第5章 9 迎えに来た人物は
翌日―
ヒルダが登校する為、馬車に乗り込む時に御者の青年が声を掛けてきた。
「ヒルダ様、お手をどうぞ。」
そして右手を差し出してきた。
「有難う、スコットさん。」
ヒルダはスコットの手を借り、馬車に乗り込んだ。この青年はマルコが父ハリスの専属執事に就任してすぐに御者としてフィールズ家で働くようになった18歳の若者で男爵家の次男とヒルダは聞いていた。
「ヒルダ様、それではいつものようにルドルフの家によれば宜しいのですよね?」
スコットはルドルフと自分が同じ爵位である事と、そして自分の方が年上と言う事もあり、ルドルフを呼び捨てにしていた。勿論、それはルドルフ自身が望んだ事でもあったのは言うまでもない。
「ううん、いいの。もうルドルフの家には寄らなくても・・・。」
「ええ?!それじゃルドルフはどうって学校へ行くのですか?確か馬はマルコ氏が乗っている1頭のみですよね?ここから学校までは5Kmは離れているのですよ?とても歩いて行ける距離ではありません。」
スコットの疑問にヒルダは答えた。
「それなら大丈夫なのよ。ルドルフの家には・・グレースという女の子が馬車で迎えに行く事になっているから。」
ヒルダは寂しそうに答えた。
「ヒルダ様・・・・?」
スコットは昨日の放課後からヒルダの様子がおかしいのが気になっていた。朝は元気だったのに、帰りはヒルダ1人で、婚約者であるルドルフの姿が見えなかった。そして今朝もルドルフの元へは行かないと言い出すのだから、流石にこれは2人の間に何かあったに違いないと思った。
「ルドルフと・・・何かあったのですか?」
聞いてはいけないと思いつつ、ついスコットは尋ねてしまった。すると途端にヒルダの目に涙が溜まる。
「あっ!す、すみませんっ!ヒルダ様・・・何だか余計な事を尋ねてしまって・・!」
するとヒルダは言った。
「ご、ごめんない、そうじゃないの。目にゴミが・・・。」
ヒルダは必死で胡麻化す為に目をゴシゴシ擦りながら言った。
「そ、そうでしたか。ヒルダ様。それでは出発しますね。」
そしてスコットは馬に合図を送ると馬車を走らせた―。
その頃、ルドルフは家の前でヒルダの馬車を待っていた。結局昨日はわけが分からない状態でヒルダに去られてしまい、結局グレースと一緒の馬車に乗って帰って来たのだった。
(今日はヒルダ様にちゃんと尋ねるんだ。どうして昨日あんな態度を取られて先に帰ってしまったのか・・・。)
そしてガラガラと音を立てて馬車がこちらに向かってやって来るのをルドルフは見た。
「あれ・・・?あの馬車・・ヒルダ様の馬車じゃない・・・。どういう事だろう?」
戸惑っていると、馬車はドンドン近付いてきて、ついにルドルフの目の前で止まった。そして馬車から降りて来たのは・・・。
「おはよう、ルドルフ。迎えに来たわよ?」
「え・・?グ・・グレース?一体何故ここに・・?」
ルドルフは驚いてグレースを見た。
「何故って決まってるじゃない。ルドルフを迎えに来たのよ。」
グレースはニコニコしながら言った。
「む、迎えに来たって・・・グレース。君はどうして制服を着ていないの?それに・・何故ヒルダ様がここに来ないの?」
するとグレースはヒルダの名前を聞いた途端、眉間にしわが寄った。
「ルドルフ・・・お願いだから私の前でヒルダ様の話はしないでくれる?それに彼女の方から私に頼んできたのよ?これからはルドルフの送り迎えをお願いねって。」
しかし、その言葉は真っ赤な嘘だった。グレースの方からヒルダに一緒に登下校をするのを辞めるように言ったのである。
そしてグレースは有無を言わさずルドルフの腕を取ると、馬車に引きずり込むと言った。
「ねえ、ルドルフ。ヒルダ様はもう貴方の事は好きじゃないのよ。だからヒルダ様の事はあきらめて?」
「・・・・。」
ルドルフは無言でグレースの顔を見つめた—。
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