第6章 13 故郷との決別
荷造りと言っても、ヒルダには準備するものは殆ど無かった。何故ならヒルダは自分の拠点を『ロータス』に移していたからだ。元より、ヒルダは『カウベリー』を追われた時から二度と戻って来る事は無いだろうと覚悟を決めていたからだった。
先ほどまで部屋にいたエドガーは今は離れの自室に戻り、荷造りの準備をしている。ヒルダがトランクケースに荷物を入れていた時、扉の外からマーガレットの声が聞こえて来た。
「ヒルダ…私よ」
「お母様?どうぞ」
返事をすると扉がカチャリと開かれ、青ざめたマーガレットが部屋の中に入ってきた。
「お母様…!」
「ヒルダ…ッ!」
マーガレットはヒルダに駆け寄ると、しっかりと抱きしめると言った。
「ヒルダ…本当に御免なさい…貴女はたった一人の…娘なのに…一度ならず二度までも捨てる事になってしまうなんて…」
そしてハラハラと涙を流した。
「お母様…一体何があったのですか?先ほどお兄様がいらしたのですが、詳しい話を聞くことが出来なかったのです」
ヒルダはマーガレットを抱きしめながら尋ねた。
「エドガーも…相当ショックを受けていたから…詳しい説明をするどころでは無かったかもしれないわね…」
そしてマーガレットは何があったのかを詳細に話した。今回のパーティーの本当の目的はエドガーの次の結婚相手の候補者と、ヒルダの結婚相手を見つける為の物であったこと、それを阻止するためにノワールが金貨7000枚を支払ってエドガーとヒルダの身を自由にしたことを詳細に語った。
「そ、そんな事が…」
全てを知ったヒルダの顔は青ざめていた。
「可愛そうなヒルダ…貴女はノワールさんがいなければ…お父様にお金持ちでずっと年上の有力貴族の元へ嫁がされるところだったのよ…。ヒルダ、もうこれ以上ここにいてはいけないわ。お父様はお金を受け取ったけれども、いつまた気が変わるか分らない。ノワールさんとエドガーの3人ですぐにカウベリーを出るのよ」
「で、でも…」
あまりにも衝撃的な話でヒルダはまだ状況が理解出来なかった。
「大丈夫、貴女が大学を卒業するまでは…私が責任を持ってお金の援助はするから…だから…ほ、本当に…ご、ごめんなさ…」
マーガレットは泣き崩れてしまった。
「お、お母さま…」
母と娘は互いに強く抱きしめ合い、涙した―。
****
20時―
すっかり夜になっていた。今、玄関ホールに立っているのはヒルダとエドガー、そしてノワールに唯一、見送りに来たマルコだけであった。
ハリスとマーガレットはパーティー会場でお客の相手をしている。
「エドガー様、ヒルダ様…どうぞお元気で」
マルコは深々と頭を下げる。
「マルコさんも…お元気で…」
ヒルダは打ちひしがれた声で別れを告げる。
「エドガー様、それではお荷物は『エボニー』の実家へ送ればよろしいのですね?」
マルコはエドガーに尋ねた。
「ああ…頼む」
エドガーは沈痛な面持ちで返事をする。
「よし、それでは2人とも…行こうか?」
ノワールはエドガーとヒルダに声を掛けた。」
「「はい」」
エドガーとヒルダは返事をし…3人はフィールズ家の馬車に乗り込んだ―。
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