第1章 6 パーティーの終わりに
卒業パーティーも終わり、ヒルダはフランシスやマドレーヌ、ステラやエミリーたちと談笑し、別れを告げると1人カウンターでアルコールを飲んでいたアレンの元へ戻った。
「アレン先生、お待たせしました」
ヒルダはアレンの隣の椅子に座ると言った。
コトン
ウィスキーの入ったグラスをテーブルに置くとアレンはヒルダを見た。
「ああ、ヒルダ。もう皆と別れの挨拶は済んだのか?」
「はい。でも皆とはまた大学に進学しても時々は会おうと約束したのでお別れではありませんから」
「そうか…そう言えばヒルダの友人たちは皆家は『ロータス』だったよな。ところでヒルダ。君は皆と一緒に卒業旅行に行かなくても良かったのか?」
「はい。私は…まだ喪中ですから」
ヒルダは悲しげに目を伏せると言った。
「ルドルフか…」
「はい。アレン先生…私、ルドルフから高校を卒業したら結婚して下さいって言われいたんです。でも…結局叶うことはありませんでしたけど…」
「ヒルダ…」
カラン
テーブルの上に置いたグラスから氷の溶ける音が聞こえた。少しの間、2人の間に沈黙が下りた。
が、やがてアレンは口を開いた。
「ヒルダ、そろそろ帰ろうか?」
他の学生たちはまだまだ残ってお酒を飲んだり、談笑したりと過半数は残っているが、中にはパーティー終了後に仲睦まじげに会場を後にしていったカップルたちもいた。
「はい」
アレンとヒルダは立ち上がると、腕を組んで会場を後にした。
****
「…」
ようやく家業の手伝いから開放されたフランシスはルイスとカインと一緒にボックス席でワインを飲んでいた。
「なあなあ、何ていうかさ…」
ルイスはワインで顔を赤らめながら2人に言う。
「何だよ、早く言えよ」
フランシスはルイスを小突いた。
「ヒルダとアレン先生ってお似合いだと思わないか?」
「…」
その言葉にフランシスはたちまち不機嫌になってしまった。
「ああ、そうだな。俺も実はそう思っていたんだよ」
カインはチーズをつまみながら言う。
「お前たち…俺がヒルダを好きなのを知っていてそんな事言ってるのか?」
フランシスはイライラしながらワインをグイッと飲み干した。
「ああ、分かってるって。だがな、お前ルドルフが死んだ後、どれだけ多くの男子学生がヒルダに告白してるか知ってるか?噂によると学園の男子学生の半分近くが告白してきたって話だぜ?」
ルイスが面白そうに言う。
「そう言えば、毎日ヒルダのところに男子学生が来ていたな」
カインもワインを傾けながら当時を思い出していた。
「だけど、皆その場で断られていただろう?結局誰もルドルフには敵わなかったってわけだよ」
フランシスは追加のワインをグラスにトクトクと注ぎながら仏頂面で言う。
「そういうフランシスは何故ヒルダに告白しなかったんだよ。意外とお前ならいけたんじゃないか?」
カインの言葉にフランシスは首を振った。
「俺が?冗談じゃない。大体ヒルダとルドルフは故郷で婚約していた仲だろう?しかも噂によるとプロポーズまでされていたそうじゃないか。そんな相手と俺が適うはずないだろう?告白して振られて…気まずくなるくらいならいっそずっと友人のままでいた方がいいんだよ」
フランシスはやけ酒のようにグイッとワインを飲んだ。そこへステラとエミリーがやってきた。
「カイン、もうそろそろ帰りましょうよ」
エミリーがカインの腕を引っ張ると言った。
「そうよ、送っていってよ」
ステラはルイスの手を握りしめると言った。その様子を面白くなさそうな顔でフランシスは言った。
「おい、お前ら。恋人がいない俺の前で見せつけるなよ。ほら、さっさと帰れよ」
フランシスはシッシッと4人を追い払う真似をする。彼らは皆カップルなのだ。
「フランシスも大学へ行ってから恋人をみつければいいでしょ。さ、帰りましょ」
ステラはルイスを椅子から立たせると、腕を絡めた。
「よし、それじゃ帰るか」
ルイスはステラににキスすると言った。
「じゃあな。フランシス」
「またな」
「卒業旅行で会いましょ」
「バイバーイ」
ルイス、カイン、ステラ、エミリーが順番にフランシスに挨拶をすると帰って行った。
「ふん!どいつもこいつも浮かれやがって…」
フランシスは面白くなさげに再びワインを口に運んだ―。
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