第4章 1 クロード警部補の事情聴取 1
午前9時―
ヒルダとルドルフが『ボルト』の町を去ってから数日後の事…。
クロード警部補は誰もいない『ボルト』の駅のホームに1人で降り立った。
「全く…相変わらずここの町は空気が悪いな」
ホームに立った途端、顔をしかめるとポケットから持参してきたマスクをつけ、さらに口元をマフラーで覆い隠したクロード警部補がぼやいた。
(ここは治安も悪いし、アヘンが横行しているからな…本当に最悪の町だ。ルドルフ君は、よくこの町にやってきたな。まあ…それだけフィールズ家の令嬢を助けたいのだろう)
そしてコートのポケットに入れてある手帳を取りだしてページを開いた。そこにはルドルフから聞いたコリンが働いている工場の住所と、ノラが入院している赤十字病院の住所が書かれている。
「さて、行ってみるか」
そして改札を目指して、歩き出した―。
****
ゴンゴンゴンゴン・・・・
激しく機械音が鳴り響く中、大勢の工員たちがベルトコンベアに向かって流れ作業をしていた。そこで働いている者たちは全員がやせ細り、青白い顔をしている。
彼らはつぎはぎだらけの作業着を身に着けたみすぼらしい若者ばかりだった。中には具合が悪いのか、激しく咳込みながら仕事をしている者もいた。
そして彼らの背後にはでっぷりと肥え太った現場監督が腕組をして彼らの働きぶりを監視している。
「お前ら!何モタモタ仕事しているんだ!もっとピッチを上げろ!」
時には罵声を上げ、作業が遅い人間の頭を殴りつけることもある。その時、彼の目の前で1人の若者が突然床に倒れてしまった。
「おい!貴様!何やってるんだっ!起きろっ!」
現場監督はドスドスと大きな足音を立てながら、倒れた若者の髪の毛をグイッと掴んで頭を上げたが、彼は白目を開けて口から泡を吹いている。
「ウワッ!こ、こいつ…!気味が悪いっ!おい、誰かこいつを運べっ!」
すると、このベルトコンベアのリーダーを務める男性が現れた。そして無言で床に倒れている若者を無表情な目で見下ろすと、しゃがんで両足首を掴み、引きずるように何処かへ連れ去って行く。その様子をコリンは震えながら見つめていた。
(ああ…また1人倒れてしまった。あいつは同室のボビーだ…。ひょっとして死んでしまったんじゃないだろうか?数日前から体調が悪そうだったから…。お、俺も今にあんな風に仕事中に倒れて死んでしまうんじゃ…!)
その時…
「おい!ここにコリンという奴はいるかっ?!」
突如、コリンが働いているレーンに工場長が現れた。
(え?俺が呼ばれている?)
「は、はい!俺がコリンですけど!」
コリンは手を挙げた。すると工場長がずかずかとやってくると、突然コリンの襟首をつかむと言った。
「貴様…一体何をやったんだ?警察がお前のところにやってきたぞ?聞きたいことがあるってな」
「え…け、警察が…?」
コリンにはさっぱり心当たりが無かったが、工場長は言う。
「貴様、この工場の内情を警察にチクったんじゃないだろうな?それで警察がやってきたのか?!」
大抵の工場は最低限の休みや食事しか与えられない。仕事中に死んでいく人間も大勢いた。工場長は警察にその実態を知られるのを恐れていたのだ。
「し、知りません!お、俺は何も…!」
コリンは震えながら答える。
「うるせぇっ!てめえは今すぐクビだっ!警察の話が済んだらすぐに出て行けっ!」
そして蹴り飛ばされてしまった。
「う、うう…」
コリンは必至で立ち上がると、工場長が言う。
「出口で警察が立って待っている。さっさと行けっ!」
顎でしゃくられたコリンはズキズキ痛む身体を引きずるように工場の出口へと向かって歩き出した―。
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