第4章 3 憂鬱な土曜日
土曜日の朝8時―
あっという間に憂鬱な日がやってきてしまった。
「はぁ…」
紺色のワンピースを着用したヒルダは窓の外を眺めながら本日5回目の溜息をついた。
「ヒルダ様…大丈夫ですか?」
そんなヒルダをカミラが心配そうに声を掛けて来た。
「え?ええ。大丈夫よ…」
しかしカミラの目からは少しも大丈夫そうには見えなかった。
(ヒルダ様…何だか様子がおかしいわ。ここ最近ずっとふさぎ込んでいたし…何かあったのかしら…?)
あの日、大学で親しくなった友人の母親の誕生パーティーに出席する事になったとヒルダから報告を受けてからずっと元気が無いのが気になっていた。そして日にちが近付けば近づくほどにヒルダの顔からは笑みが消え、食欲も落ちていった。
(絶対に今日のパーティーのせいだわ…でも何故ヒルダ様は何も相談してくれないのかしら…?)
これほど長い時間ヒルダと生活をしているのに、まだ完全に心を許して貰えてはいないのだろうか…?カミラはそこまで思いつめていた。しかし―。
「私は何があってもヒルダ様の味方ですからね。辛い事や悲しい事があったらいつでも相談に乗ります」
カミラはヒルダの手を取ると言った。
「カミラ…」
ヒルダは自分の事を心配そうに見つめるカミラの瞳をじっと見た。
(そうよ…私にはこれ程までに気にかけてくれるカミラがいるじゃないの。だから…ノワール様達に何を言われても…耐えてみせるわ…)
「ありがとう、カミラ」
ヒルダは笑みを浮かべると、カミラの手を強く握り返した―。
****
「それじゃ時間になったから出掛けて来るわね」
ヒルダは杖を持つと玄関まで見送りに来ていたカミラに言った。
「ヒルダ様。お帰りは何時になりますか?」
「帰り…」
(どうしよう、ノワール様が怖くて…何時にパーティーが終わるか聞いていなかったわ…)
「あ、あの…それが帰りはさっぱり分らないの。…ごめんなさい。でも必ず帰って来るから心配しないで?」
カミラを心配させない為にそれだけ言うのが精一杯だった。
「…分りました。この部屋でヒルダ様がお帰りになるのを待っておりますね」
聞きたい事は山ほどあったがカミラはそれらの言葉を全て飲みこみ、笑顔で言った。
「ええ、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
2人は挨拶を交わすと、ヒルダは玄関を後にした―。
****
「あ…」
バスに乗りこんだヒルダは驚いた。そこには2人掛けの椅子に1人で座っているスーツ姿のノワールがいたからだ。ノワールもヒルダの視線に気が付いたのか、小さく手招きしてきた。
「…」
ヒルダは覚悟を決めてノワールの近くに行った。
「隣、座れよ」
「は、はい…」
ヒルダはぎこちない動きで隣に座ると早速ノワールが声を掛けて来た。
「今日はパーティーだと言うのに、随分暗い色の洋服を着ているんだな?そう言えばヒルダはいつも暗い色の服ばかり着ていたが…まさかパーティーでもそんな色を着て来るなんて…」
ノワールは知らない。ヒルダが何故普段から黒や紺色系の服ばかり着ているのか…その意味を。
(…変に隠すよりもかえって本当の事を話したほうが良いかも知れないわ…)
そう思ったヒルダはノワールを見上げた―。
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