第204話 共同作業
いつものように多くの人の前でついバカップルを晒してしまった俺と海が加わって、天海さんの誕生日パーティがスタートした。
前回の海の時よりも人数がかなり増えていることもあり、さすがに狭さは感じるものの、これはこれで賑やかだし、皆楽しそうなので悪くないと思う。
この日のために引っ張り出されたという、天海家のガレージに眠っていた大きな丸型のテーブルを皆で囲む。
天海さんの隣には、親友である海や二取さん・北条さんコンビが座って、さらにその隣に荒江さんや中村さんが座る配置。俺と望の男二人は、天海さんと向かい合うような形だ。
陸さんのほうは、無事誤解も解けたのか、 『しみず』で販売しているお土産(お饅頭)を家主の絵里さんに渡して、引っ越しの準備のために早々に帰宅している。
なので、予想はしていたものの、やはり肩身が狭い。
「わあ、すごい大きなケーキ……望君、これ、本当にいただいちゃってもいいの?」
「ああ。母さんが洋菓子店でパートしてて、今日の話したら『持っていけ』ってさ。まあ、俺からの誕生日プレゼントってことで」
「ありがとう! じゃあ、美味しそうだし、遠慮なくお言葉に甘えちゃおっかな」
先日の試合で天海さんの目の前で勝利をプレゼントすると意気込んでいた望だったものの、結局試合には負けてしまったので、笑顔ではあるものの、どことなくばつが悪そうな表情をしている。
天海さんたちに顔を向けると、ケーキに差したろうそくの火を吹き消し、その様子をスマホで撮影し合ったりして楽しそうにしているが、本音を言えば複雑なのだろう。
天海さんのことも好きだが、それ以上に野球のことも頑張っているのを知っているので、望の気持ちはなんとなく理解できる。
「ねえ真樹、このケーキ、人数分に等分したいんだけど、どうすればいいかな? えっと、関は甘いもの控えてるから、食べないんだよね?」
「うん。ってことは七等分か……中村さん、確か、やり方ってあったよね?」
「できるけど、ちょっと面倒だし、ここは普通に六等分でいいんじゃないかな? 前原君はそれで構わないだろう?」
「え」
まあ、本来なら甘いモノ好きの望を一人残して食べるのも気が引けるので、俺が我慢するのは構わないのだが、
「ああ、ごめんごめん。そう言う意味じゃなくて、前原君は海ちゃんと一緒に食べればいいじゃないってこと」
「……え」
「どうせさ、君たち二人ともやっちゃうんでしょ? ね、天海ちゃん? あ~ん」
「ふふ、そうだね。あ~んっ……む、このイチゴおっきくて甘くておいひい」
中村さんが差し出したケーキのイチゴをぱくりと食べた天海さんの様子を見て察したが、つまり、どうせ二人で食べさせ合うのだから、二人で一つでいいだろうという言い分なのだろう。
ちらり、と確認の意味で海へと視線を移すと、ほんのりと頬を染めた海が、ふい、と俺からわざとらしく視線を外す。
……俺の彼女、どうやらやる気満々だったらしい。
まあ、今のところは席の都合で離れているからケーキではやらないにしても、座る場所を変えるタイミングでどうせくっつくことにはなりそうだが。
俺と海の二人とも、さっきからお互いのことをチラチラと気にしているし。
「と、とりあえずこっち来てケーキ切り分けるの手伝って。私とか夕じゃ、あんまりきちんとできない気がするし」
「……まあ、俺でよければ別にいいけど」
こういうのはどちらかというと絵里さんに頼んだほうが、と思ったが、軽く見渡してみると、いつもの間にかキッチンのほうでロッキーにおやつを上げている。
ついさっきまで近くで自分の娘の姿を撮影していたのに――なぜかさりげなくこちらへ向けて『よろしく』と親指を立てる絵里さんの姿がそこにはあった。
任されてしまったので、ここは俺がやるしかない。一言断って、俺は海と天海さんの間に腰を下ろした。
「えへへ、真樹君いらっしゃい」
「お邪魔します……海、とりあえず半分に切って、そこからそれぞれ三等分にしようか。いっぱいフルーツが乗っているヤツを今日の主役の人の分にして」
「うん。えっと……じゃあ、まずはこの辺にナイフ入れる感じでいい?」
「かな。あ、ちょっと中心からずれてるから、気持ち左にずらして」
「こんな感じ?」
「うん。そのまままっすぐ、ゆっくり降ろして」
ケーキ用のナイフを持っている海の手に自分の手を添えて、一緒になってケーキを切り分けていく。いつもより海の手つきがおっかなびっくりといった感じだが、露骨にサイズに差が出てしまうと良くないので、できるだけそうならないよう、俺の方でしっかりとサポートすることに。
「……なんか、はじめてのキョードーサギョウってカンジしてウザいんだけど」
「ん? 荒江サン、何か言った? 言いたいことがあるなら、表出て聞くよ?」
「いや、別に? ほら、彼氏にばっか任せてないで、さっさと切り分けなよ」
「むぅ……アンタ、いつか覚えてなさいよ」
口がよろしくない荒江さんだが、苦笑する二取さんや北条さん、あとは新田さんなどの反応を見る感じ、他の人からもそんな感じに見えているらしい。
個人的にはいつものようにやっているつもりだが……俺と海、そんなに『らしく』見えるのだろうか。
新婚夫婦……的な姿に。
ともかく無事六等分切り分けた後は、皆と一緒に雑談をしつつ、絵里さんの用意してくれた料理をいただいていくことに。
料理の内容は海の時とそう変わらないものの、人数が増えているのもあって、お皿に乗っている量はなかなかのものだ。
「じゃあ、役目は終えたので、俺は望のところに戻って静かに料理を――」
「あ、真樹君待って」
「? 天海さん」
そそくさと離れようとしたところで、天海さんの手が俺のことを引き留めた。
「ダメだよ、真樹君。せっかく海が隣にいるんだから、大事な彼女さんのこと、ちゃんと構ってあげないと」
「……えっと、いいの? 俺がいたら、海と二人で話すのに邪魔じゃない?」
天海さんだって海のことが大好きなわけで、たまには二人きりでお喋りしたいと思うこともあるはずだ。
実際、俺と海が付き合い始めるまでは、天海さんのほうが海にべったりだったはずで、こういう時ぐらいはもっと我儘でいいと思うのだが。
「いいの。私が海の一番じゃなくなったのはちょっと寂しいけど……でも、真樹君と一緒にいる時の幸せそうな海の顔を見るのも、私は大好きだから。だからほら、お二人とも、私の家だからって遠慮せず、いっぱいイチャイチャしていいんだから」
そう言って、天海さんはぐいぐいと俺のことを海のほうへと押していく。
今日の主役がそう言うのなら俺たちも気兼ねなくじゃれ合えるというものだが、しかし、少々俺たち二人に気を使い過ぎのような。
「大丈夫だよ。私はちょっと渚ちゃんのところにウザ絡みしてくるから、それまで二人でしっかり楽しんで。ね?」
「……いや、ウザいって自覚してんなら来るなっての……」
「え~? じゃあどうして渚ちゃんは今日この場に来てくれたのかな~? ウザいって言いつつ、実は私のこと待っててくれてたんだよね? ね?」
予告通り荒江さんのほうへとウザ絡みしにいく天海さん。
テーブルのほうを見ると、すでにそれぞれ話の輪ができているようで、荒江さんたちバスケ組に天海さんを加えた四人と、新田さんと中村さんと望の三人が固まっている形となっている。
ということで、残る俺たちは自然と二人組だ。
「真樹、えっと……とりあえず、料理食べよっか」
「……だな。出来立てのうちに食べたほうが美味しいだろうし」
自然とそうなったのなら仕方ないと、いつものようにくっ付いた俺たちは、目の前のご馳走にひとまず集中することにした。
……そして当然のごとく、『あ~ん』もした。
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