第4章 14 エドガーと少年、少女たちの別れ

 午後3時―


ヒルダとエドガーは蒸気船を待っていた。


「ヒルダ・・・本当に『ロータス』に戻ってしまうの?」


ステラが寂しそうに言う。


「ええ。あまり遅くなるとお姉さまも心配するし、お兄様にも都合があるから。」


ヒルダの言葉にエドガーは言う。


「ああ、そうなんだ。君たち・・色々ありがとう。おかげで楽しい時間を過ごすことが出来たよ。それに思いがけずおいしいハンバーガーをご馳走になったしね。」


そしてエドガーはこれ見よがしにマイクを見る。マイクは悔しそうに下唇を噛みながらエドガーから視線を外す。


「それにしても、お兄様ってすごいんですね~あんなに大きくて素敵な貝殻を見つけるなんて。」


エミリーはますます頬を赤らめながらエドガーを熱い視線で見る。



 あの後―


 それぞれ貝殻を拾い集め、ヒルダたちは砂浜に集合した。全員で一番大きいと思われる貝殻を砂間に置いて比較し・・・結局エドガーが見せた貝が誰よりも大きく、優勝したのはヒルダとエドガーであった。そしてエドガーの要求が自分とヒルダにお昼をご馳走する事・・・だったのである。

実は何故、エドガーがそれほどまでに大きな貝を持っていたのか・・・そこにはある背景があった。

実はヒルダ達が乗ってきた蒸気船は、お土産に乗客全員に貝殻のプレゼントがあったのだ。エドガーはそこでヒルダに一番大きい貝殻をあげようと思い、さんざん見比べて手に取った貝殻が・・・エドガーとヒルダを優勝に導いたのである。


 

ボ―・・・・。


やがて海から蒸気船の音が近付いてきた。


「あ、ヒルダ。観光船がやってきたようだな。」


「はい、お兄様。」


やがて青い水平線からどんどん蒸気船が近付いてくる。長く伸びた煙突からは蒸気が噴出している。


「船がみえてきたぞ!」


カインが海を指さしながら言う。


「フランシス。」


するとエドガーが突然フランシスに声を射かけてきた。


「は、はい!お兄さん!」


フランシスは突然エドガーに声を掛けられて、直立不動になった。


「ヒルダの事・・・よろしく頼むな。君が頼りだ。」


そしてフランシスの肩に手を置く。


「!」


その様子を見てマイクが固まった。


(何故だ・・・?何故彼はクラス委員の僕ではなく・・・フランシスにヒルダの事を頼むんだ?僕が・・・それほど気に食わないのか・・・?)


マイクが悔しそうに隣で立っているのを気づく素振りも無く、フランシスは言う。


「はい、お兄さんッ!ヒルダの事は・・どうか俺に任せてくださいっ!」


「へえ~お前・・すごいな。ヒルダのお兄さんに認められたのかぁ?」


ルイスがからかうように言う。するとエドガーは言った。


「とにかく・・・どうか、これからも俺の可愛い妹ヒルダをよろしく頼むよ。くれぐれも・・・。」


そしてチラリとマイクを見ながらエドガーは言った。


「ヒルダを困らせるような行動はやめてくれよ?」


そして口元に笑みを浮かべた。


「あの、お兄さん。また『ロータス』へ来てくれますか?」


すっかりエドガーの魅力にとりつかれたエミリーが頬を染めて尋ねる。


「うん・・そうだな・・・。君たちが夏季休暇の時にでも・・一度訪ねてもいいかもな。ヒルダの事が心配だし。」


エドガーは帽子を被ったヒルダの頭をなでながら言う。そんな会話をしている内に、いつの間にか蒸気船は港に停泊していた。


「お兄様、船が着きました。乗りましょうか?」


ヒルダはエドガーに声を掛けた。


「ああ、そうだな。行くか?それじゃ、皆・・・元気でな。よし、ヒルダ。船に乗ろう」


そしてエドガーはヒルダを軽々と抱き上げると、フランシス達に言った。


「皆、またな!」


そしてエドガーはヒルダを抱きかかえ、船の中へ消えて行く。


ヒルダたちが乗り込むとすぐに船は再び汽笛を鳴らして、ゆっくりと動き出す。

そして大声で別れを告げるフランシス達。


その中でマイクはただ一人、睨みつけるように蒸気船を見つめていた—。



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