第7話・その名はベリーピンクブレイク
心瞳くんに言われて2日から3日ほど様子見でまだ家に残る。という話が何故か伸びに伸びて土曜日の朝になっていた。
僕は自分の家がある事を忘れていたのだと思う。さすがに居候をし過ぎな気もするけれどここの家主である心瞳くんからの反応も特になく完全に僕は帰るタイミングに困っている。
とにかく帰る事を考えるよりも今はベッドから気づかれないように抜け出さないと。
いつも僕より先に起きて朝食を作ってくれる心瞳くんには感謝の気持ちとして今日は僕からちゃんとしたお返しをしたいんだ。
こっそり枕元に仕掛けておいた小音のアラームを閉じる。やや心瞳くんと距離が近かったから少しビックリしてしまったけれど足音を立てないように慎重に一歩ずつ階段を下る。
昨日、1人で散歩をしたいという口実のもとスーパーに行って買ってきた朝食の材料を冷蔵庫の一番奥から取り出す。
いつもは美味しい目玉焼きなど作ってくれるので、ここはあえてオリジナルの朝食を作ってみようと思う。
材料
卵……2個
玉ねぎ……半分
ソーセージ……適量
ハチミツ……適量
板チョコレート(隠し味)
いちご(隠し味2)
ちなみに料理と言える料理は人生で多分これが2回目なので張り切って作っていく。
自分のエプロンは勿論ないのでエプロン無しで服を汚さないように作っていきたいところだけど、既に手を洗っている最中に水で濡れてしまった。
材料を一通り出したところで先に白米を炊いておかないといけない事に気がついて少しバタバタしながら作っていく料理のイメージを頭の中で確認する。
今回作るのは、完全オリジナルのスクランブルエッグとソーセージ。
限定・焼肉定食は結局心瞳くんに買ってきて貰ったのでここはかっこ悪い所を挽回するチャンス。
なんだかんだイメージ通りに手際よく料理は進み、横の髪の毛が少し跳ねている心瞳くんがリビングに現れる。
(完全寝起きの所初めて見たかも。)
「白鳥おはよ……で、俺より先に起きてなにしんてんの?」
眠そうな顔でこちらを物色するように台所に近づこうとしてきたので、予め机の上で立てておいたスケッチブックに指をさして状況を説明する。
「ん?(スケッチブックを見ろってか?)」
【いつも作って貰ってるから今日は作るね。座って待ってて。】
朝食を白鳥が?え、こいつ料理出来んの?
朝食を作るの?白鳥が?やべ、なんか今頭ん中で2回同じ疑問が強く浮かんだ気がする。
白鳥の家にあがった時、料理の痕跡なんて何一つありやしなかったのにまさか普通に出来るのか?白鳥が?
そんな気使わなくていいのにな。
まぁでも、どんなもん作んのかは気になるしな·····ていうかさっき近づいた時すげぇ甘いニオイしてたけど、これ朝食で合ってるよな?
「分かった。·····じゃあ先に顔洗ってくるわ。」
両手に冷水を貯めて顔にかけると半目気味だった目も開き始め頭もスッキリしたような気がした。
鏡に映る自分を見ていると今日は休日で、白鳥が家に来てからもう1週間近く経とうとしているなと真顔で思う。
白鳥の風邪は当たり前だけどもう治ってる。けど俺にも分からないが何故だか今も居る。
俺がいつもあいつの分のご飯を当たり前に作るから帰るタイミングを忘れさせてしまったかもしれないが……仮にだ。このまま家に帰らせたとして、そこでまた病気にでもなられて俺が家まで行き看病するくらいなら初めからこっちで見てた方が良いと思ってしまうが。「帰る。帰らない。」話題を俺から出せば俺が帰って欲しいと急かしているみたいでなんか嫌だ。
───────お前は今どう思ってるんだ?
「こういう時にお前の心が読めたらな……」
★
リビングに戻ると丁度朝食が出来たみたいで俺は少し緊張しながら椅子に座った。
自信ありげな顔で俺の後ろに立っていた白鳥は隣からゆっくりとメインらしきお皿を置いた。
「白鳥……」
「これ朝食で合ってる?」
見た目から明らかにミステリアスを纏っているモノだから、「これ。」と言ってしまったが、「これ。」としか言い様がない。
なんともまぁ、表現し難いものが今目の前の皿にある訳だが、
まず両手に白米と味噌汁があるのは良いだろう、だがしかしメインのおかずが乗っているはずのお皿の上が異常な程にピンクピンクしているのは何事だ!
極めつけに全体にたっぷりとハチミツらしきものまでかけられている……
いや、気持ち程度に添えられた2つのソーセージがあるから朝食ではあるとおもうけど。
【心瞳くん食べてみて!名前はベリーピンクブレイクだよ。】
(いや、どんな名前だよ!!)
名前から漂う地雷臭によって先に俺の心がブレイクしそうなんだよな。
こいつ·····俺の気も知らないで目をキラッキラさせやがって。
ベリーピンクって名前とか聞いたことないから、朝食でピンクはヤバいから!
色々まだ言い足りないが、とりあえず一旦食べてみないとな。
「い、いただきます……」
箸で丸いソレを割ると中からほんのり茶色い液体が漏れ始めると更に甘いにおいが加算され、後戻りは出来ないと無理やりソレを口に突っ込んだ。
「ヴゥッ……(これはアウト。)」
その瞬間俺の味覚は完全停止し体が拒絶反応を起こすと寸前の所で口が開闢しそうになった。
視界が歪曲しているみたいだ、微かに俺を襲ったソレと視界の先の白鳥が見える。
既に口に含んでしまっているので色々と手遅れだが、料理はいつもしないって前言ってたっけ。
俺の為に作ってくれた、白鳥からの感謝のこもった料理ベリーピンクブレイク。
───────いいぜ、食べてやるよ白鳥。
鉄雄は無我の境地に自ら望んで立ち、ベリーピンクブレイクの攻撃をかわし続けた。
止まらない箸とガブガブと喉を流れる水。
己の集中力が勝負を決める戦いだった。
戦いの末、勝利を勝ち取った鉄雄は顔を上げる力も無かったが一言だけ絞り出すように感想を述べた。
「頑張ったな……」
空になった皿を見て喜びを隠せない様子の白鳥を見ると完食した甲斐があったと思えた。
そして耐え切った俺の体よ、おつかれ。
その後、2階にあがると倒れ込むように2度寝をする鉄雄であった。
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