第10章 11 初対面

 翌日午後13時―


ヒルダはアレンから5日間のアルバイトのお休みの許しを得て、『ロータス』の駅へアンナの迎えに来ていた。


「アンナさんて・・・どんな方なのかしら・・。」


ヒルダは杖を突いてドキドキしながら駅の改札口でアンナが出てくるのを今か今かと待っていた。ヒルダはアンナの外見を口頭でしか聞いていない。

アンナ・スノウ。14歳、黒髪にウェーブがかかった長い髪に黒い瞳の少女。


「黒髪に黒い瞳なんて・・・神秘的だわ・・・。」


『ロータス』では黒髪の人物はほとんどいない。たいてい、茶髪かオレンジ、もしくはブロンドヘアの人々ばかりなのだ。恐らく黒髪ならすぐに誰がアンナか分かるだろう。でも・・万一見失ってしまったら・・・?ヒルダは一抹の不安を感じながら改札をじっと見守っていると、大勢の人々が改札口へ足早に向かってやってきた。


「あ・・・電車が到着したのかもしれないわ。」


ヒルダは改札を通りぬける人々の邪魔にならない位置に避けると、じっとアンナが出てくるのを待っていた。すると・・・。


「ヒルダ様ーっ!」


改札から元気な少女の声が聞こえてきた。見ると上質なロングコートに身を包んだ黒髪の可愛らしい少女が手を振ってこちらへ駆けてくる姿がヒルダの目に飛び込んできた。そしてその後ろを・・・彼女の侍女だろうか?20代と思しき女性が大きなキャリーケースを必死で引っ張ってい追いかけてくる女性の姿も見える。

アンナは息を切らせながらヒルダの傍まで駆け寄ってくると言った。


「初めまして、ヒルダ様。私はアンナ・スノウ。エドガー様の婚約者です。どうぞよろしくお願い致します。」


アンナは貴族令嬢らしく、コートの両端をつまむと深々とお辞儀をしてきた。それを見たヒルダは慌てて言う。


「そ、そんな・・・顔を上げて下さい、アンナ様。私はもう爵位を剥奪された、ただの平民です。私のような者にそのような挨拶は無用ですから。」


しかし、顔を上げたアンナは言う。


「いえ、とんでもありません。ヒルダ様はエドガー様の大切な妹だと伺っております。後2年後には私はエドガー様と婚姻する予定なのです。そうなると私とヒルダ様は親戚同士になるわけですから、そんなふうにおっしゃらないで下さい。」


そして愛らしい笑みを浮かべた。


「アンナ様・・・。」


その時―。


「ア・・・アンナ様・・は、早すぎますよ・・。」


ハアハアと息を切らせながら大きなキャリーケースを必死の形相で引っ張ってきた女性がアンナに声を掛けてきた。


「あ、ヒルダ様。彼女は私の侍女のコゼットです。」


するとコゼットはヒルダに頭を下げると言った。


「初めまして、ヒルダ様。私はアンナ様付きの侍女のコゼット・レイヤーと申します。どうぞよろしくお願い致します。」


そこでヒルダもコゼットに倣い、頭を下げた。


「ヒルダ・フィールズと申します。」


そしてアンナを見ると言った。


「ではアンナ様、駅の外へ出て馬車でホテルまで参りましょう。長旅でお疲れでしょうからお話はホテルに着いてからにしませんか?確か今夜宿泊されるホテルは港が見えるホテル『シーサイド』でしたよね?」


「ええ、そうなんです。私・・まだ一度も海を見たことが無くて、是非一度見て見たいと思って、港近くのホテルを宿に選んだんです。」


アンナは嬉しそうに微笑む。


「内陸部には海はありませんからね。あのホテルからなら窓を開ければ波の音が聞こえると思いますよ。ではご一緒に参りましょう。」


ヒルダはアンナに言うと、踵を返し・・・杖を突きながらコツコツとアンナたちの前を歩き始めた。


そして・・アンナはヒルダの不自由な足を見た。


(あの・・・足の怪我の原因が・・・グレースなのね・・・。エドガー様の妹であるヒルダ様に酷いことをして・・絶対に許さないんだからっ・・!)


アンナは心の中で強く思うのだった―。














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