第117話 いつものキモいヤツ
だが、いったい何をすれば海の感じている寂しさを少しでも和らげてあげられるのか――個人的にしっくりくるものが見つけられず、そこから一週間が過ぎた。
俺の方は現状維持の一方で、その他、新たにクラスメイトとなった面々はすでにこの環境に馴染みつつあるようで、クラスでの新しいコミュニティを形成しつつあった。
同じ部活動に所属していたり、同じ学習塾に通っていたり、はたまた同じ中学校出身だったり。まあ、彼らも毎年のようにクラス替えは経験しているわけで、また同じことをやればいいわけだから、別段驚くようなことではないのだろう。
何でもいいので、きっかけになりそうな繋がりや共通点を見つけ、そこをフックにして新たな出会いや友達の輪を作る――彼らの動きを参考にするのなら、それがベターなのだろうが、
(俺の場合)
・部活・・・一貫して帰宅部
・塾など・・・通ったことがない
・同じ中学校出身・・・県外から引っ越してきたのでいない
ということで、状況はやはり芳しくないと言える。
実際、新しいクラスになってからというもの、教室内では数えるほどしか口を開いていないという有様で。
去年の時点で友達ゼロは卒業したはずなのに、クラス替えになった途端、コミュニケーション能力が以前の状態まで逆戻りしてしまったのはなぜだろう。
一応、以前と違って、今回の俺には繋がりがある。去年に引き続いて天海さんとは一緒のクラスだし、他にも引き続きクラスメイトになった人もいるわけだが、
「あ、ねえねえ真樹君。次の数学なんだけど、教科書見せてもらってもいい? ノートはあるんだけど、それだけ鞄に入れ忘れちゃって」
「え? あ、うん。別にいいけど」
「やった。ありがとね、真樹君。やっぱり持つべきものは友達だな~、ありがたやありがたや」
そう言って、クラス替え直後の席替えで隣同士になった天海さんが俺の方に机を寄せてくる。
瞬間、どこからともなく嫉妬のような羨望のような視線が俺へと突き刺さった。
――くっ、なんで天海さんがあんな奴と……。
――同じクラスに名前を見つけた時はすげえ幸運だと思ったのに……。
――しかもアイツ、噂によると彼女持ちらしい……。
――それ、11組の朝凪さんだろ? あの子も何気にめっちゃ可愛いよな……。
――前世でどんな徳積んだらあの顔でああなれるんだよ……。
そして、こっちのほうの状況も、去年のことを当然知らない人達であるが故に、また相変わらず元通りなわけで。
『(あまみ) ふふ、真樹君、モテモテだね~?』
『(前原) いや、正直勘弁してほしいけど……』
『(朝凪) え? なに? どういうこと?』
『(前原) ほら、いつものアレだよ。もう慣れたからどうでもいいけどさ』
『(あまみ) でもごめんね真樹君』
『(あまみ) 私が教科書見せてって言ったばっかりに、変なこと言われて』
『(朝凪) ん?』
『(朝凪) 夕、アンタもしかして教科書忘れたの?』
『(あまみ) あっ』
(※ あまみ さんが退出しました)
『(朝凪) おいこら、戻ってこんかい』
『(朝凪) 昼休み いつもの場所 集合』
昼休みに海からのお説教確定の天海さんは自業自得として、こうして天海さんと仲良さげにしていると、先程のように嫉妬されたり、陰口を叩かれたりすることも珍しくない。
まあ、最近ではこうして三人でメッセージをやり取りして愚痴ることもできているし、それに、こうして隠れてやり取りするのも、それはそれで楽しくはあるのだが。
「……ふふっ」
「? 天海さん?」
「あ、ごめんね。スマホいじってる時の真樹君の顔、とっても楽しそうだな~って思って。こ~んな感じのニコニコ顔だったよ?」
「う……」
指で口角を上げて、天海さんがスマホで会話中の俺の様子を再現してくれた。
天海さんはニコニコ顔と表現してくれたし、天海さんが俺の真似をするときっとそうなるのだろうが、実際のところは『ニコニコ』ではなく、『ニヤニヤ』とか『ニタニタ』のほうが適切な表現だろう。
今まではなるべく人に見られたり引かれたりしないよう、手で口全体を覆ったり机の上で寝たふりをして誤魔化していたが、今日は油断があったようだ。
幸い天海さんは笑ってくれるだけで終わったが、キモいところを見られてしまったのは素直に恥ずかしい。
否応なく、羞恥で頬が赤くなってしまった。
「……すいません、お恥ずかしいところを」
「ううん、気にしないで。というか、真樹君的には私がいたら邪魔じゃないかな~
~ってちょっと気にしてたから、私的には、楽しそうに笑ってる真樹君見れて一安心って感じだよ」
「邪魔だなんてそんな……天海さんがいてくれて俺は助かってるよ」
「そうかな? ……なら、よかったけど」
「……天海さん、今ちょっとだけ俺のこと真似したでしょ」
「えへ、どう? 今のは結構似てたんじゃない?」
「……20点」
「え~? そうかな? 40点ぐらいはあるよ絶対」
「……せめて100点だと自分で思ってから出直してください」
最近、海と天海さんの間(+たまに新田さん)で俺の話し方を真似するのが流行っているらしく、たまにこうして雑談のついでに見せられることがある。海がやり始めて、そこからああだこうだと研究が進んでいるらしい。
海と天海さんとの仲なので特にいじってくれても問題はないが、そこまで特徴がある話し方や仕草をしているだろうか。
……女の子って、やっぱりよくわからない。
「あ、そうだ。ねえねえ真樹君、さっきの顔、もう一度だけやってくれない? 写真とりたいんだけど」
「え? 絶対に死んでも嫌だけど」
「そんなに!? え~、さっきの真樹君のニコニコ顔、かわいいから海やニナちにも見せてあげようと思ったのに」
「かわ……いや、俺のニヤニヤ顔なんてキモいだけだし……」
海にだけならともかく、新田さんに見せても『うわキモ』で終わりだろう。というか、やれと言われてやれるものでも――。
「……あ、」
しかし、俺はあることに閃いた。
二年生になってクラスが俺や天海さんと離れ離れとなってしまい、今も内心では多少の寂しさを感じている海に、俺がしてやれること。
そう、クラスが別になっただけで、他のことは何も変わらない――。
「あの、天海さん。俺にもちょっと思いついたことがあるんだけど」
「お? 真樹君からだなんて珍しいね。なになに? 私に協力できること?」
「うん。というか、今のところ天海さんにしかお願いできないんだけど」
さっきの顔を他人に見せなければならないのは恥ずかしいが、これも大事な彼女のためだ。
それで海がちょっとでも笑ってくれるのなら、いつもの三人の話のネタにされるぐらいどうだってい……いや、あんまり良くはないけど、そこは必要経費ということで割り切っておこう。
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