14 支店の視察
支店に来たよ。
学院は自主休校だよ。
地球の大学同様に学院の修学システムが単位制だから利く融通だけど、ゲームでの突発イベントと違いリアルの一日がカウントされるのが世知辛い。
未来の破滅モードが解除できてない状況でこれだとか、やるせない。
「でも自分の蒔いた種関連だもんなぁ。仕方無い」
「……?」
はい。フラウシアが着いて来るのもデフォルトだ。
まだ一人で授業は全力で拒否られる。努力する方向を間違えてる気が半端ないが、俺が言った猶予期間なんで強く出れん。
……背後のメイド隊から来る視線が痛いが、これも含めてのデフォルトなんでもう気にしない。
でも俺の用事に連れ歩く意味も無いので彼女にはここでやる仕事に回ってもらう。さすがに自分の仕事場でまで気後れする事は無いので、フラウは素直に離れて行った。
「そんじゃ、支店内の確認するか」
さて、王都の街並みは地球の洋風文化の類似品といっていい。
さすがは乙女ゲーム。真似で済む場所には躊躇が無い。
極論、王都は堅牢な外壁で囲まれたパリの街並みに酷似している。
で、この街並みの特徴は基本的に五階建て程度の高層集合住宅。それが一つの街区を囲う壁のようになっていて、住人のみ憩える中庭などが整備されているというものだ。
これは都市構造として都市内が戦場になったとしても住人が籠城しやすいものにしているというもの。デザインの元になった現物だと、中庭には井戸や他の街区と繋がる地下通路。畑としても使えるガーデニングなんかが整備されている。
で、うちの支店だけど。王都の商会地区には隣接してるが立地自体は住居区画だ。街区の建物全てを独占したようで、結構な数の住人を合法的に追い出したらしい。
というか一辺にあたる部屋数でも50は越えてるよな。最低でも200世帯追い出したのか。また実家の悪評が高まったろうな。
土地の確保は記録を見たのが事後だったんで、俺にできたことは頭を抱えるだけだった。
土地の広さは申し分ないどころか広すぎな気がしたが、機密を確保するなら仕方が無いのだと諦めれる。ただし、部屋数ばかり多いのは逆に無駄なので容赦なく改築した。
外観は京都ばりの景観法があったので現状維持。言い方を変えると残った要素は外壁のみ。土属性の魔法は現代建築の常識を蹂躙するよね。
張りぼて化した街区丸ごと支店社屋に再設計した。一階区画は倉庫。二階区画は商会設備全般を配置。三階と四階には居住区とレクリエーション設備を置いて、五階区画は全て温室化し様々な薬草類の栽培場所としている。中庭はなるだけ以前のままに。軽く調べたら例の秘密の地下通路とかがあったんで、下手に弄ると怖いから放置したとも言う。使う予定は無いから出入り口は堅く封印したけどな。
そして極秘事項。建屋の地下は秘密の倉庫然としてたので、元の構造を強化した形で極秘っぷりも強化した。
兄上以外は秘密だよ。
兄上にも秘密なのもアルヨ。
「ま、秘密倉庫の一部が空くのは助かる。単純に」
この支店を建てて二年ちょい。
最初は作った神珠液のストックを地上に置こうとしたんだが、盗人野郎引っ切り無し。結局地上倉庫はトラップがメインのアトラクション空間になってしまった。
地下は俺とフラウの神珠液作りの工房って予定だったんだが、区画の半分以上が倉庫と化した。居住区画に移動って話は最初から無い。単にトラップ空間が増えるだけだし。
で、当初より狭くなった倉庫空間は在庫で埋まった。
俺は予定に沿ってセーブしたんだが、フラウの成長が凄くてね。そっちは作っちゃ捌けで定期的に空きはするんだが、やっぱり出荷上限有りだと埋まる時は満杯まで埋まる始末だったのだ。俺の作った在庫分が捌ける目処がたった分、もうちょっと余裕ができたかなな気分だ。
……現実は? な質問は聞き流す。
「あ、でも増産の予定も組んでたんだったか」
現状人員での増産量と、人員増加も加えての増産数を脳内で試算……
「地下、もう一階層増やさんとダメな展開だなー」
大丈夫。改築の時に建家の下には不審な地下通路や謎の空間は感知してない。基礎の安全性さえ確保するなら幾らでも掘り下げれる。
馬車関連は外注が基本だし部品の機密性は高くなくても良いだろう……が、
当時は必須という思考だったんで。後悔しきりな過去だがな。
量産化の報告は事後もいいとこだったんで設計の変更も利かんし、変更が利くにしてもそれに時間を使う方が今は手間だし。
「ああ、それと動力機関も置かないとなのか」
工作機械を設置しても電源にあたるものが無きゃ意味が無い。実家は農耕の土地なんで元から水車動力が存在したからそれを流用した。こちらも井戸や地下下水網があるんで水脈は存在するんだろうが、自家用な意味で水車が置けるかは知らない。というか中庭空間に水路や滝は無理だろう。城塞都市は狭い土地なんだからコンパクトな動力機関を設置する必要がある。
「風力発電、太陽光、地下水脈からの……どれも馬力が足らんかなー」
まぁ代案はある。地球じゃクリーンを銘打ってダーティな正体を晒したやつだ。
あれは熱源の部品さえ除きゃスチームタービン発電なので、地下水脈さえ利用できればコスパの良い動力源になる。
原発機関は燃料の問題さえなきゃ(俺のいた時代)最高の発電機構ってのは確かなのだよ。
魔道具って本当に便利だよねー。外気から魔素を吸収する魔法陣さえ描きゃ半永久の熱源も簡単に維持できるんだから。都市に一つ置くなら局所的な魔素枯渇なんて心配も無いだろう。
魔法陣描いての動力機関っつーなら工作機材に直でって案は、万が一の盗難が心配なんでパスなのだ。鉄鋼の工作機材は大概のもんに流用できるからね。少なくとも俺が寿命で死ぬまでは街の鍛冶屋の腕任せが武器の性能でいてほしい。この機材の活躍は馬車を作るぐらいで充分なのだ。
……自分で言ってて噓クセーと思うけどな。
後のメイド隊から支店の設計図を受けとり拡張設備の草案をメモっていく。
発電所区画に鉄鋼成型工房。倉庫の拡張と増加人員の作業エリア。
何とか地下におさまるかな?
「あー、排熱と排水設備の追加は要るか。排水……温水設備でも置くかな」
実は五階の温室のための給水設備でレクリエーション設備に室内プールなんかもあったりする。その一部を使って銭湯もいいかなな想像をしてみたり。蒸気化した排水をそのまま下水に送るのは表通りが派手にモヤって目立つ結果にしかならんしね。せめて湯気程度まで温度は下げないと。そのためにまた魔道具を置くのとかはアホすぎるし、自然に下げられるならそれで済ましたい。
「とは言っても、レクリエーション設備を勝手にいじるのもか。もう社員用に解放済みなんだし意見を聞いて……って、何してんだ、
何かの構想時に独り言を言うのは俺の悪いかもしれない、癖。メイド隊は時折それに相鎚うったりして妙な会話になったりもするが、基本は傍観だ。今もそのはずなんだが、支店社員がここのレクリエーション設備をどう利用してるのか聞こうと振り返ったら、支店設計図の控えを囲んで討論中という絵面。
「ウザイン様の構想に最適と思われる人員配置の段取りをば」
真面目な面相と口調だが格好は間抜けだぞ。というか露骨に隠すな、その図面。
無言で手を差し出せば観念して渡してくる。
うむ、腹黒くても忠誠は疑わずに済んで良し。
さて、なんでこいつらまで設計図面を持ってんだな疑問はあっさりと氷塊した。
「なるほど。居住区画は俺の知らん改装が入ってるのか」
「ええと、ボルタル様からは利用者の使いやすいものにせよ、と」
言葉のマジックが混ざってるけどな。
間取り変更からの想像だが、居住区画の半分以上は逗留設備に変更されている。レクリエーション設備は住人も使うが、メインは逗留者の利用になってるような。
「つまり兄上の客の接待エリアになってるのか」
「……はい、正直のところ関係者のみの設備には広すぎますので」
「んー、そこは否定できんなぁ。将来的な増員も兼ねての設計だったし」
実際のとこは200世帯の改装を持て余したんだが、内緒の話だ。
「別に利用頻度に問題あるなら報告してくれりゃ良いのにな」
「いえ、改装時のウザイン様の様子をボルタル様始め承知してましたので」
……ああうん。持て余してテンパってたね。さすがに建築設計なんて門外漢だったし。でも慣れたよ。魔法があれば物理無視の無茶も通るの知ったし。でなきゃアパート構造の一部にプールなんか置けない。
「まあいいや。だがこれからは支社内の機密も増える。それも含めて再改装の案は兄上と詰めるか」
……はい。また余計な仕事が増えた瞬間でございます。
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