第6章 11 ノワールの提案

「な、何だって…?お前がベストセラー作家だと…?嘘をつくな!」


ハリスはノワールに怒鳴りつけた。


「別に嘘などついてはいませんよ?信じたくないのなら、それで結構。しかし、エレノアから離婚届を書いてもらう為に俺がお金を支払ったのは紛れも無い事実ですよ。疑うならトナー家に問い合わせてみて下さい」


「う…」


ハリスは唸った。


(確かに…あの離婚届に押されていた印章は間違いなくトナー家のものだった…!)


「そ、それでは聞くが…一体お前はトナー家にいくら支払ったのだ?」


「ああ…金額が知りたいのですね?いいでしょう。とりあえず金貨3000枚程支払いましたよ」


ノワールは肩をすくめながら言う。


「な、何だってっ?!」


「兄さんっ?!」


ハリスとノワールは同時に声を上げた。金貨3000枚は大金である。エドガーとエレノアの婚姻の際、トナー家は持参金として金貨2000枚を持ってフィールズ家へと嫁いできた。その金額を遥かにうわまわっているのである。


「さぁ、いくら支払えばエドガーの養子縁組を解消しますか?ああ、そうだ。ついでにヒルダも頂いていきますよ」


「何だとっ?!何故ヒルダまで連れて行こうとするっ?!ヒルダはお前らなどに絶対に渡さないぞっ?!」


激昂するハリスにノワールは追い打ちを掛ける。


「貴方にそれを言う資格があるのですか?貴方は過去に一度ヒルダを完全に捨てたじゃないですか?それをなかったことにするなど出来ませんよ!どのみち、貴方は金の為にヒルダを利用して年老いた金持ち貴族にでも差し出すつもりでしょう?!自分のたった1人きりの娘をっ!」


「黙れっ!子供は…親の言うことを聞くのは当然のことだろうっ?!」


するとそこへ―。



バンッ!


勢いよく扉が開かれ、部屋の中にマーガレットが現れた。


「ハリスッ!貴方という方は…!」


「マ、マーガレット…ッ!」


(まさか…今の話…全てマーガレットに聞かれてしまったのか…?!)


ハリスは実はマーガレットには内緒でヒルダの嫁ぎ先を探していたのだった。


「ハリス…!全て聞きました…貴方はヒルダを金持ちの貴族の家に売ろうとしていたのですねっ?!」


「違うっ!花嫁として…嫁がせようとしていただけだ。あの子に幸せになってもらうために…」


するとノワールが言った。


「いい加減嘘をつくのも大概にして下さいっ!知っているのですよ?フィールズ伯爵…貴方は高価な農機具を買い集め…金貨4000枚の借金を背負っているということをね」


「な、何ですってっ?!」


マーガレットが悲痛な声を上げる。


「…」


しかし、ハリスは黙ってノワールを睨みつけているだけであった。しかし…その額からは汗が滲んでいる。


「では、こうしませんか?俺がフィールズ家に金貨6000枚を小切手でお渡ししましょう。それでエドガーとヒルダを引き取らせて頂きましょう?」


「兄さん…っ!」


エドガーはノワールの言葉に驚いた―。

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