第6章 8 ノワールとハリス

「兄さん、助け出せるって一体…?」


するとノワールがエドガーの肩にポンと手を置くと言った。


「文字通り、助け出してやるのさ。お前をこのフィールズ家というしがらみからな」


「え…?それは一体どういう…」


エドガーが言いかけたが、ノワールはエドガーの肩を掴むと言った。


「いいから、こっちへ来い。お前の義父…ハリス氏の所へ行こう」


そしてエドガーの左腕を掴むと強引に引きずるように歩き出す。その先にはハリスが招待客と話をしていた。


「に、兄さん…まずいです。義父は今招待客と…」


エドガーは必死になって止めるが、ノワールは聞く耳を持たない。そしてエドガーはついにハリスの元へとやってきた。


「すみません、フィールズ伯爵」


エドガーは2名の貴族男性と話をしているハリスに声を掛けた。


「ん?」


ハリスはノワールを振り向き…すぐ背後に俯いているエドガーを目にし、一瞬眉をしかめると言った。


「すみませんが、お客様…今ご覧の通り私はこの方達とお話をしている最中で…」


するとノワールは言った。


「フィールズ伯爵、俺は貴方が養子にしたエドガーの兄ですよ?覚えておりませんか?」


「!」


その言葉にハリスは目を剥き…会話をしていた2名の男性貴族達に会釈した。


「大変申し訳ございませんが…少し急用を思い出しました。私は席を外させて頂きましが、どうぞごゆっくりしていらして下さい。あちらのテーブルには『カウベリー』産のワインもご用意しておりますので」


「ああ、ワインですか、それは良いですね」

「ええ。こちらの産地のワインは美味しいですからね」


2人の紳士は笑みを浮かべると、その場を去っていった。ハリスはその後姿を黙って見届けていたが、彼等の姿が人混みに紛れて見えなくなるとノワールを睨みつけてきた。


「ここではまずい。2人とも…隣の控室へ行くぞ」


ハリスは不機嫌そうな顔で先頭に立ってパーティー会場を出て行く。その後をノワールとエドガーが続いた。



ガチャリ…



 ハリスはパーティー会場の隣にある控室の扉を開けた。


「早く入るんだ」


小声で促し、ノワールとエドガーは控室へ入るとハリスはすぐに扉を閉めた。その部屋は長方形の長テーブルに椅子が何脚か置かれていた。

ハリスは無言で長テーブルに向かい、椅子にドサリと座るとノワールを指さした。


「そうだ、思い出したぞ。君は次男のノワールだったな?一体何故ここへやってきたのだ…?エドガー!お前が彼を呼んだのか?!」


ハリスはきつい口調でエドガーに言う。


「!い、いえ!父上…私はその様な事は…た、ただフィールズ家でパーティーが開かれることを話しただけです」


「それは遠回しにパーティーに誘っているようなものだと何故思わないのだっ!だから彼は来たのだろうっ?!エドガー…お前は何も知らないだろうが、彼はエドガーを養子に迎えるなんて許さないと言って、ここへ直接やってきたこともあるのだっ!」


「え…?」


エドガーはその話に目を見張った。今迄一度たりともその様な話をノワールから聞かされた事が無かったからだ。


「に、兄さん…」


エドガーは声を震わせながらノワールを見る。ノワールはエドガーと視線を合わすこと無くハリスを見ると言った。


「確かに俺は誘われてもいないが、この屋敷へやってきましたよ。貴方の娘、ヒルダと一緒にね」


「な、何だってっ?!ヒルダと一緒にだと…っ?!」


ハリスは怒りで身体を震わせた−。

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