第11章 2 ヒルダの帰郷 2
「ヒルダ様、打ち合わせ通り・・名前を変えますからね。ヒルダ様は可憐な方ですから、ライラックという名前はいかがですか?」
アンナはヒルダの目をじっと見つめながら言う。
「ライラック・・素敵な名前ですね。」
ヒルダは頷いた。
「それでは今からヒルダ様はライラック・ブルーにしましょう。ヒルダ様の瞳は青くて美しいですからね。」
アンナはヒルダの名前を考え着くと、ニコリと笑みを浮かべた。
****
その頃―
エドガーはエントランスの傍の応接室でヒルダが到着するのを今か今かと待ちわびていた。窓から外の様子を伺ってはため息をつき、時計を眺めてはそわそわし・・・。
先程から落ち着かない様子で応接室の中を行ったり来たりを繰り返していた。
「暖炉の火は大丈夫か?冷えると怪我をした足に悪いからな・・・。いや、それよりも先に温湿布を用意しておくべきか・・だが使用人に用意させると、ヒルダだとばれてしまうかもしれないし・・・。あ、暖炉の火が弱まっている!」
エドガーは慌てて薪をくべると、火かき棒で灰をならし・・・思わず苦笑してしまった。
(全く・・・ヒルダの事になると、自分を見失ってしまうなんて・・。)
「そうだ!お茶の用意をしておかないとな・・。」
エドガーは応接室の上に乗っているベルを振った。
チリンチリン
すると、ほどなくしてノックの音が聞こえた。
「エドガー様。お呼びでしょうか?」
それは執事のハリスの声だった。
「ああ、もうすぐアンナ嬢が友人を連れてこの屋敷を尋ねて来る。カウベリーティーの用意をしてくれるか?あとはカウベリーケーキもついでに頼む。」
エドガーはヒルダの好きな飲み物とお茶菓子を把握している。
(きっと・・ヒルダは喜んでくれるだろう。)
ヒルダがおいしそうにお茶を飲み・・・ケーキを食べる姿を想像するだけでエドガーの顔に笑みが浮かぶ。そんな様子にハリスは気付いたのか、声を掛けてきた。
「エドガー様。何だか今日は・・とても楽しそうに見えますが・・何か良いことでもありましたか?」
「え?そ、そうか?」
「はい。何と言いますか・・すごく幸せそうに見えます。」
「幸せそう・・・か・・。」
エドガーはポツリと呟くと言った。
「すまないが・・・アンナ嬢と客人のお茶の用意が出来たら、人払いを頼む。アンナ嬢の友人は人見知りが激しい方の様だからな。」
エドガーはいくらヒルダが変装をしたとしても、勘の良い使用人に気付かれないようになるべく彼らを遠ざけようと考えていたのだ。
「はい、承知致しました。ではお茶とケーキの準備をしてまいります。」
ハリスは頭を下げると部屋を後にした。
その時・・外から馬のいななきが聞こえてきた―。
****
「さ、ライラック様。私につかまって下さい。」
アンナは先に馬車から降りると右手をヒルダに差し伸べてきた。
「ありがとうございます。アンナ様。」
ヒルダはアンナの手につかまると慎重に馬車を降りた。
「ライラック様。私がドアをノックして出迎えた方に私の方からお話するので、なるべく口を開かないようにして下さいね?」
「はい、分りました。」
ヒルダは素直に頷く。
「私・・・何だか緊張してきました・・・。」
コゼットは背筋を伸ばしながら言う。
「まぁ、コゼットったら・・。」
アンナは笑みを浮かべ・・ドアに向かった時・・・。
ガチャリ
突然ドアが開かれ、姿を現したのはエドガー本人だった。
「ま・・まあ!エドガー様自らが出迎えて下さったのですか?!」
アンナは目を見開いてエドガーを見た。
「あ、ああ・・・そうなんだ・・・。それで・・・。」
その時、エドガーは見た。アンナの後ろに立つ人物を。
眼鏡をかけ、栗毛色のカツラを被った少女・・・。エドガーの胸に熱いものが込み上げてきた。
「ヒ・・・。」
エドガーが口を開きかけた時、アンナが素早く言った。
「エドガー様。この方は私のお友達のライラック・ブルー様です。」
「え・・?ライラック・・・?」
するとヒルダが口を開いた。
「初めまして・・ライラック・ブルーと申します。よろしくお願いします。」
そして頭を下げた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます