09 価値がつく命
ナリキンバーク子爵領は領地中央に領都。その領都を中心にして円グラフを描くように平均して三分割する感じに地形が分かれている。
北東側は大穀倉地域。麦を始め様々な農産物を扱ううちの屋台骨な地域。
南側は小規模な農耕地域。手前半分は開墾済みで、徐々に外縁部へと拡張中。試験農耕なんかにも使っている。
そして北西側。こちらはほぼ手付かずの森林地域だ。手前三割程を木材資源の調達場としているが、簡単な防壁すら置いて明確な境界線を引いている。
これは、うちの領地が西側で他領と他国に接してるからだ。
まぁ、共に森を介してだから明確に接しているとは言い難いのだが。
因みにこの森は樹海と呼んでいい規模なので、当然のように魔物の生息域でもある。
非常に危険なために、他国との緩衝地帯としても機能してるわけだ。
一応は整備した街道もあり、断絶した関係というわけでは無い。
勿論、いざという時は最前線として使える砦も設置してるけど。
さて、今回の不穏の舞台はこの砦近辺にある難民集落だ。
なんかこう、隣の国は色々と……バカらしい。
侵略すれば豊かになる的な思想が蔓延していて、日常的に何処かに紛争をふっかけてるのだ。で、その迷惑を被って難民の発生が止まらない。
隣の領地の貴族は結構長い付き合いなようで、物理的に完全に関係を絶って我関せず。それでもその実行力にコストがかかって時折親父に補給的な無心をするらしい。
今のとこ出費は許容範囲内なので問題無いとのこと。
で、近年。なんかの理由で、とうとう隣国のチョッカイがうちに直接のびようとしたらしい。だが親父も隣の領に習って徹底抗戦。地の利を活かして大打撃を与え現状は大人しくなっていた。
とは言えだ。
元々うちの国とは毎年の定期的な対戦戦争の決まり事をしている上での、バカな行為でもある。
大人しいってのが何時まで有効なのかは……正直誰も解らないのが実情らしい。
で、そのうちとのイザコザの一件にて。
その時に森林地域に大発生したのが、問題の難民集落なのだ。
元は隣国の住人であり、こっちで世話する縁は無い。
むしろ土地にイナゴの群れを放たれたようなもんだ。こっちは駆除してもいい対象というのはトップのもつ冷徹な視点ってやつだろう。
しかし、現実として難民集落は健在だ。
親父も意外に人情家といった一面である。
ただねぇ、災難から逃げるしかなかった“弱い肉の群れ”ってのは、また別の災難を呼び寄せる餌でもあったわけだ。
一気にというわけじゃなく、数年かけて少しずつ難民集落を餌場にしたい魔物が集まっていたらしい。最初は狼系の魔物が一人二人と細かく間引くように狩る感じで、当人たちも覚悟の上で共存(?)していた。
だが最近、ゴブリンやオークの小規模集団が居着いた事で状況が変わる。森の中に点在していた難民集落が集落そのものの規模で消滅していた。無事なのは砦に近く、こちらの討伐部隊が出て対処可能なとこのみらしい。
「……まぁ、なんだ。自衛隊のボランティア防衛みたいな状況なのか」
厳密に言えば難民たちを守る理由は無い。
勝手に森の中に集落を築く。見方を変えればうちの領地の安全を担う天然の要堺を削っているような連中だ。
その連中を守るためにうちの戦力を消耗させるなんてマイナススパイラル。
正直言って無い方が良い。
でも信仰サイドの視点だと、人の命は尊いのだよね。
この世界の信仰は、人同士の争いは必要悪。しかし相手が魔物となると、絶対人命遵守になる。そこに国同士の確執なんか丸っと無視だ。
うん、国が神殿機関と一歩引く関係を保つ理由がよく解った。
まぁしかし。親父にも人情だけで動いた理由は無い。
実に非情な言い分だけど、ある程度間引かれた数の難民なら利用価値はあるのだ。
難民に見せかけて実はスパイって話はこの世界でもある。ただ魔物に食われる過酷な環境に放られて、まだその立場を捨てないかという選別ができてたのだ。
ただの難民なら、労働資源として安心して使える。短い期間でもうちの戦力に守られる環境でいたら、例えスパイでも転ぶ可能性は高いだろうって話だ。
ま、確実とは言わないけど。
ああ、一応、生き残りは全員、俺が〈思考掌握〉で確認を取るよ。
実家は安心して暮らせる方が良いのだ。
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