第111話 プレゼント選び 2


 こんなところで天海さんに会うとはなんて偶然……と一瞬思ったが、この店の客層などを考えれば、当然、彼女も海への誕生日プレゼントを買いに来る可能性は高いわけで、奇遇ではあるけれど、そこまで不思議なことはない。


「真樹君、今日はいつもと違ってちょっとカッコいいじゃん。遠くからだと、一瞬誰かわかんなかったよ」


「まあ、こういう場所だしさすがにね……天海さんも、今日はなんかイメージ違う感じするけど」


「そうかな? 確かに可愛い系のヤツを選ぶことも多いけど、こういうのもわりと好きだよ? 古着屋さんとか、海とよく行ったりするし」


 今日の天海さんは、上にデニム生地のジャケット、下はスキニーのパンツと靴はスポーツ用品メーカーのスニーカーでわりとカジュアルに揃えている。それと、きらりと耳に光るピアスや腕時計など、細かい所もしっかりだ。


 一見どこにでもいそうなファッションをしていても、こういうところできっと差が出るのだろう。もちろん、美人は何を着ても似合うというのもあるだろうが。


「ところで真樹君、今日は海と一緒じゃないんだね。こういうところに男の子一人って、結構大変じゃない?」


「うん。まさしく今どうしようかって思ってたところで……天海さんも一人?」


「ううん、ニナちと一緒だよ。お~い、こっちこっち」


 大きな声で天海さんが手を振ると、少し離れた新田さんがこちらに気づいて近づいてきた。


 こういう場合、人数が増えれば増えるほど心強いし、それに、天海さんと一対一で話すのもまだ不慣れなので、そう言う意味では、その緩衝材になりえる新田さんの存在はとてもありがたい。


「お、レアキャラ発見。まさかこんなベタなところに委員長いるとか。もしかして道迷った? おもちゃコーナーはもう一個上の階だよ」


「いや、ここで正解だし。……手に持ってるやつって、もしかして海へのプレゼント用?」


「これ? うん、そだよ。値段的には安いアクセだけど、私、ウミには最近あんま世話になってない……っていうかむしろ痛めつけられてばっかな気がするから、まあ、あげるだけでもありがたく思えって感じ」


「痛めつけられるのは新田さんが海に余計なちょっかいばかりかけるからでは……」


 だが、手に持っている値引き後980円のシールが貼られている商品は、なんとなく新田さんらしいチョイスだと思う。すごく適当に選んでそうだが、しかし、派手過ぎず地味過ぎずで、ここら辺に女の子らしいセンスを感じさせる。


 対して、天海さんはと言うと、


「あ! ねーねー二人とも、これめっちゃ可愛くない? ちょっと大きいけど、ふかふかしていい気持ちだよ」


 大きなクマのぬいぐるみを抱えてご満悦と言った様子だった。


 確かにどこか憎めないキャラクターをしていると思うが、なんとなくプレゼントを選ぶという目的を忘れているような。


 あと、なにげに高い(7800円)。


「……ほら、委員長ツッコミなよ。役目でしょ」


「そう言われてもですね……」


 肘で小突いてくる新田さんのことは置いておくとして、せっかくなので話を聞いてみることに。


「あの、天海さん……ちょっと聞きたいんだけど、こういう時って、どんなプレゼントを選んだりするの? 贈る人によってとか、自分のセンスでとか、買う時の基準とかってあったりする?」


「う~ん……私は完全に自分が『これだ』って思ったヤツかな? 普段使いできるほうが、とか、その人が本当に欲しがっているもの、とか、そういうのは考えずに、わりと直感で選ぶことが多いと思う」


「なるほど……でも、それだとたまに失敗したりしない? せっかく贈ったのに、微妙な顔されたりとか、使ってもらえなかったりとか」


「もちろん、そういうこともあるよ? でも、自分にとって微妙なものより、『いい!』って思えるもののほうが、気持ちが伝わると思うし。プレゼントって、結局そういうものじゃないかな?」


「つまり、贈る側の気持ちも大切だよってこと?」


「そ! 贈る相手が大切な人なら、なおさらね」


 相手にとっていいものを考えて選ぶか、自分にとっていいと感じるものを選ぶか。


 俺は前者で天海さんは後者だが、話を聞いてみると、天海さんの考えも一理あると思う。


 みんなに選ばれている、プレゼントならこれがマスト――SNSで探せばそういう意見は山ほどでてくるし、逆にそれ以外は迷惑だし重いというのも。


 しかし、それを参考にして贈ったプレゼントに果たして価値はあるのだろうか。


「ってことで私はだいたいそんな感じで考えてるけど……どうかな? 真樹君の参考になったかな?」


「……うん。ありがとう、天海さん。少しだけど、どうすればいいかわかった気がするよ」


「そう? ならよかった」


 最終的にどれを選ぶことになるかはもう少し迷うことになりそうだが、しかし、なんとなく方向性は見えてきた気がする。


 ……持つべきものは友達、ということなのだろうか。


「で、お二人さんは何にするか決まった? 私はもうこれでいいからレジ行くけど……って、ねえ夕ちん、そのぬいぐるみずっと持ってるけど、もしかしてマジでそれ買うつもり?」


「え? あ、うん。いくつかサイズはあるけど、やっぱりこれが一番抱き心地いいし、それに他の種類のぬいぐるみと較べても可愛いし」


「可愛いかなそれ……ねえ委員長、コレどう思う?」


「……まあ、天海さんが可愛いと思うのなら、それでいいんじゃないかな」


 海外のアニメに出てきそうな、不愛想だけれどどこか憎めない表情のクマのぬいぐるみ。個人的には微妙だが、天海さんが『いい』と思ったのなら、海だって気持ちよく受け取ってくれるだろう。


 今までそうやって、二人は上手くやってきているのだから。


「で、委員長は?」


「俺はまだもう少し見て回るから、心配せず二人は遠慮せず行っちゃっていいよ」


「そ? じゃ、そゆことで。行こ、夕ちん」


「あ、うん。……それじゃあね、真樹君。また4月3日に」


「うん、また。それと、今日は助けてくれてありがとう」


「ふふん、また助けが必要ならいつでも呼んでくれていいよ? というか、電話でもメッセでもいいから、たまには連絡くれてもいいんだからね?」


「あ、いや、それはちょっと……」


「え~? なんで~? 友達なんだから、もうちょっとメッセとかでお喋りとかしようよ~。あと、私のことも『天海さん』じゃなくて、海みたく呼び捨てでいいのに」


 そこまで距離を縮めると、主にクラスの男子(特に望)からの圧がすごいことになりそうなので、天海さんとはこれからも『友達の友達』的な距離感でやっていけるといいなと思う。


 それに、他の女の子と仲良くしていると、たとえお互いにその気がなくても海に悪い気がするし。相手が天海さんだとなおさらだ。

 

「む~……とにかく、この話はまた次の機会にさせてもらうからね。じゃあ、今度こそバイバイ」


「うん。じゃあ」


 むくれ顔ながらしっかりと手は振ってくれた天海さんと別れて、俺は再び店内の飾られたキラキラと向かい合う。


 予定では昼には家に帰宅するつもりだったが、この分だと、もう少し時間がかかりそうだ。

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