第21話 ドワーフ

ここは、魔道具ギルドのフェステル支部である。

領都に必要な魔道具の説明と買い付けにきたのだ。

やってきたのは、おっさん、イリーナ、セリム、チェプトである。


「これは、これはヤマダ子爵様」


魔道具ギルドの支部長と副支部長が入口近くで待っていたようだ。

丁重に挨拶をされる。

本日来た要件は聞いているようだ。


綺麗な応接室に通されるおっさんである。


「今日は時間を作っていただきありがとうございます」


「いえいえ、お越しいただきありがとうございます。王国の英雄と話ができ光栄です。フェステル支部で支部長をしているハーティ=エルマーです」


お世辞を言われるおっさんである。

フェステルの街の英雄であり、王国の英雄のおっさんである。

そのおっさんが、その成果により封土を与えられ、その領都に必要な魔道具を買いに来たのだ。


「ケイタ=フォン=ヤマダです。今日は魔道具の説明と買い付けをお願いします。そして、こちらが、チェプト=グラマンシュです。ヤマダ家の家宰をしています」


しっかり家宰のチェプトも紹介する。

頭下げ、あたらめて挨拶をするチェプトである。

今後、ヤマダ家の家宰として魔道具ギルドとのやり取りも増えると判断してのことである。


(しっかり、それぞれの役割持たせないとな)


メイが号泣したことで色々反省したようだ。


テーブルの周りに6人で座る。

数名のギルド職員が部屋の端に立っている。


テーブルを見るおっさん。

小さな造形物が何個もテーブルに置いてあるのだ。


「これは?」


「はい、言葉だけでの説明では理解できなかったり、誤解があるかもしれません。縮小型の魔道具の模型です」


(おお、さすが魔道具ギルド。ミニチュア魔道具を用意してくれたで。こ、これはブログが弾むで!)


【ブログネタメモ帳】

・施設用魔道具を買いに来た ~ミニチュアはおまけでつきますか?~


「まずは主な種類と用途について説明させていただきます」


「お願いします」


・精製水魔道具 飲料水を生成する魔道具、水量調整可能

・浄水魔道具 下水の水を洗浄する魔道具

・消臭魔道具 下水等の悪臭を消臭する魔道具

・灯り魔道具 灯りをともす魔道具、時刻による自動点灯可能

・ごみ焼却魔道具 ごみの焼却が可能な魔道具


(む、ほしいものがないな。魔道具ギルドにあるの知ってるんだけど、貴様ら隠してるな!)


「主に街で使われる魔道具はこのようになっています。ほかにもありますが、まずは今説明したものがどの街でも必要になるかと思います」


ミニチュア魔道具も使って説明してくれる支部長である。

最初はどこの街にもいる魔道具を買って、利便性を理解してから他の魔道具を買ったらよいとアドバイスをしてくれる。


灯り魔道具以外は、1つの大きな施設である。

灯り魔道具のみ街灯であるので、複数の街灯を管でつなぐ構造のようだ。


「なるほど、では規模や規格のようなものがあるのですか?あと耐久年数も知りたいです」


「規格がございます。規格によって持つAランクの耐久年数も違います」


・小規模の施設魔道具 5千人規模

・中規模の施設魔道具 1万人規模

・大規模の施設魔道具 2万人規模


・小規模の耐久使用年数 20年

・中規模の耐久使用年数 10年

・大規模の耐久使用年数 5年


一応の目安であると補足する支部長である。

同じAランクのモンスターによっても強さに違いがあるのでそうだなと納得するおっさん。


「これは魔石の数が施設の規模によって違うのですか?」


「いえ、全て1つです。耐久年数が短くなるのです」


「なるほど、ふむふむ。ご丁寧にご説明ありがとうございます」


「いえいえ」


「購入してから、用意できるまでにどれくらいかかるのでしょうか?」


「よほど多くなければ1か月あればご準備できます」


もっとも購入頻度の高いものを選んだので、在庫があるものもありますとのことだ。

しかし、1か月後にまとめて渡すのが基本とのことである。


「分かりました。作ってほしい物をお伝えすれば、作っていただけるようなご依頼は可能ですか」


「も、もちろんです。今あるものを施設と同じ規模にするというものであれば、作成可能なものもあります」


イリーナとチェプトが、購入するだけでなく、独自の魔道具を作ってもらうのかという顔をするのだ。


「1つ目は、ものを動かす魔道具です。人や物が乗って、それを運ぶような感じでしょうか」


手のひらを使いイメージを伝えるのだ。


「そうですね。可能であるかと思います。もう少し詳細を聞いて、試作機、実用機と段階を踏まないといけませんので、通常よりお金もかかると思われますが」


「2つ目は、一定の温度にする魔道具です。そうですね。ため池を一定の温度に温める魔道具のようなものはありますか?」


「なるほど、それも今ある焼却の魔道具から温度設定を変更し、街用に規模を大きくするだけですので製作可能ですね」


「ありがとうございます。最後にこれはどうしてもほしいものがありまして」


「なんでしょう。魔道具ギルドで製作できる物でしたら」


「実は私達はウガルダンジョン都市でダンジョンの攻略をしていまして。そこであった、恐らく魔道具であるものがございまして、どうしても街に取り付けたいのです」


支部長も副支部長も身を乗り出して聞くのだ。


「そ、それはなんでしょうか?」


「ダンジョンの入り口にあった、別の階層に飛ぶ施設です」


「「「………!!」」」


魔道具ギルドの支部長も職員も驚愕するのだ。

ダンジョンに通い続けたイリーナもあれが欲しいなんて言い出すとはという顔をするのだ。


「街を有効に活用するためにもどうしても作っていただきたいのですが、あれは作るのは難しいのでしょうか?」


「え~と、そういうのもあるんですね」


目が泳ぐ支部長である。


「あれは、魔道具だと思っていましたが、そうではないのでしょうか?」


ウガルダンジョン都市の冒険者ギルドの支部長からは魔石で動くと聞いているおっさんである。

であるなら、魔道具であるのではと推察したのだ。


「た、たしかに、魔道具ですが、とても製作が難しいといいますか」


「資材の調達が難しかったり、お金がかかるということでしょうか」


歯切れの悪いギルド支部長である。

そして、他の誰にも言わないでくださいと言われて教えてくれるのだ。


「いえ、魔道具の一部がドワーフしか作れないのです」


「「「ドワーフ?」」」


(きたあああ。エルフも滅多にしか見ないが、ドワーフはもっと見ないからいないかと思っていたが、こんなところで出てくるとは!ドワーフのいない異世界などないのだ!!)


「はい、背が低く手先が器用な種族なのですが、移動機の作成には、ドワーフが作成する宝玉が必要なのです。しかし、現在ドワーフとの交流が王国にはないのです」


以前は王国にドワーフがいた。

しかし100年以上前に、ドワーフやエルフ、獣人などに厳しい政策をする国王が王位についたのだ。

ドワーフやエルフに対して、税や罰則を厳しくしたのだ。

また、王国やギルドの要職にも就けなくしたのだ。

迫害を受けたドワーフが、王国を大挙して去ってしまったのである。

エルフも同じく去ってしまった。

獣王国とは、友好的な国王がその後すぐに現れたため、獣人は戻ってきた。

それに比べて、ドワーフとエルフに対する悪法が撤廃されるのは遅かったのだ。

ドワーフは王国から完全に消え、エルフは一部、冒険者ギルドの要職に就く以外では今でも戻ってきていないのだ。


(だから、ドワーフ娘を見なかったのか。けしからんな!)


【ブログネタメモ帳】

・魔道具の秘密 ~ドワーフは何処~


以前は、魔道具ギルドの本部長はドワーフが務めていた。

支部長や副支部長もドワーフが務めることが多かった。

王国の大臣に就くものまでいたのだ。

魔法や野外での戦闘に長けたエルフが冒険者ギルドの部長や支部長に就いているようにである。


「そういったことがあったのですね」


「いまでは、ドワーフたちがどこに行ったのかさえ分からないのです。帝国は王国以上に今でも、エルフ、ドワーフ、獣人に厳しいのです。恐らく聖教国か獣王国に行ったと思われています」


移動機はその当時の魔道具の名残であるという。

今では、ドワーフにしか分からない魔道具も多く、半数近くの魔道具はなぜ動くのかさえ分からないまま使っているという話だ。

修理もできないが、魔石を交換すると動くのだ。


「分かりました。移動機については、今後ということで、注文に入ってもよろしいでしょうか」


移動機をあきらめたわけではないおっさんである。

おっさんの領都には移動機が必要だと思っているのだ。


「はい」


「精製水魔道具、消臭魔道具、浄水魔道具を4つください。灯り魔道具の8つください。全て大規模でお願いいます」


「け、結構たくさん買われるのですね。灯りは8個もいるのでしょうか?」


まだ人口12人のおっさんの領都である。

灯りだけで言ったら16万人分であるのだ


「はい、最低8個はいります。予定ではもっといるかもしれません」


「わ、わかりました」


「また、配送魔道具と高温魔道具の製作依頼もお願いします」


「かしこまりました。料金の請求書を作らせていただきます」


・精製水魔道具(大)4個 1つ白金貨20枚、小計白金貨80枚

・消臭魔道具(大)4個 1つ白金貨20枚、小計白金貨80枚

・浄水魔道具(大)4個 1つ白金貨25枚、小計白金貨100枚

・灯り魔道具(大)8個 1つ白金貨10枚、小計白金貨160枚


・配送魔道具試作費 白金貨10枚

・高温魔道具試作機 白金貨3枚


(ふむふむ、そこまでしないか?いや男爵領の徴税額が白金貨10枚とかその辺と考えれば、大規模な街しか買えないな。お金がかかるのは施設に使う魔道具だけではないんだしな)


「お、おい、ごみの焼却の魔道具はいらないのか?」


話を聞いていたイリーナが尋ねるのだ。

こういうことはチェプトが聞いてほしいと思うおっさんである。


「はい、ごみは焼却せず、高温処理でたい肥を作成する予定です」


「たい肥?」


詳しい話はあとでするとイリーナに伝えるのだ。

お金の清算をし、ギルドを出ると馬車が待機しているのだ。

フェステル家宰のセバスから街に来た際は、移動には馬車を出すし、街の外に召喚獣で飛べる場所まで送迎もするとのことである。

貴族であり、フェステルの街の英雄であり、1年経ったが、まだ街中を歩くと街の人から気付かれるおっさんであるのだ。


おっさんがダンジョンを攻略した際も、冒険者ギルドを通じて60階層以降、10階層ごとに街の広場に掲示してきたフェステルの街である。

移動に10日かかる王都の結婚式も見に行った街民も結構いたのだ。

街から生まれた御自慢の英雄といった感じであるのだ。


馬車に乗り、召喚獣を出してイリーナの街に戻るのだ。

既に、午前中に買い物も済ませているのだ。

飛びながら、イリーナに伝えるおっさんである。


「私はこの街を王国に、世界にとどろく街にしたいと思います」


「そうなのか。分かった、楽しみにしているぞ」


おっさんにとって作りたい街づくりがあるのだなと思うイリーナである。

実はこの後、あの時もう少し聞いておけば、こんなに大騒ぎになることはなかったのになと思うのであった。


「それにしても、Aランクの魔石もいりますね。今度、魔石を取りに大連山に行ってみましょうか。たぶんAランクのモンスターもいるでしょうしね」


「そうか、分かった」


おっさんは、お金があるから魔石を買うこともできるのだが、調達できるものは自分で調達をするのである。

お金も有限であるのだ。


夕方前に拠点に戻れたおっさんらである。

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