第1章 17 2人きりのディナー
あの後―
カミラとスコットのお陰でようやく心を冷静に保つことが出来たヒルダは先程とは別の土産物店に入りアルバイト先のリンダとレイチェルにはサシェに入ったポプリ、そしてアレンにはカウベリーの果実酒を買って3人はフィールズ家へと帰って行った。
そしてその日の午後6時、ヒルダとエドガーは2人きりでダイニングルームの席についていた。
「こうしてお兄様と2人きりで食事を取るなんて『ロータス』以来ですね」
ヒルダはサラダを口に入れると言った。
「ああ、そうだな」
フォークとナイフでチキンを切り分けながらエドガーは頷く。
「それにしても…早いものだな。1週間て言うのは…」
エドガーはため息交じりに言った。
「そうですね。あっという間でした。でもお兄様のお陰でお菓子のレパートリーが増えました。ありがとうございます」
「そ、そうか?そう言われると悪い気がしないな」
エドガーは少しだけ頬を染め…次に真面目な顔つきになると言った。
「ヒルダ。今日駅前の土産物店で…嫌な目に遭ったそうだな」
「!」
ヒルダの食事をしている手が止まった。
「一体誰だ?ヒルダを悪く言ったのは。相手の名前は分るか?」
ヒルダはその言葉に首を振る。
「そうか…分らないか。だが店主に聞けば分るかもしれないな」
「お兄様」
ヒルダが声を掛けた。
「どうした?」
「その事なら…もう大丈夫です」
「何が大丈夫なんだ?現にお前…」
「本当に…大丈夫ですから」
「ヒルダ…」
「それよりお兄様、アンナ様のお話聞かせて下さい」
「ア、アンナの話か?」
エドガーは焦リを感じた。まさかヒルダからアンナの話が出てくるとは思ってもいなかったからだ。
「はい、外国に留学されたのですよね?」
「ああ、そうだよ」
「あ、考えてみれば今は春休みでしたよね?アンナ様はこちらに戻られていないのですか?」
「そうなんだ…留学してから一度も帰国していないと聞いている」
「え…?」
ヒルダはその話を聞いておかしいと思った。
(どうしてかしら…お兄様とアンナ様は結婚するはずなのに…)
「あの、お兄様…」
「ヒルダ」
エドガーがヒルダの言葉を遮るように声を掛けた。
「はい」
「食事が終わったら…」
「?」
ヒルダは首を傾げた。
「その…ホールでダンスを踊らないか…?」
「え?」
ヒルダは突然の話に驚いた。
「お兄様…一体…突然どうされたのですか?」
「いや、この間ヒルダが卒業パーティーでアレン先生とダンスを踊ったって言う話を聞いたから…久しぶりに俺も踊ってみたくなったんだ。考えてみればヒルダとは一度もダンスを踊ったことがなかったから…駄目か?」
「いいえ、駄目という事はありません。ただ…少し驚いて」
「驚く?」
「ええ、お兄様がダンスを踊っているのを一度も見たことがありませんから」
「まぁ、普通に生活していればダンスを踊る機会なんてないからな」
エドガーはカットしたチキンステーキを食べると言った。
「確かに言われてみればそうですね」
ヒルダもフォークでパスタを巻き付けながら言う。
「でも…お兄様」
「何だ?」
「私は足が不自由なので…あまり難しいステップは踏めませんけど…いいですか?」
「そんな事気にする事はないさ」
そしてその後も2人会話をしながらディナータイムを楽しむのだった―。
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