第5章 11 それぞれのクリスマスプレゼント

 今ヒルダとノワールは大学駅前にある商店街の雑貨店に来ていた。目的はエドガーへのクリスマスプレゼントを買う為である。


(この店に似たような万年筆があるといいのだけど…)


ヒルダは目の前にある万年筆を見つめながら思った。羽ペンや陶器で出来たペン、使いやすそうな万年筆…色々置いてあるが、ガラスの万年筆は見当たらない。


(やっぱりこの店には無いのかしら…)


その時、突然ノワールに声を掛けられた。


「ヒルダ、ここにいたのか。ちょっとこっちへ来てくれるか?」


ノワールが手招きして来る。


「はい」


言われるままヒルダはノワールの後をついて行った。ノワールに呼ばれてやって来たのはガラス細工商品が並べられていた。


「ほら、これを見てくれ。ひょっとして似たような商品じゃないか?」


ノワールが差した場所にはガラスの万年筆が売られている。それはヒルダがエドガーにプレゼントした万年筆と殆ど変わりなかった。


「ええ、そうですね…これと似たような商品でした。ではこれをお兄さまへのクリスマスプレゼントにします」


するとノワールが言った。


「お金は俺が出すから…ヒルダからのプレゼントと言う事にしてくれ」


その言葉にヒルダは驚いた。


「何を言っているのですか?このプレゼントは私がお兄様の為にプレゼントするのですから、当然お金だって私が支払います」


「だが…かなり高いぞ?」


ノワールはヒルダのお金の心配をしていたのだ。


「大丈夫です。アルバイト代で買えますから」


そしてヒルダはガラスの万年筆を手に取ると言った。


「この青いガラスの万年筆…お兄様の瞳の色に似ているような気がします…」


「ヒルダ…」


名前を呼ばれて、慌ててヒルダは言った。


「あ、も・勿論ノワール様の瞳の色にもよく似ていると思います」


「そうか…それじゃ俺はここで待っているから買ってきてくれるか?」


「わかりました」


そしてヒルダは店員の元へ向かった―。



****


 あの後、ヒルダはカミラとカウベリーの両親へのクリスマスプレゼントを買った。

ノワールと2人で店を出て、駅へ向かう傍らノワールが尋ねて来た。


「ヒルダはどんなクリスマスプレゼントを買ったんだ?」


「はい、カミラにはハーブ入りのハンドクリーム。お母様には香水、お父様にはハンカチを買いました」


「そうか。自分には何も買わなかったのか?」


「ええ、特には何も買っていません」


「そうか…ヒルダはあの女と違って贅沢はしないのだな?」


「え?あの女って…?」


「…」


しかし、ノワールはその問いに応えない。


(無理に聞きだそうとしない方が良さそうね…)


そこでヒルダも口を閉ざし、2人で無言で歩いていると、不意にノワールが言った。


「ヒルダ。もし…もし、エドガーが…離婚したらどうする?」


「え?!」


ヒルダはいきなりの質問に驚いた。そしてエドガーの言葉を思い出した。


『実は妻とは現在別居中なんだ。今俺はフィールズ家の離れで1人で暮らしているんだ』


(まさか…ノワール様は知っているの?お兄様が別居していることを…)


ヒルダはノワールを見つめた―。

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