嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第4章 7 出席者は

「家に着く前に説明しておく」

ガラガラと走る馬車の中でノワールが口を開いた。

「家には父と母、そして現在26歳の長男のデイビットに妻のローラがいる。家督は彼が継ぐことになっていて、他にフットマンとメイドがそれぞれ一人ずつ住んでいるんだ。そしてエドガーが俺と同様に本日パーティーに出席する。」

「はい」

（お兄様が来るのよね…）

ヒルダは頷く。

「皆にはヒルダを連れて行く事は誰にも話していない。言えばきっと反対されるだろうからね。そうだな…名前だけ名乗って貰う事にしようか？フィールズ家の名前を出せば父も母も兄も…全員激怒してすぐに帰れと言う事になるかもしれないからね？」

どことなく意地が悪い笑みを浮かべながらノワールが言う。

（本当に…フィールズ家は嫌われているのね…。でも…）

「ノワール様、ですがお兄様が私の姿を見ればすぐに私がフィールズ家の人間だとバレテしまいますけど…」

するとノワールがさらに高角を上げると言った。

「エドガーがヒルダがフィールズ家の人間であることをばらすかもしれないって思っているのか？」

「は、はい…」

「まさか！エドガーがそんな事するはずないだろう？どれだけ自分がエドガーに愛されているのか、まだヒルダは分っていないようだな。愛する女が不利な立場になるような言動をエドガーが取る筈ないだろう？」

肩をすくめながら言うノワールの言葉にヒルダは未だに実感が持てなかった。

（ノワール様はあんな言い方をするけど…お兄様がそこまで私を思っていたなんて…信じられないわ…）

「ノワールには妻は連れてこない様にあらかじめ伝えてある。あの一族の人間も我々は嫌悪しているからね。政略結婚で10歳以上も年下のエドガーを夫にするなど人のする事とは思えない。血も涙も無いような奴らだ。それに…愛する人に会うのに嫉妬深い妻は不要だろう？」

吐き捨てるように言うノワールの言葉にヒルダは身を固くした。

（そこまで言わなくても…でもノワール様がお兄様を心配するあまりの言葉…なのよね？）

ヒルダはそう自分に言い聞かせた。

「実はパーティーはもう始まっているんだ。俺達は少し遅れて登場する。エドガーの喜ぶ顔が今から楽しみだ」

向かい側の席で楽し気に話すノワールをヒルダは複雑な気持ちで見つめていた。そしてパーティーに出席する前から、帰りたい気持ちで一杯になっていた―。

「ああ、そろそろ家に到着するな」

ノワールが馬車から外を眺めながら言った。ヒルダも窓の外を見ると、いつの間にか馬車は繁華街を通り抜け、自然が広がる風景に変わっていた。馬車道の両側にはポツンポツンと可愛らしい家が点在している。

「あれだよ、我が家は」

ノワールが窓の外を眺めながら言った。

「え…？」

すると周囲の家よりもひときわ大きい屋敷が見えて来た。周囲はぐるりと石造りの門で囲まれ、庭は綺麗な芝生が生えている。

「身内だけのガーデンパーティーをやることになっているのさ。俺が誰かを連れて家に帰って来るのは初めてだから皆驚くだろうな」

ノワールの楽し気な言葉にヒルダはますます不安を募らせるのだった―。