1章 12 盗み聞き

 放課後―


ヒルダがクラスメイトのアデルの財布を盗んだと言う話は、瞬く間に学年中に噂として広まった。

そして今、ヒルダは校長室へ呼び出されている。



ダフネの取り巻きの貴族派閥の令嬢達が学院内のカフェテリアで飲み物を飲みながら会話をしていた。 


1人の女子生徒がストローでオレンジジュースを飲みながら言う。


「ふん、全くいつもお高く留まっていると思っていたけど・・・ほんとはとんでもない人間だったのね。あのヒルダって女は。」


「その通りよ。人の物を盗んで平気でいられるんだから。」


「あの分だと、ひょっとして今まで受けていた試験もカンニングしていた可能性だってあるかもしれないわよ?」


ダフネの仲間の女子貴族達が口々に陰口をたたいている。


「ねえ、そう思わない?ダフネ。」


1人の女生徒が先程から沈黙しているダフネに話しかけてきた。


「え?な、何かしら?」


突然話しかけられたダフネは慌てて顔を上げた。


「やだ・・・聞いていなかったの?ヒルダさんの事よ。」


「え?ヒルダさんの?」


「ええ、そうよっ!あの女は盗人なのよ。そりゃ・・あの生意気なアデルが財布を盗まれた時はいい気味だって思ったけど・・あんなふてぶてしい態度をヒルダさんが取るなんてね〜。」


他の女生徒も続けて言う。


「そ、そうよね。本当にヒルダさんは生意気よね。」


ダフネは相槌を打ちながらも、内心不安で一杯だった。ダフネはこんなにも大事になるとは思ていなかったのだ。

ただ、ダフネは日頃から生意気だと思っていたアデルとヒルダにほんの少しだけ意地悪な事をしてみようと考えていただけだったのに、まさか校長室へ呼び出されるとは・・・


「・・・・。」


気付けばダフネは両手を組み、小刻みに震えていた。


「え・・?ちょ、ちょっとどうしたの?ダフネ?」


友人の1人がダフネの異常に気付いた。


「あ・・・う、ううん・・・な、何でも無い・・わ・・。」


ダフネは真っ青になりながらも言った。


「嘘言わないでっ!顔が真っ青になってるわよ?!」


別の友人も言う。


「ねえ・・ダフネ。具合が悪いなら・・もう寮に戻った方がいいんじゃない・・?」


「え、ええ・・・。そうね・・悪いけど・・そうさせて貰うわ・・・。」


ダフネはカバンを持つと、力なく立ち上がった。


「大丈夫?1人で帰れる?」


ダフネの隣の席に座っていた女生徒が尋ねた。


「ええ・・・大丈夫。1人で戻れるから。」


そしてダフネはカバンを持つと、ふらふらと歩きながら出口へ向かって行く。



「「「・・・。」」」


その様子を黙って見守る3人の友人達。やがてダフネが店を出ると、一斉に顔を寄せ合って3人は話し出した。


「ねえねえ。見た?今のダフネの様子。」


「もちろんよっ!あれは・・・間違い無いわね。」


「ええ、きっとダフネがアデルの財布を盗んでヒルダの机の中に入れたのよ。大体、ダフネは今日随分ギリギリの時間にカフェリアに来たじゃない。」


「そうよね〜。それよりもその前にヒルダさんがカフェテリアに来た事事態が驚きだったけど。」


これで3人は確信した。

アデルの財布を盗んだ本当の犯人はダフネに間違いないと—。


 その頃・・・


ステラは校長室に呼び出されたヒルダが心配でたまらなかった。そこでこっそり校長室の前に置かれたロッカーの物陰に隠れ、部屋の壁にピタリと張り付き、何とか会話を聞き出そうと耳を押し当てていると、時折中からぼそぼそと小さく会話が聞こえてきた。その中で『停学』と言う言葉が出てきた時、ステラは驚いてしまった。


(そ、そんな・・・ヒルダさんは停学処分になるの?だけど・・犯人はヒルダさんのはずが無いのに・・・だって今日は私昼休みの間・・・ずっとヒルダさんと一緒にいたのに・・!何か・・ヒルダさんが犯人ではないという証拠があれば良かったのに・・・!)


その時・・・


ガタンッ!!


近くで大きな物音がしたので慌ててステラが振り向くと、そこには大きな観葉植物の陰でしりもちをついているダフネがいた。

ダフネの顔は青ざめている。


(え・・?ダフネさん・・?)


思わずステラはロッカーの物陰から顔を出し、ダフネと目が合ってしまった。

その瞬間、ダフネの目には恐怖が浮かんだ。そして身を翻し、バタバタと廊下を走り去って行く。


「まさか・・・アデルさんの財布を盗んだ犯人は・・ダフネさんだったの・・・?」


逃げていくダフネの後姿を見ながらステラは呟いた―。








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