第12話 親睦会
空高くに輝く太陽の下、エマとアテネは自宅の近くにある広大な草原に来ていた。
現在、ジーク宅には破壊された壁を修繕するためにダニーが派遣した業者が来ており、ジークが業者への対応をしている間エマはアテネにとあることをさせようとしていた。
「それじゃあ、みんなおいで」
エマは短刀で右手の指に次々と傷を入れていく。人差し指、中指、薬指、そして小指……アテネは血が滴り落ちるエマの手を見て眉をひそめていたが、エマは心配はいらないとい言わんばかりに、自分の血で豪快に魔法陣を描きはじめた。
「獄狼、
エマの描いた魔法陣から、四体の獣が姿を現す。
漆黒の毛皮を身に纏い、その中にアテネと同じ深紅の瞳を輝かせる獄狼。
燃えるような
他の三体と比べると明らかに異質な眠たそうな目で虚空を見つめている蒼い蛙、蒼蟇。
エマは召喚した四体の使い魔を一列に整列させると、アテネに彼らの紹介をはじめた。
「アテネちゃん、この子達が私の使役している使い魔だよ。右から順に、無口だけどハートは熱い獄狼、女の子らしくキレイなものが大好きな朱娜、普段は優しいけど走るとキャラが変わる怕駆馬、見てのとおりマイペースでボーッとしてる蒼蟇。……この子達みんな、私の子供……言うなれば、アテネちゃんの兄や姉だね」
「……この子達も……家族……」
「そう。家族だから、みんなでアテネちゃんを守ってくれるよ」
「バウッ」
「ちゅんちゅん」
「ヒヒンッ」
「……ゲコッ」
「……ああ、そうだね。獄狼は昨日会ってるけど、他のメンツは会うのははじめてだもんね」
使い魔の鳴き声を聞き、エマはその声の意味を理解しているかのような言葉を返す。使い魔の鳴き声の意味が理解出来ないアテネはそれに不思議そうな目を向けながら、エマと使い魔達の話を聞いていた。
「みんな、この子は昨日私達の家族になった、私とジークの子供。名前は……」
エマはそこまで言ってアテネに視線を向け、名乗りは自分で行えと促した。
「ア……アテネといいます。みなさん、これから宜しくお願いします」
アテネの自己紹介を聞き、獄狼と蒼蟇は小さく鳴き声をあげながら頷いた。しかし、残りの朱娜と怕駆馬はというと……焦ったような顔をしてエマに詰めよっていた。
「ちゅんちゅん!?」
「ブルゥッ!?」
「えぇ? いやいや、本当の子供じゃないよ? アテネちゃんの顔だって、私ともジークとも全然ちがうじゃん?」
エマの言葉を聞いて、朱娜と怕駆馬は一度冷静になってエマとアテネを見比べる。
「……ちゅんっ」
「ヒヒンッ」
「いやいや、私が今さらジークから乗り換えるなんて……そんなの、天地がひっくり返ってもあり得ないよ」
端から見れば、今の光景はエマが動物相手に独り言を呟いているだけに見えるかもしれない。しかし、アテネはそうではないと、エマは人でも魔族でもない動物の言葉を解することが出来るのだと気づいていた。
「……分かるんですか? その子達の言葉が」
「うん。自慢じゃないけど、このくらい出来なきゃ使い魔を使役することなんて出来ないからね」
エマはこれくらい朝飯前だと言わんばかりの笑みを浮かべると、人懐っこいタイプの使い魔である朱娜と怕駆馬をアテネの側へと寄らせる。
「わわっ……え、えっと……」
「……それじゃ、散歩でもはじめようか。今日は私の子供達の親睦会だ」
暑くもなく、寒くもないのどかな気候のもと、広大な草原を散歩しているエマとアテネを、遠くから見つめる人影が二つ。
片やチャラチャラとおちゃらけた雰囲気を隠す気もない青年であり、片や堅物な雰囲気を隠す気もない少年である。
「……いつ刺客が来るかも分からないから護衛に来たものの……随分とのどかなものですね、ダニーさん」
「それがアイツらの優しさなんだよ。外がどんなことになっていようが、自分達は普段どおりに過ごす。アテネちゃんに変な罪悪感を抱かせない為にはそれが一番いいし、アイツらにはそれが出来るだけの実力があるからな」
「……なるほど」
「ま、お前もちょっとは肩肘の力抜けよ、エリック。今日はこんなに天気がいいんだから、のんびりしなくちゃ損だぜ」
「……いいえ。俺はまだ未熟ゆえ、肩肘を張り続けなければ不測の事態には対応出来ないので」
木陰でのんびりと眠るダニーに背を向け続けながら、エリックはじっとアテネとエマを見つめていた。
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