16 人脈
親父様は成金商人を経て貴族になり、一代で子爵まで昇った正真正銘の勝ち組人類。
俺のポッと出した商品の利点と……欠点も見透かした。
その欠点を潰す策が神殿勢力との結託だ。
乳液自体の性能として肌を保護する効果はある。
しかし劇的な回復効果を生んだのは俺がかけた付与魔法だ。
つまり、この乳液は俺が居ないと商品としては継続しない。
作り続けるのに個人の資質に依存する商品など最低だ。その点を改善するために、付与する魔術の使い手を抱える神殿を参加させたわけだ。
そうして完成した俺の関与しない乳液は、性能としてはほぼ変わらない物となったが使用期限がはっきりと解るくらいに時間で劣化が生じるものとなった。
ただまぁ……親父曰く、“これでブツが売れ続ける要素が出来た、ジャスティス!”と燃えていた。
流石商人。あくどい。
そして俺製造の超・高品質乳液は王族や高位貴族向けの高級品にしてボッタクルとか。
流石商人。マジにあくどい。
因みに、乳液の商品名は豊穣神のネームバリューを全面に推し出して、〈
草案の時点では乳液の触感から〈女神汁〉とか〈神母乳〉とか〈聖粘液〉やら不穏に過ぎるラインナップが並び過ぎたので、ひたすら却下しまくったのは内緒だ。
……おかしいな。
草案の出所は神殿からのが多いんだけど。
◆
さて、乳液が工場生産になったあたりで俺の関与は最低限なものになる。
具体的には“超・高品質品”の作成と、俺の後任役になる人材育成だ。
超・高品質品は現状劣化の兆候も無いので、大量に作った在庫が捌けた後は受注生産のスタイルらしい。
なので今のところは予定無し。
そして後任の育成に関しては、まぁ、半分以上は手探りな感じだ。
縁は巡るというか、後任はあの回収した難民たちの一部だ。
人材の大半は用意された開拓地の労働者として、また未来の農民としての生活に入っていったのだが、魔術の素養のある者は神殿が引き取り神官となったのだとか。
そして、信仰を持つ事への親和度からして年齢的には若い世代ばかり。しかも開拓地の労働では苦労しがちな少女と幼い子供が圧倒的に多かった。
またこの世界での常識として、年が若い方が魔力の成長をしやすいという認識になっていた。
この数年でバカみたいに魔力量を増やした俺なら、彼女達の魔力量を増やせるかもという思惑があったらしい。
「……ただなぁ、俺式の成長法がそのまま使えるかは、未知数なんだよな」
魔法と違い、魔術はHPを消費して行使し、MPでその消費分を回復するという二段式の工程を経ている。
体感で言うと、死ぬ程体力を失って、その後に死ぬ気の気力で体力を回復していくという感じだ。
この面倒な工程は何故なのかという仮説は一応立てている。
昔の格言の使い回しだが、“健全な精神は健全な身体に宿る”ってやつだ。
本来、HPとMPが両方ともバランス良く増加するためのシステムなんじゃ……と想像している。このシステムなら肉体と精神、両方とも同時に超回復していくからな。
俺のように、ゲーム画面を操作するように魔法や魔術を使うってのが異質なのだ。
使ってる俺自身、冷静に考えるとそうとしか思えんし。
で、彼女達の魔力成長実験を始める前に、一応は自分で実験をしてみた。
死にかけの状態、つまりHP枯渇の状態から速やかな回復手段をマニュアル化できるかどうか、で。
〈再生〉の魔術がそれだ。効果を自分で試したところ、数値的な最大値は関係無しに、総量の5%前後を当人の心臓の鼓動のタイミングで回復していく。
効果時間は魔法としては三分程度。付与した乳液の場合は水気が飛ぶまでは効果が続く。
だからってベッタベタに濡らしても効果が多少長続きする程度で回復効果が強くなるとかは無い。
用法用量は適切に。美容は小まめなケアが重要です。
ととっ、脱線。
さて、〈再生〉の効果が鼓動に連動するってのが最大の懸念だ。
HP全損での超回復。それが始まった時点でも鼓動が止まっていた場合は、やはり身体はゆっくりと死へ向かうのだ。
この世界の住人が俺と同じ工程で魔術を使い、そして魔力を増やしていくとするのなら。
止まる可能性のある心臓をその都度、再開させてやるシステムが必須なわけだ。
「心肺蘇生のマニュアルでも教えるか……と言いつつ、俺もそんな経験無いし」
そして心肺蘇生関連の怖い話で、心臓マッサージの際にはあばら骨をへし折るくらいの力を込めろとかいうのは何故か聞いている。
正直、ちょっとゴメン、俺は無理と感じる部分だ。
となると……機械的なシステムに頼りたい。
AEDとか。
条件付けで発動する感電の魔道具とか作れないかな?
常時心音を検知していて、それが10秒停止したら発動……とか。
ペースメーカーとは違うが、まぁ似たようなもんかなとも思う。
そのあたりで、ちょっと試してみるか。
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