第12章 8 イワンの埋葬
教会では神父の厳かな祈りの言葉が続いていた。参列者たちは手にロザリアを握りしめ、頭を垂れて祈りを捧げている。そして神父の祈りの声に混ざり、聞こえてくるのはイワンの母の悲痛な嗚咽だった。
あまりにもイワンの母が泣き続けているので、後ろの席ではイワンの母に対する中傷の言葉がヒソヒソと囁かれ始めていた。
「それにしても・・いくら何でも泣き過ぎじゃないか・・?」
「神父様の声が聞こえないわよ。」
「自殺の原因・・あれは母親のせいじゃないか?」
「ああ・・明け方から夕方まで働いていたって言うし・・・。」
「きっと追い込まれてイワンは自殺したに違いない・・・。」
彼らの前に座っていたハリスたちの姿に気付いているのに領民たちはイワンの母をなじる言葉を言い続けている。
(違う・・っ!イワンが自殺したのは・・母親のせいなんかじゃなない・・!グレースに追い込まれたからだ・・っ!)
ルドルフはグッと歯を食いしばり、自分の両膝を力強く握りしめた。そうでもしなければ、イワンの母の悪口を言う大人たちに文句を言ってしまいそうだったからだ。
身体を震わせてじっと耐えているルドルフに隣に座るエドガーがそっと耳打ちした。
「落ち着け、ルドルフ。今ここで事を荒立てるわけにはいかないんだ。辛いだろうが・・耐えるんだ。」
エドガーは先ほどのハリスの態度を見習おうと思った。今はイワンの大切な葬儀の真っ最中なのだ。イワンが神の身元にいけるように祈るのが自分たちの務めなのだと思うようにしたのであった。
「は、はい・・分かりました。」
ルドルフは小さく呟くと右手に持っているロザリアを強く握った―。
ゴーン
ゴーン
葬儀が終わり、イワンの眠る棺が教会の裏手の墓地に埋められようとしていた。
「イヤアアアッ!!イワンッ!イワンッ!あの子を・・・埋めないでおくれよっ!お願いだからっ!」
狂ったように泣き叫ぶイワンの母を近所に住む大人たちが必死に押さえつけていた。
イワンの母の悲痛な泣き声は棺が完全に人々の手によって埋められるまで、辺りに響き渡っていた。
そんな様子をルドルフとエドガーは離れた場所で見つめながらルドルフはポツリと言った。
「エドガー様・・。」
「どうした?」
エドガーは隣に立つルドルフを見た。
「イワンの死は・・僕が原因を作ってしまったのかもしれません・・。」
「な・・何だって・・・?」
ルドルフの言葉に耳を疑うエドガー。
「何故だ?ルドルフ・・・何故そんなふうに思うんだ?」
「それは・・僕が『カウベリー』に戻ってきた時に・・駅で会ったイワンに声を掛けたから・・そしてグレース達の事を彼に尋ねたから・・彼は怯えてハリス様に手紙を・・。」
「馬鹿な事を言うな。何故君までそんな風に考えるんだ?」
エドガーの言葉にルドルフは顔を上げた。
「え?僕迄って・・・もしかして・・?」
エドガーは辺りをうかがいながらそっと言った。
「ああ・・ヒルダも君と同じことを言ったそうだ・・。アンナ嬢から聞いたよ。イワンとグレースが同じ日に死んだのは自分が原因かもしれないと・・偶然とは思えないと語ったらしいんだ。」
「え・・・そ、そんな・・・。ヒルダ様こそ一番の犠牲者なのに・・・!」
「それで・・ヒルダは今日中に『ロータス』へ戻ることになったんだ。・・俺としては本当はもっと長く『カウベリー』に滞在してもらいたかったのに・・・。」
「ヒルダ様が・・・『ロータス』へ帰ってしまう・・・。」
(冬期休暇がまだ始まったばかりだって言うのに・・・。どうして・・どうしてこんな事になってしまったんだ・・?!あんなことが無ければ・・僕とヒルダ様は幸せに暮らしていけたはずなのに・・!)
ルドルフはずっと夢を見ていた。ヒルダと恋人同士として、一緒に楽しく学校生活を送り・・2人で笑いあって過ごせる日々を・・。だが、今の現状では決してそれは叶わない願いなのだ。
「グレース・・・僕は・・死んでも君を許さないからな・・・。」
ルドルフが悔しそうに言うその姿をエドガーは黙って見つめていた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます