第12話 会議①
イリーナに黙っていたことを打ち明けたおっさんである。
その日はゼルメア侯爵から借りた一室でイリーナと過ごしたのだ。
今日は、朝から王城に封土の授与式に向かったのだ。
ここ最近何度も行った謁見の間である。
封土の授与式についてはつつがなく終わったのだ。
国王との謁見は、基本的に短いのだ。
そして、今は王城の一室である。
広い会議室にいるおっさんである。
今後の封土に着いて、話し合うのである。
封土を与えられたら好きにしてもいいよではないのだ。
この会議室には、マデロス宰相、ゼルメア侯爵、フェステル伯爵、ウガル元伯爵、ガリヒル男爵、おっさん、イリーナ、ロキ、コルネ、セリム、アヒム、イグニル、チェプト、アリッサ、メイと、そして、王都の役人やおっさん以外の配下も大勢きているのだ。
国王は来ていない。
マデロス宰相が決まったことを報告するのである。
「ふむ、全員集まったようだな。では始めよう」
フェステル伯爵が司会進行をするようだ。
おっさんの貴族としての親なのだ。
そして、あくまでも封土の中の話である。
隣の領の話ということもあり、最も影響を受けるのがフェステル伯爵であるのだ。
アドバイスや決定事項を止めることはできるが、あくまでもマデロス宰相は部外者なのである。
ゼルメア侯爵も同様である。
フェステル伯爵の開始の言葉に皆が頷くのである。
「まずは、ケイタよ。封土を賜り誠にめでたいな。封土をどうしていきたいのかあれば、まず聞かせてくれぬか?」
本来であれば、おっさんの意向をもっと少ない人数で決めてから、今回のように関係する人を集めたほうがいいのだ。
しかし、おっさんに与えられた封土は広大であるのだ。
広大なフェステル伯爵領よりも広いのだ。
フェステル伯爵領にレイ団長が当主のクレヴァリン男爵領、そしてクルーガー男爵領の3つを合わせた土地よりも広いのだ。
予め、利権の絡む話でもあるので、情報をオープンな形で開示することにしたのだ。
「私としては、まずは自分の住む街を作ろうと思います。領をどうするのかはそれからと考えています」
【ブログネタメモ帳】
・自分の街を作ってみた ~会議編~
(うは、街を1から作るで。アクセスが増えすぎて止まんないかも。やばい、よだれが出たで)
「ふむ」
おっさんの内心は置いておいて、普通の回答が来て、若干安堵するフェステル伯爵である。
この1年間、おっさんが作ったトトカナ村の先にある冒険者の要塞に翻弄されたのだ。
これはフェステル伯爵だけではないのだ。
この1年で、王国で1万人以上の民の移動があったのだ。
王国の民は全くの移動の自由がないわけではない。
しかし、王都もしっかり民の移動を管理しないといけないのだ。
その手続きに1万人以上である。
各種移動の手続きに翻弄された役人たちも、おっさんが封土を与えられたら何をするか知っておかねばならぬのだ。
「街か。地図を持ってまいれ」
「は!」
街という単語に反応するマデロス宰相である。
騎士が3人がかりでテーブルの上に地図を置かれる。
「どのあたりに、どの程度の街を作るつもりであるのだ?」
王国の未来を左右するため、しっかり聞いておきたいようだ。
「えっと、ここがトトカナ村ですよね」
「うむ、そうだ。そこから歩いて2日のところに冒険者の要塞があるな」
フェステルの街を起点にすると
おっさんが作った城壁宿場町:西に1日(30km)
トトカナ村:西に2日(60km)
おっさんが作った要塞:西に4日(120km)
ガリヒル男爵領都の間の検問:東に4日(120km)
(これで見ると、フェステル伯爵領って東西に240kmくらいあるんだな)
「街の場所ですが、街と街の距離は大切かと思っています。フェステルの街やウガルダンジョン都市から王都に行った際に思ったのですが、街と街の間が近すぎても、遠すぎても不便であると思っています」
「ふむ、たしかにな」
フェステル伯爵が頷きながら返事をする。
常識が大好きなフェステル伯爵である。
「ですので、冒険者の要塞から2日から4日程度の距離に作ろうかと思います。できれば、森林の切れ目や開けたところ、川などがあれば、そちらの側になると考えております」
「大きさはどの程度なのだ」
「1辺3里ほどの四角形の街を考えています」
「「「さ、さんり!!」」」
非常識な話が飛び出してきて、騒然とする会議室である。
黙って聞いているつもりのロキも思わず声が出るのだ。
マデロス宰相とフェステル伯爵は、先に聞いておいてよかったと思うのだ。
この異世界には距離の単位があるのだ。
1里は4kmである。
1町は100mである。
1辺3里である12km×12km=144平方kmの街を作ろうとしているのだ。
おっさんによって大きく拡張されたフェステルの街ですら半径5kmなのだ。
フェステルの街は面積としては80平方km程度であるのだ。
おっさんの作ろうとする町は、王都並みの大きさであるのだ。
「そ、それはちょっと最初から張り切りすぎではないのか?」
フェステル伯爵が思わず諫めるようだ。
「はい、街として住む面積はもっと小さいものを考えています。何分森林なもので」
「ん?どういうことだ?」
おっさんは説明をするのだ。
今回与えられた土地は森林6割、山4割の土地である。
144平方kmの予定であるが、街としてはほんの一部の面積を使う予定であるのだ。
人々が生活するには、建物だけではなく、畑や牧場なども必要なのだ。
「なるほど、そういうことであったか。それと、すまんが、王国の宰相として、いくつか街を作ることにお願いがある」
マデロス宰相が街を作る上でおっさんにお願いという名のルールを設けるのだ。
街はフェステルの街と、ウェミナ大連山の切れ目の間に作ってほしいとのことだ。
防衛のためである。
ウェミナ大森林の先にあるウェミナ大連山には1つの大きな切れ目があるのだ。
そこから何十年に1度、帝国が攻めてくることがある。
その防衛を兼ねての封土であるのだ。
よって、街は攻められることを前提として作ってほしいとのことである。
「分かりました。他に何かありますか?城壁や建物は王城より高くしてはいけないとか?」
「うん?まあ、そうであるな。今回はモンスターも溢れるウェミナ大森林である。帝国とも接しているので、王城より高くしてもらっても構わぬ」
街の大きさや場所に着いてある程度話がまとまってきたようである。
皆疑問に思っていることがある。
今日、封土を貰ってなぜこんなにスラスラおっさんが、街作りの計画がでるか疑問に思っているようだ。
おっさんは箱庭系の小説や内政系もかなり読み込んでいるため、なんとなくこういうものであろうなというイメージはあるのだ。
封土を貰えると分かってあれこれ考えていたのである。
「ヤマダ子爵よ。ある程度話がまとまってきたなら1つお願いがあるのだ」
ウガル元伯爵が初めて話に参加する。
今からする話をするために、フェステル伯爵にお願いをし、会議に参加させてもらったのだ。
「はい、なんでしょう」
「ウガルダンジョン都市にいる代官のリトメルを、そなたの封土で仕事をさせてもらえぬか?」
ウガル元伯爵はセリムを伯爵にすると決めた時に、やらなくてはいけないことが1つあったのだ。
それは代官リトメルの処遇である。
セリムが当主となり、ウガルダンジョン都市を治めると、どうしても過去のいきさつで代官リトメルとの間で、大なり小なり不和が生じる。
セリムに不和が生じなくても、セリムの子供とリトメルの子供の間に何かあるかもしれないのだ。
それほど、廃嫡とは大きなことであるのだ。
何世代にもわたり確執を生む恐れがあるのだ。
10年もの長い間、代官としてウガルダンジョン都市を納めたリトメルの新しい仕事先を方々に回って探していたのだ。
おっさんは、なぜウガル元伯爵がこの会議に何でいるのだろうとずっと思っていたようだ。
そして、この言葉で理由を察するのである。
「分かりました。では、ヤマダの街の代官として、リトメルさんを受け入れます」
「な!?いや代官でとは言っておらぬぞ?」
あくまでも仕事先であるのだ。
代官にしろとは言ってないウガル元伯爵である。
領都の代官が決まりそうとあって、皆この会話に注目をする。
しかし、反対はしないようだ。
「いえ、ガルシオ獣王国との間の国境の街であり、王国でも最大規模のダンジョン都市を長年納めた手腕に期待します。ぜひよろしくお願いします。ああ、身内がいるなら何十人でも受け入れますのでそのようにお伝えください。」
「む、そうか。かたじけない」
机の上で頭を下げるウガル元伯爵である。
「ふむ、代官も決まったようだな。フェステル領からも、役人や騎士を派遣する予定であるぞ」
フェステル伯爵も人を出すという話だ。
細かい話はこれからにするという話だ。
これは、今まで発言のないガリヒル男爵の領からもそうである。
おっさんの治める領は今のところ誰もいないのだ。
これから、街を作り、人を住まわせるのだ。
領を治める代官や役人、街の人も、冒険者もこれからであるのだ。
もちろん、騎士団についてもそうである。
ウガル伯爵領からも騎士を出すとのことである。
おっさんが街の場所を決めている間に、その辺りの人事については調整を進めるとのことである。
「では、あとはケイタが街の場所を決めてからにしようか。我の方で、人員をある程度話を進めておいてもかまわぬか?」
フェステル伯爵も話がまとまるまで当面王都に滞在するのだ。
ウガル元伯爵やガリヒル男爵もである。
皆が王都にいる方が話が進むのだ。
「問題ないです。それと1つ気になったことがあって」
「うん?なんだ?」
おっさんは、自分の発言で気になることがあるようだ。
ヤマダの街についてである。
「街の名前って、家の名前じゃないといけないんですか?フェステルの街やウガルダンジョン都市のように」
「うん?まあ、そんなことはないぞ。昔からある地名や、山や湖の名前を領都の街の名前にしているところもあるぞ。何か付けたい名前があるのか」
「はい、でえっと。イリーナ。何か付けたい名前がありますか?」
「む?」
いきなり声をかけられて、一瞬答えられないイリーナである。
イリーナに話を振ることで思い出す会議室の皆である。
王都の広場でのキスの件を聞いているのだ。
愛妻に名前を付けさせようとしているのか。
おっさんはずいぶんロマンチックなところがあるのだなと皆思うのである。
「まあ、あとでもいいですよ。何かあればその名前にします」
「いや、さすがに領都だ。ケイタに名前をつけてほしいぞ」
「本当ですか!」
嬉しそうにいうおっさんである。
イリーナもそれで察するのだ。
付けたい名前があるが、その前に自分に聞いてくれたのだと。
なければ自分が決めた名前にしようとしているのだなと。
気持ちが温かくなるのを感じるイリーナである。
「うむ、ケイタは領主なのだからな。好きな名前を付けたらよいぞ」
皆、このやり取りでおっさんが何か付けたい名前があることが理解できたようだ。
何にするんだろうと思うのである。
「では、領都はイリーナの名前を付けたいと思います」
「ぶっ」
「「「な!?」」」
思わず吹き出すイリーナと驚く会議室の皆であった。
こうして、イリーナの街作りも始まったのであった。
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