる魔力。うん……と、湯船のお湯の中。外の空気まで、手がとどかない……の」


 そんな言葉で、やっと状況が飲み込めた気がする。

 俺がただの空気と思ってるのは勘違いで、俺は自分の魔力を含んだ空気で息をしていた。何時からかは知らないが、たぶん、俺が今の俺になってからずっとの事だったんじゃないだろうか?

 それが普通になってたから、物理的な距離で他の魔力に接してなかったから、その変化を知覚できない状況に陥っていたのでは……ないか?


「かくゆう私も、つい先日まで貴方の結界にちっとも気づきませんでしたわ。そして気づいたら気づいたで、この狂気じみた魔力の空間を作れる貴方に恐怖しましたわ。本心から言いますが、未来永劫、魔術で貴方に勝てる未来が見えません。完敗です。だから私は聖女としての務めだけに邁進する事に決めましたの――」


 また近くでライレーネが何か言ってるが、半分も耳に入ってこねーな。

 ちょっと自分の現実というか、新事実にびっくりし過ぎてて意識が他に向かないっての。


「――私の目標は他の候補より聖女としての地位を確立する事。それのみですのよ。ほーほほほほっ!」

「…………(残念な子をみる視線)」


 うん、フラウの呆れ顔からして、またライレーネが馬鹿な発言してんだなくらいは予想した。


 ……というか、この事態はどうしよう。

 一見便利そうな俺の結界空間。しかし見れるやつには丸わかりの、俺の居所とか隠しようも無い派手な広告塔。

 こりゃ早く何とかしないと、破滅回避とか以前の話になるんで……ないかい?



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