第56話 レイド戦

3体の紫色の巨体のモンスターがなぜかでてきた獣王武術大会である。

よく分からないがSランク級が3体なのだ。

せっかくの決勝戦後のけじめが台無しになったのだ。

けじめは一度中断して、討伐することにするおっさんらである。


既に仲間支援魔法をフルで掛けている。


「レイド戦か。初めて聞く戦い方であるな。具体的にはどうするのだ?」


「そうですね。まず状況からですが、自然回復速度が異常で、物理攻撃が重量級のシングルスターでも通じなくて、力もあり1度に複数のAランクを吹き飛ばす。そんなSランクモンスターが3体同時なんですよね」


(HP自然回復するモンスターは初じゃね?)


100人程度が闘技台にいるのだ。

おっさんの目算ではこんな感じだ。

・Aランク以上の冒険者50名

・審判5名

・獣王親衛隊25名

・獣王魔法隊20名


ほぼ攻撃が効かない状態で必死に応戦中である。

百戦錬磨のAランク冒険者でも焦りの色が顔から出てきている。

不安になり始める観客達である。


観客席の外には王都の街並みがあるのだ。

獣王が退避してくれたので、動きを止めることから攻撃に切り替えた冒険者達だ。

しかし、ダメージが見受けられない。

おっさんが定期的に範囲回復魔法を掛けているが、そろそろ死人がでそうだ。




「うむ、かなり厳しいであるな」


「とりあえず、倒す方法が2つあります」


「「「2つって」」」


なぜこのような状況で2つも倒す方法があるのだという顔をする皆である。

1年近くかけ99階層まで潜ったウガルダンジョンでも、Sランク級はカフヴァンとダンジョンコアの番人のみであるのだ。

今ここには同時に3体のSランク級のモンスターがいる。

おっさん抵抗力がずいぶんついた皆であるが、まだまだのようだ。

問答していてもしょうがないので答えを言うおっさんである。


「1つ目は死人が出るかもしれませんが皆で倒す。これがレイド戦です。2つ目は時間がかなりかかりますが私達だけで倒すです」


「そ、それはケイタ様」


どこかで聞いた問答である。

1年前、おっさんがオーガの大群相手にレイ騎士団長にした問答によく似ているのだ。

ロキが強く反応する。

オーガの大群の時は、城壁を使った戦法に騎士団を巻き込んだのだ。

そして死人も出ている。


「私は、極力犠牲は抑えますので1つ目を選びたいと思います。何でも自分らだけで倒すのは良くないと思います」


今回は1年前のように迷わないようだ。

この世界は異世界である。

異世界には異世界の住人がいるのだ。

異世界には異世界の常識があって、その中で皆必死に生きているのだ。


(異世界ものはたくさんあるけど、主人公がさっそうと敵を皆殺しにして窮地を救う話多いよな。救われるのはその一瞬だけで対処方法伝えられなかったら、主人公がいないときに結局滅びるしな)


「そうだな、まあ、この状況で皆闘技台から出ていけは難しいな。おい、ゴスティーニ、拡声器を貸せ」


パメラも同意する。

ゴスティーニにマイクを貸せというパメラだ。

皆に指示をするようだ。


「パルメリアート=ヴァン=ガルシオだ」


拡声器を使って、闘技場全体にパメラの声が響く。

何だ何だとパメラに注目する観客や闘技台の冒険者達である。

パメラはマイク片手に話を続ける。


「これより、この紫のよく分らんモンスターの討伐を行う。見てのとおり、Aランク冒険者が束になっても討伐が難しいSランクモンスターのようだ。討伐には連携しての行動が必要ゆえに、指示に従うように」


(やっぱり、パメラは王女なんだな。威厳ありまくりだな)


「なお、討伐の指示を行うのは魔導士ケイタだ」


(え?まあ、俺か。パメラも前線で戦うしな)


「ケイタの知略無くして、今回の困難な状況は解決できぬ。不服なものは邪魔だから闘技台から出ていってくれ。では魔導士ケイタに代わるぞ」


マイクをおっさんに突き出すパメラである。

続きはおっさんが説明しろということだ。


「すいません、代わりました魔導士のケイタです。敵が強く複数いるので協力して討伐する必要があります。ご協力お願いします」


「な!?ならん!!その者達は、歴史ある獣王武術大会を利用し、獣王家の転覆をはかる逆賊どもである。決して耳を傾けてはならん!!」


おっさんが丁寧に皆協力してほしいといったところに、それはできないという声が闘技場に響き渡るのだ。

セルネイ宰相が闘技場の獣王の個室からそれは認められないというのだ。

その横に退避した獣王がいる。

獣王はセルネイ宰相の行動に何も言わないようだ。


困惑する観客達と、闘技台の上で必死に戦う冒険者達である。

セルネイ宰相とパメラが推すおっさんである。

王女であり、伝承の金色の獣になり、獣王武術大会を優勝し、獣王とも戦い勝ったパメラである。

だからといって冒険者や獣王親衛隊達がすぐになんでも言うこと聞きますとはならないのだ。

まだ、パメラが王女だと分かって1時間も経っていないのだ。

どうすることが一番いいことなのか分からず、驚き戸惑うのだ。


「ふむ、困りましたね。無理に押問答しても事態は解決できないので、討伐を我々だけでも進めましょうか」


(状況が状況なだけに言葉より行動だな)


「そうなのか。大丈夫なのか?」


「いえ、大丈夫ではありません。烏合の衆では討伐効率が悪いので、かなり多くの死人がでそうです」


イリーナの言葉に正直に答えるおっさんである。

死人が多く出るが、このまま野放しにしたらそれ以上の事態になるのだ。

パメラの故郷のためにも逃げるという選択肢はないのだ。

おっさんらも討伐に取り掛かろうとした時である。


「おい、魔導士ケイタ」


おっさんが皆に指示をしようとしたところで、ヴェルムが話しかけてくる。

おっさんの回復魔法の範囲にいたのか、腹を抑えていない。

完治した状態だ。

オリハルコンのナックルも装備しており、装備も万全の状態だ。


「はい」


「あの紫のモンスターを倒せるって本当か?さっきSランクモンスターと言っていたが?まじなのか?」


「たぶん、問題ないです。無傷とはいえないでしょうが」


「わかった。ちょっと拡声魔道具を貸せ」


ヴェルムにマイクを渡す。


「おい、おめえら、魔導士ケイタの言うことを聞け。このままだと王都がなくなるぞ」


「な!?」


マイク越しに驚愕するセルネイ宰相である。


「親衛隊長のヴェルムが宣言する。指示権の全権は魔導士ケイタに譲る。そして、バホラ副隊長は、速やかに王城に行き援軍を結成せよ。速攻で行けよ」


王城が占領されていることを知らないヴェルムである。

しかし、バホラ副隊長は使いの親衛隊を送るのだ。

ガルガニ将軍は獣王の敵ではないと書状にも書いてあるので、状況を説明すれば、援軍など行動に移す可能性が高いと判断したためである。


そこまで言うと、ヴェルムがおっさんにマイクを渡す。


(ふむ、皆が協力してくれるなら、やれるだけのことはやらないとな)


「わかりました、ありがとうございます。ではSランクモンスター3体について、レイド戦を始めたいと思います」


闘技場に響き渡る声でレイド戦の開始を宣言するのだ。


そして、氷魔法Lv1の柱を3本作る。

1辺200mの闘技台である。

闘技台の中心から、50m程度の半径にある3か所に均等な距離の氷の柱だ。


「こ、氷?であるか」


ソドンがなんだこれという顔をする。


「では、皆さん協力をお願いします。敵は3体ですので、1体ずつ倒します。これからソドンを中心に3体の敵をこの3か所の氷の柱に誘導をお願いします」


「3体を引き離して、柱に誘導するのであるな」


「そうです。敵3体が固まると事故になり、無用に攻撃を受ける恐れがあります。まずは引き離します」


ソドンに回答しているが、闘技場の皆にも分かるように説明するおっさんである。


「敵に名前がないと指示が難しいので呼称を付けます。両手剣を持っている敵を『剣』、剣と盾を『盾』、槍を『槍』と呼称します。今の敵の配置だと、『剣』が柱に近いのでそちらへ誘導してください」


敵の呼び方を誰が見ても分かる形で決めるおっさんだ。

おっさんの言葉で、ソドン、ロキ、イリーナ、パメラが『剣』の元に向かうのだ。


「敵には目があり、視界を頼りに動いています。遠距離攻撃ができる弓使いなどは、『盾』と『槍』の目を狙って、動きを封じつづけてください。獣王魔法隊は顔を狙ってください」


次々と指示をするおっさんである。


「はい!」


コルネが大きく返事をする。

どうやら、自然回復で弓矢では役に立たたなかったことで不安になっていたようだ。


おっさんはその間に闘技台の中心に足を進め、コルネとセリムがついて行く。

土魔法Lv1で1辺5mの土壁を作り、足場を作り高台に上るのだ。

高台の上からコルネが『盾』と『槍』の両目を矢で奪い続けるのだ。

予備の魔石もコルネに出してあげるおっさんである。


登ったころには、ソドンを中心に『剣』を全力で5mほど先にある氷の柱に移動させている。

ソドンが大盾で押し込むように押していく。

一切、動かすことができなかった紫の巨体を動かすことに驚愕する冒険者達である。


『剣』の両手剣を使わせないように、ロキが槍でけん制し、イリーナが足を狙い切りつけ、パメラがかく乱するのだ。

1年かけて、慣れてきた連携の動きだ。


「おい、この高台に上がってもいいのか?」


エルフと思われる冒険者から声が掛かる。

シングルスターであり、果て無き旅人のレイである。


「どうぞ、弓使いの方はここから狙ってください」


他にもいたのか、3人ほど、高台に上がってくるのだ。

5m四方では小さかったなと広さを10m四方に広げるおっさんである。


「氷の柱に近づけたであるぞ!!!」


ソドンの声が50m先から響くのだ。

必死に大盾で氷の柱に押さえつけるようにしている。

イリーナとパメラも一緒になって盾を抑えている。


「ありがとうございます。弓使いさんすみませんが、『剣』の両目を狙ってください。その間にソドン達は全力でその場を離れてください。巻き込んでしまいますので全力でお願いします!!」


マイク越しに叫んだその言葉と共に『剣』の両目に複数の弓が刺さる。

片手が剣になった紫の巨体は片手で弓矢を引き抜くが、抜いた側からどんどん矢が目に刺さる。


そして、その間にソドン達が数十m離れたのだ。

タブレットで氷魔法Lv4を取得する。


・氷魔法Lv4 10000P


「コキュートス!」


火風水魔法の1万ポイントのレベル5の魔法は範囲攻撃である。

氷魔法の1万ポイントはレベル4の魔法のため単体攻撃である。


空気ごと凍り付くようにガリガリと凍り始める『剣』である。

厚い巨大な氷の塊に閉じ込められるのだ。

しかし、魔力が足りないのか、力ずくで出ていこうとする。

メキメキと音が立ち、ヒビが入り始める氷の塊だ。

あまり動きを止めておけないようだ。


(やばい、さすがSランクモンスター。魔力が足りんか、つうか発動時間が遅すぎてとらえきれん)


・知力支援魔法(仲間)Lv4 100000ポイント

・魔力発動加速Lv2 1000ポイント

・魔力発動加速Lv3 10000ポイント


あまりにも短時間で氷から脱出してしまったら、今回の作戦はダメになるので初の10万ポイントスキルを取得するのだ。

氷魔法Lv4の発動時間は6割カットの20秒から8秒である。


(知力5倍になったぜ!!知力7900だ。こおりたまへ)


「コキュートス!!」


魔力の上がったコキュートスでさらに凍らせるおっさんである。

今度は完全に動きが封じられないものの、簡単には脱出できないようだ。


「『剣』の動きをこのように封じました。次は『槍』を左の氷の柱に誘導してください」


5mと違い、30mほど離れたところに柱のある『槍』である。

ソドンが大盾で押し始める。

すると、さっきまで見ていた獣人達が協力しだすのだ。

現在闘技台には100人もいるのだ。

盾使いはそこまで多くいないが、5人の盾を持っている獣人が加わり押し始める。

槍使いも10人ほどロキと加わり、槍で盾使いがやられないように牽制する。


何がしたいのかは分からないが、やっていることは分りやすい。

敵を柱に1体ずつ誘導するのだ。

自分のできることが分かった冒険者からどんどん作戦に参加していくのだ。


10分弱で30m離れた2本目の氷の柱に誘導する。

そこまでくると分かるのか、コルネ達弓使いが『槍』の目を狙うのだ。

その間に『槍』からソドン達が距離を取るのだ。


「コキュートス!!」


『槍』も氷漬けになるのだ。


「『剣』と『槍』が氷漬けになりました。これで残り1体です。この3体で最弱の『盾』を右の氷に柱に誘導してください」


最弱を強調するおっさんである。

何故最弱なのか分からないが、『盾』を盾使い達が押し出す。

そんな中、短剣使いなど、役目が少ない獣人達が、おっさんのところにいる弓使いに矢を観客から貰って届けだすのだ。

連携に協力するものがどんどん増えていく。


同じく30mほど離れた氷の柱に10分弱で移動させられた『盾』である。


「では、『盾』から倒します。今度は凍らせないため、盾使いはそこで動かさないようにしてください。弓使いは目を潰してください」


動きを封じられ、両目に矢が刺さる『盾』である。

しかし、すぐに矢が抜けないのだ。

なぜなら両手が剣と盾と一体になっているからである。

矢を抜くために、わざわざ剣と盾状態の手を元に戻し、矢を抜き、また剣や盾にしないといけないのだ。

目の矢を抜く速度が『剣』と『槍』よりかなり遅い『盾』である。


(さて、物理抵抗解除、魔法抵抗解除)


さらに物理抵抗も魔法抵抗も解除し、『盾』を極限まで弱体化させるおっさんである。

作戦以外の行動をしてほしくなかったため、敵の誘導が終わって初めて抵抗力を解除したのだ。


「今、『盾』の防御力を魔法で最大限下げました。では『盾』を思いっきり倒しましょう。けがをしたら私のいる闘技台中心の方向へ下がってください。回復魔法をかけますので」


「まじかよ?ウオオオオハンマアアアアー」


その言葉が本当か信じるため、また『盾』の後ろからゲオルガが渾身の戦槌スキルを発動する。

足にめり込む戦槌である。

肉が裂け、血が噴き出す。


「おいおい、攻撃が通じるぞ!!!」

「まじかよ?ってまじだ。攻撃が通じるぞ」

「攻撃は通じるが、すぐに再生するぞ。攻撃を続けるぞ」


10mの巨体の『盾』を囲むように攻撃を始める獣人達である。

さすがに100人が一度に攻撃できないが、10人から15人程度の獣人達が交互に攻撃を始める。

傷ついたら、下がるのだ。

下がったそばから、後方待機組がさらに安全な場所まで連れていく。

弓使いは目どころか頭部に矢が刺さりまくるのだ。


(よしよし、100人参戦のレイド戦感が出てきたな。無事陣形ができたな)


敵を分離して、敵の攻撃を無効にして、弱体化させて、ボコるのだ。

作戦の指示から30分かそこらで、この状況にしてしまったおっさんである。


【ブログネタメモ帳】

・闘技場でレイドをやってみた


余裕が出てきたので、『メモ』機能に状況を記録する。


15分とかからず、『盾』が地に伏すのだ。

常に攻撃を受ける状況で再生にはどうやら限界があるようだ。

とうとう再生することなく、動かなくなった『盾』である。


「『盾』が終わりました。次は『槍』です、『槍』に集まってください」


まるで作業のように次々と指示をするおっさんである。

『盾』が倒れた時点で、勝ちが見えてくる闘技台の上で戦う者達と、まだ7万人以上いる観客達である。


ぞろぞろと槍に集まるのだ。

どんどんおっさんの作戦になれていく者達。

陣が組まれていく。


「これから『槍』の周りの氷を解除します。獣王魔法隊の皆さん、獣神リガド様からの加護がもらえたと思いますので、魔力は全快のはずです。狙う場所は頭ですよ」


Sランクモンスターを倒しておっさんに数百万の経験値が入ったのだ。

おそらく1億の経験値が振り分けられたのだ。

100万前後の経験値が戦いに参加した100人ほど冒険者らに振り分けられたのだ。

レベルが低い獣王魔法隊が急激にレベルアップした。


氷を消した瞬間に火魔法が頭に炸裂する。


「な!何だこの火魔法は、でけえぞ!!」

「獣神リガド様が御加護をお与えになったぞ!」


うれしい悲鳴が響く中、紫の巨体の攻略が進んでいくのであった。

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