第5章 12 ノワールの考え
「あまり今の話を聞いても驚かないんだな」
ノワールに尋ねられてヒルダはドキリとした。
「い、いえ。そんな事はありません。驚いていますよ?」
「ふ〜ん…フィールズ家からは何も聞いていないのか?」
「はい。聞いておりません」
「それならエドガーからは?」
その言葉にヒルダはピクリと反応してしまった。
「そうか…エドガーから聞いていたのか」
ノワールはため息を付きながら言う。
「あ、あの…それは…」
「俺は…つい最近エドガー本人からの電話で聞かされたんだ。結婚して僅か1ヶ月でもう別居が始まったらしいな。妻は今は実家に戻っているそうだ。トナー伯爵家ではエドガーの事でかなり激怒している。…ヒルダは別居の理由を知っているか?」
ノワールはポケットに手を入れるとヒルダを見つめた。
「いいえ…?知りません」
(そう言えば別居の理由を聞いていないわ。私からは尋ねにくかったし、お兄様も話をしようとはしなかったし…)
「別居している話を聞かされた時、エドガーは理由を話したがらなかったが、問い詰めるとようやく話してくれた。どうやら…エドガーとエレノアは『白い結婚』だったらしいな」
「白い結婚…」
(一体どういう事なのかしら…)
するとノワールは言った。
「意味を知らないのか?夫婦の営みが無い結婚生活の事を言うんだ」
「え?」
その言葉にヒルダの頬が真っ赤に染まる。
(そ、それでは…お兄様とエレノア様はその事が原因で…?)
「夫婦間の問題を親に言いつけるなんて…最低な女だよ。エレノアは」
怒気を含んだ声で言うノワール。
「ノワール様…」
「今エレノアはノワールと別居を始め、離婚をほのめかし…フィールズ家に莫大な慰謝料を請求しているらしい。それが嫌ならエレノアの要求を飲むように言われているようだが、エドガーはそれを拒否している。ハリス氏は何とか2人の離婚を食い止めようと奔走しているようだが…俺としては2人の離婚は大歓迎だ。何故エドガーがあんな年増女と夫婦にならなければならないんだ?」
「…」
ヒルダにはもう何も言うことが出来なかった。
「恐らく、フィールズ家は請求された慰謝料の支払い能力は無いだろうな」
「…なら…私も大学を辞めて…働きます。」
(そうだわ、私が大学を辞めればそれだけ負担が減るわ。…本当は私が政略結婚できていればこんな事にはならなかったかもしれないけれど、今の私は足が不自由だからそれすらもきっと無理だろうから…)
するとノワールはじっとヒルダを見つめると言った。
「お前は本気でそんな事を言っているのか?」
「え?は、はい。そうですが…」
「この時代で女が良い給料を貰って働ける場があると思っているのか?恐らくヒルダが一生働いても支払えない額の慰謝料だぞ?」
「そんな…」
(それでは…お兄様は…フィールズ家はどうなってしまうの…?)
いつの間にか2人は駅に着いていた。改札をくぐり、ホームに立つとノワールは言った。
「エドガーは俺の可愛い弟だ。だから俺が何とかする。」
「え…?」
ヒルダはノワールを見た。
「以前にも言ったが、俺はベストセラー作家なんだ。家族も知らないがかなり財産を持っている。トナー家の慰謝料を支払ぐらい、造作ない。ついでにエドガーを養子に出した時にフィールズ家から受け取った金額も全額返金するつもりだ。それで養子縁組を解消するつもりだ」
「そうなのですか?」
(良かった…それではお兄様はようやく自由になれるのね)
ヒルダは安堵のため息を付いた―。
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