第1章 8 偶然の2人

 ヒルダは重い左足を引きずるようにアパートメントを目指して歩いていたのだが・・。


「ふう・・・荷物が重いわ・・・。安かったからちょっと買い過ぎてしまったかしら・・。」


手に提げていた布袋の中には野菜、果物、お肉に塩漬けにした魚などが入っている。今日は商店街のマルシェが特売日だった為に調子に乗って買い過ぎてしまったのである。その為、荷物が重すぎてヒルダの左足に負荷がかかってしまったのだ。アパートメントまではまだ後10分近く歩かなければならない。


「どこかで休憩したいわ・・。」


ヒルダはメインストリートを歩きながらキョロキョロ見渡していると、ガス灯の下にベンチが置かれているのが目に入った。


「そうだわ・・・あそこで少し休みましょう。」


ヒルダは頑張ってベンチまで歩くと、少しだけ埃を払って腰かけた。


「ふう・・・。」


ヒルダは自分が座ったベンチの上に荷物を置くと、履いていたブーツを脱いでズキズキ痛む左足のふくらはぎをタイツの上からゆっくりマッサージを始めた。ほんの僅かでもマッサージするだけで、痛みはかなり軽減される。


(やっぱり冬場は痛みが出るから大変ね・・・。)


ふとその時、ヒルダの目の前をスケート靴を手に持った同じ年位の4~5人の少女たちが楽し気に通り過ぎて行った。


(スケートだわ・・・。そう言えばカウベリーにいた時・・お父様とお母様と湖に滑りに行ったことがあったわ・・・。)


ヒルダはスケートが好きだった。けれども・・・今となってはもうこの足で滑る事は叶わなくなってしまった。不自由な足の上、冷える氷の上に立つことなどはもう今のヒルダには到底不可能であった。


(でも・・仕方ないわね。歩けるだけいいと思わなくちゃ・・・。)


ヒルダは気をとりなおし、再び足のマッサージを始めた・・・。



 丁度その時ルドルフは店を出て自宅の寮を目指して歩いていた。その時に前方にベンチに座り、俯いて足をマッサージしている少女を見かけた。


(何だかヒルダ様に似ているな・・・。)


そう思った次の瞬間・・・少女は顔を上げた。それはヒルダだった。


(え・・・?!ま、まさか・・・本当にヒルダ様・・・っ?!)


ルドルフは思わず立ち止まって足を止めた。ヒルダは脱いでいたブーツを履くと、傍に置いておいた荷物を持ち、再びゆっくり歩き始めた。その荷物は足の不自由なヒルダにはとても重そうに見えた。ヒルダはルドルフには全く気付いていない様子で歩いてたが、次の瞬間ヒルダは石畳の上で左足が引っかかってしまった。


「キャ・・・!」


思わずグラリとヒルダの身体が傾いた。次の瞬間―


「危ないっ!」


ガシッ!


ルドルフは背後からヒルダをしっかり抱き留めた。


ドサドサッ!


ヒルダの持っていた荷物が地面に落ちてしまった。


「あ・・・。」


危うく転びそうになったヒルダは自分が抱き留められている事に我に返り、慌てて頭を下げた。


「あの、どうも有難うございました。」


「いえ・・・。」


頭を下げたヒルダは顔を上げ・・・目を見開いた。何と自分を助けてくれたのはルドルフだったからだ。


「あ・・・ど、どうも・・ありがとう・・。」


ヒルダは咄嗟に視線をそらしてしまった。そしてすぐに荷物を拾う為にかがもうとするとルドルフが言った。


「僕が拾います。」


そしてサッサと荷物を広い、袋に入れた。ヒルダはそんなルドルフの姿を複雑な表情で見つめていた。何故なら先程親し気にマーガレットと店に入って行く姿を見ていたからだ。


(ルドルフは・・・マーガレットのお付き合いしている人・・なのよね・・。)


ルドルフが荷物を全て袋に入れるのを見届けたヒルダは言った。


「どうも有難う・・。荷物、貸して貰える?」


そしてルドルフの前に手を差し出した―。





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