第60話 おっさん夢を見る②

パチパチッ


パチパチッ


「花田さん昇進おめでとう!!」


「すごいね!33歳で課長なんて!」


「いやいや、たまたまだよ」


「………」


社員の皆から囲まれ花田が祝福されている。

シュッとしたイケメンが昇進したようだ。

後輩の女子から花束を貰う左手の薬指には結婚指輪が光っている。

来月から本社に転勤して課長をするようだ。


「同期は皆、昇進してしまったな。つうかもう課長とかどうなってんだよ。結婚していないのも俺くらいか」


花田の昇進祝いも一次会で抜け出して家に帰るおっさんである。

というよりおっさんは2次会に誘われてなどいないのだ。

適当にタクシー拾って帰ろうとするが、その日に限って捕まらない。

結局歩いて誰もいない1k8畳の家にたどり着く。

家の本棚にはぎっしりとビジネス書と、会社で必要な資格の本が埋めている。


「やる気はあったんだけどな」


アルコールで酔った中、おもむろに本棚の本を全てゴミ箱に入れるおっさんである。


「分かっていたことじゃないか」


無理やり納得するように自分に言い聞かせるおっさんである。

同期が昇進する度に納得しようとしたのだ。





・・・・・・・・・


おっさんが1k8畳の部屋に目覚める。


「夢か。国立大を出た同期と違って、俺は何年もアルバイトしてお情けで正社員になっただけだしな。さて会社にいくか」


人生を台無しにしてまでゲームに夢中になった半引きこもりの大学生活。

世界が寝静まった深夜のアルバイト生活。

そんな頃の夢を見るたびに、元の生活に戻らないようにがむしゃらに頑張った20代の社会人生活。


意識が高かった。

意識だけが高かった。

10年働いて自分は凡人と気付いた。

会社に不満があったわけではない。

人並の給与は貰っている。

30過ぎて同期と昇進に差が出てくる。

何の問題はないと同期達が昇進する度に自分に言い聞かせてきた。


勉強から逃げるように30過ぎてお酒を飲むようになった。

またゲームをするようになり勉強する時間も無くなった。

異世界ものを読み始めたのもこのころだ。


もともと少なかった残業は今年になってなくなった。

おっさんの職場の働き方がどうやら改革されたようだ。

残業は基本しない方針になったようだ。

何もすることないのに時間だけが溢れてくる。

打ち込むことが何か欲しかった。


「たらいま」


18時前には誰もいない1k8畳の家に着く。

秋もまもなく終わりの時期でずいぶん寒くなった。


パソコンの電源を入れるおっさんである。


「もう1か月か。更新してないから、アクセスだだ下がりだな」


おっさんは上位魔神にハルバートで背中から串刺しにされたのだ。

ハルバートを引き抜かれたとき血液の全てが出ていくようだった。

遠のく意識の中で現実世界に戻ったのである。

タブレットの操作が意識の中で操作するだけで動かせることをこれほど感謝したことはない。

でもうれしいのは戻ってすぐの時だった。


検索神のサイトを開くおっさんである。

検索神のサイトは、最後におっさんが見た光景。

おっさんが向いている光景がサイトの風景として画面に表示されるのだ。

いつもはホテルや拠点がサイトの風景となっている。


最もサイトの風景の登場人物として多いのはイリーナである。

イリーナが寝ている風景が検索神サイトの画面に表示されているのだ。

ダンジョン攻略から武術大会までずっと、イリーナの寝顔を見ながら、ブログを起こしてきたのだ。

何千文字になるブログの記事を起こす疲れも寝顔を見れば頑張れる。


今サイトには絶望が表示されている。

遠くの方でイリーナがおっさんを向いて泣きながら何かを叫んでいる。

地面に横たわり、両腕で半身を起こしている。

そんなイリーナに向かって足を進める上位魔神パルトロンだ。

その横には血だらけのロキとソドンがいる。

コルネとセリムは闘技台の中央にいるおっさんと反対側に吹き飛ばされたので画面には表示されていない。

パメラはイリーナ達のさらに奥の塀に激突して項垂れている。


時が止まったように動かないおっさんの仲間達だ。


「つんだな。もうこれ以上ブログは起こせないぞ」


おっさんは、現実世界に戻った後、必死にブログを起こしたのだ。

ASポイントを稼いで、事態を打開するためである。


第163記事目 本戦3回戦 ~拳聖と戦血~

第164記事目 固有スキルの可能性 ~100万ポイントなんて無理でござる~

第165記事目 本戦4回戦 ~戦血のエルザと獣王国最強の男~

第166記事目 決勝戦 ~獣王国最強男の攻略マニュアル~

第167記事目 けじめへの道、獣王への道

第168記事目 闘技場でレイドをやってみた

第169記事目 魔人と上位魔神の脅威


PV:1842101

AS:162193


アクセス分析の画面を確認するおっさんである。

もう第169記事目を投稿してから、PVもASも半減している。

アクセス数は3週間近く新規投稿を止めてから減少の一途をたどっているのだ。


「たぶんこのまま更新を放置しても3か月くらいかけてもPVポイントで200万、ASポイントで20万いくかどうかか」


ブログ起しのために現実世界に戻ったため、次異世界にいくと現実世界には戻れない。

PVポイント200万あるから加護(大)でレベルアップの特典を2回貰うことができる。

これで2度は体力と魔力をレベルアップの恩恵により全快することができるのだ。

ASポイント10万で10万必要な獲れるスキルを2個取得することができる。


「ただそれだけなんだよな。その程度じゃアイツは倒せない」


スキル欄を必死に見たおっさんである。

しかし、とても1000や10000で獲れるスキルを見てもとても打開できる状況ではないのだ。

既に10000まで取れる攻撃魔法、回復魔法、仲間支援スキルを保有して、あれだけの惨敗であるのだ。

事態を打開するためには100000クラスのスキルがかなりいるのだ。


パメラが獣王とけじめをつけた後の状況を振り返るおっさんである。

3体の紫の巨体である魔人を冒険者達と倒した。

そのあとセルネイ宰相から出てきた魔神ヴェルギノスを仲間とともに倒した。

そのあと、手も足も出なかった上位魔神パルトロンである。


「俺1人じゃ、3体の巨体はギリ倒せても、魔神ヴェルギノスですら厳しいんだよな。神聖魔法の発動時間は8秒もかかるし、仲間ではパルトロン抑えられないし」


知力に特化した完全に後方職のおっさんである。

とてもじゃないが、上位魔神を抑えることはできない。


魔人と魔神を前もって戦えたおかげで、上位魔神のある程度のステータスを予想することができた。


魔人達は力5000ほどと予想している。

カフヴァンのノーマル状態と同じくらいだ。


魔神ヴェルギノスはその倍の力10000ほどと予想している。

パメラのビーストモードよりやや力は弱いくらいだ。


上位魔神は魔神の力の3倍と予想している。

素早さはパメラの半分くらい。

パメラの攻撃が効かなかったので耐久力は20000程度。


おっさんの予想する上位魔神パルトロンのステータス

HP:不明(かなり高い)

MP:不明

STR:30000

VIT:20000

DEX:15000

INT:15000


「魔神はずっと俺を狙ってたな。上位魔神もだけど。俺のこと使徒だ使徒だと言ってたし、何だろう、昔から使徒と魔神は争ってきたのか。それに巻き込まれたのか」


魔神の標的判定や、上位魔神パルトロンの言葉を思い出すおっさんである。

魔神らによる完全な敵認定の状況だ。


ASポイントも何もかも足りず、打開の策が出てこない。

例えぎりぎり奇跡的に勝てても、仲間の多くは戦いの中で死ぬ。

イリーナも恐らく死ぬだろう。


「トイレでカロンが語っていたことってこれのことなのかな?」


よく分からないフラグのようなものを建てられた、カロンとのトイレの会話を思い出す。

パメラに加護を与えたカロンが何か意味深な発言を受けたのだ。

何のことか分からないが、なんとなく今の状況のことなのかと思うのだ。


「『困ったら人に頼れ』っていってたな。困ったことってこれのことなのか?ここにはイリーナ達がいないんだけど。どうやって頼れっちゅうねん。こうなる前に仲間を頼れってことなのか?」


検索神のサイトとおっさんのブログのサイトは別である。

おっさんのブログ『おっさんが始める異世界雑記ブログ』サイトを検索神のサイトがアクセス状況などを分析してくれるのだ。

『おっさんが始める異世界雑記ブログ』のお問い合わせフォームを見てみる。


「人というか、ブログの読者からのコメントくらいしかないんだけど。そういえばブログのコメントあまり見てこなかったな」


おっさんのブログのサイトにはブログを見た読者からメッセージを送れる『お問い合わせフォーム』がほかのブログ同様にあるのだ。

おっさんはお問合せフォームを最初の方に設定した後ほとんど放置していた。


ブログを起こしていたころは、何かよく分からない外国からのスパムメッセージしかこなかったのだ。

そして、今は異世界での出来事をまとめることに追われていたこともある。

早くブログを起こして、異世界に行きたかったおっさんである。

仕事帰りに5000文字を超える記事を毎日起こすのは、18時には家にいるおっさんでもかなり大変なのだ。


お問合せフォームを見るおっさんである。

毎日数万のPVあるおっさんのブログである。

かなりの量のお問合せがあるのだ。


・ブログ更新してください!!なぜ更新を止めてしまったのですか?

・更新が止まってしまった。安らかにお眠りください

・おっさんが上位魔神にやられて死んでしまった件について


そこにはたくさんの3週間ほど止まってしまったブログの更新を嘆くコメントがある。

最新のコメントから眺めるおっさんである。


・闘技台の獣人は連携してすごいね!異世界だとSランクモンスターがでたときのために避難訓練必要ですね!


「お?これはブログネタになるかも。そうだな、魔道具のスピーカーも設置してモンスターが天空都市イリーナに出た時のために避難訓練したほうがいいな」


ブログネタを探すためにカロンがおっさんに人の意見を聞けと言っていたのかと頭をよぎる。


「もう天空都市にも行けないし、イリーナにも会えないけどね」


こんなブログネタが1つや2つ増えたところでどうしようもないのだ。

事態が打開できるわけではないのだ。

相手は支援魔法を使ったおっさんの力の10倍はあるのだ。

とてもじゃないが勝てないのだ。


コメントを眺めるおっさんである。

どんどんスクロールを下げていくおっさんだ。


「いや会えるだろ。せめて一緒に死ぬくらいできるだろ」


35歳にもなって涙が溢れてくる。

せめて玉砕しても、戦うべきだと思うおっさんだ。

8か月分のコメントの流し読みを進める。

見終わったら皆のところに戻ろうと思うのだ。


ずいぶん昔のコメントを見たおっさんだ。

変なコメントが目に止まる。


・パクんなボケ!!!


「パクった?俺が?何を?」


誹謗中傷のコメントは見ていたらたくさんあった。

しかし、おっさんは他人のブログのコピペはしないよう心構えていたのだ。

他人のサイトのコピペは検索神の怒りに触れるのだ。

絶対にやってはいけない。

やってもいない犯罪をやったと言われているのだ。

どうやら1人の意見ではない。

同じようなコメントが目立ってくる。


・ヴィルスセン王国とか、名前を勝手に使うのは良くないと思います!!

・フェステルの街って、街の名前を変更してくださいお願いします。

・架空の設定でブログを作るなら他人のブログをまねするのは良くないですよ。


「へ?え?何の話だ?」


フェステルの街にたどり着き、王国について知っていった時のブログ記事である。

ずいぶんな批判コメントが上がっていたようだ。

おっさんはこのころ一切コメント見ていなかったのだが軽い炎上を起こしていたのだ。

さらにコメントを見ていき疑問の答えにたどり着くのだ。



・ちふるさんのブログを勝手に引用しないでください!!!



おっさんと同じ異世界の話を記事にするブログが現実世界にはあるのである。

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