第66話 ウガル家②

「な!そ、それは。お、お待ちくださいませ。国王陛下」


セリムが止めに入るのだ。


「うむ、どうした?処刑は自ら行いたいと申すのか。気持ちは分らぬでもない」


「いえ、ウガル伯爵の判断は間違いがございません。確かに私は剣も魔法もできませんでした」


「うん?どういうことだ?そなたは武勇に優れておるのだ。だからダンジョンを攻略ができた。そして、ウガル伯爵はそれが見抜けなかった?そういうことではないのか?」


「その点でございますが、国王陛下」


マデロス宰相が資料を見ながら割って入るのだ。


「うん?なんだ?」


「冒険者ギルドより入った情報がございます。このセリムの力は剣も魔法とは別のもののようです。別の力があるのです」


「マデロス宰相よ。なぜいつも報告が遅いのだ。それは、どういうことだ?回復魔法ができるとそういうことか?」


「いえ、剣でも魔法でも回復魔法でもありません。どうも召喚士という初めて聞く職業であるということです。報告書では、召喚士の力である召喚術によってダンジョンを攻略できたとのことです」


「しょうかんし?」

「なんだ?しょうかん術とは?」

「しょうかんしだからダンジョンを攻略できたということか?」


召喚士とは何だという話でざわつく謁見の間である。


「聞かぬ職業であるな。セリムよ、召喚士とはなんだ?」


「え?あ?そ、それは、モンスターを呼び出して戦わせる職業です」


「ふむ、ウガル伯爵といい。セリムといい、余を謀るのか?そのような力があるわけなかろう。もしもあるなら見せてみよ」


「こ、ここでございますか?」


「王命である。早く召喚士の力をここで見せてみよ」


セリムが困ってとうとう、後ろにいるおっさんの方を見だす。


「おそれながら国王陛下」


下を向いたまま話し始めるおっさんである。


「魔導士ケイタよ。どうしたのだ?」


「セリムはこのような場で緊張をしています。召喚士の十分な力を示すため助言をしてもよろしいでしょうか?」


「かまわぬ」


「そして、セリムに宿りし召喚士の力、召喚術とはダンジョン攻略を助けた巨大な力です。ただ見せるだけでも庭先が多少荒れ、王族貴族の皆さまが多少驚かせてしまいます。かまいませんでしょうか?」


「もちろんかまわぬ。ウガル伯爵が見抜けなかった、召喚士の力を早やく見せるのだ」


「かしこまりました。では失礼します」


立ち上がるおっさんである。

セリムも立たせる。

一行たちはなぜこの状況でおっさんは、こういう場でも緊張しないのだと思うのである。

おっさんは多少緊張をしているのだが、セリムの人生がかかっているため、自らを奮い立たせているのだ。

セリムを窓際まで連れていくおっさんである。

騎士によって立たされたウガル伯爵もセリムの挙動を凝視する。


(結構広い庭だな。これならAランクのモンスターを出しても問題なさそうだな)


「どうしよう、とんでもないことになったぞ。どうしたらいいんだよ」


「まあ、いい機会です。召喚士の力を皆に見せてやりましょう」


「何を召喚すればいいんだ」


「そうですね。飛竜がいいでしょう」


「分かった」


「では国王陛下!飛竜を窓の外に召喚します。驚かないでください!」


王座に座り頷く国王である。

ウガル伯爵もマデロス宰相も飛竜と聞いて驚愕している。


「な、飛竜などどこにもいないではないか」

「そのようなこと、できるはずがないであろう」

「よ、世迷言だ。モンスターを何もないところから出すなど」


(ふむ、ずいぶんな状況を国王は作ってくれたな。皆ちびらないでね)


「ではセリム、おねがいします」


両手を上げるセリムである。

王族達が固唾を飲んで見守る。

貴族達がセリムと庭先を交互に見るのだ。


「飛竜!召喚!!」


大声で叫ぶセリムである。

飛竜が一気に実体化する。


『グルウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』


王城の庭先に飛竜が現れたのだ。

15mの巨体である。

3階の謁見の広間にはちょうど首から上と翼の上の部分が見えるのである。

セリムの中で、様子を聞いていた飛竜が、その存在を誇張するかのように、雄叫びを上げるのである。

ガラス窓が雄叫びによりものすごい振動を始める。

兵達が庭先に集まってくるようだ。


「ひ、ひいいいい」

「飛竜だああああ」


腰を抜かす貴族達である。


「これは気がつきませんでした。申し訳ありません。反対側の窓からは見えないですね。反対側にはそうですね。セピラスを召喚してあげてください」


「そ、そうだな。わかった。セピラス召喚!!」


『クワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』


全長15m、真っ白い鳥が姿を現す。

セリムの中で様子を聞いていたのか、存在を誇示するため、30mにもなる翼を広げ、くちばしを天に掲げ高い声で鳴くのである。


「そ、そんなAランクのモンスターを2体も出てきたぞ!」

「霊鳥セピラスが、こ、こんなに近くにおるぞ!」

「このようなモンスターを自在に操ると先ほど言っておったぞ!」


立ち上がる国王である。

窓の方に寄っていくようだ。

ロヒティンス近衛騎士団長が慌てて制止する。


「な、国王お下がりください!」


「何を言っておる。余が力を見せよと言ったのだ。ロヒティンスよ。庭先の兵を鎮めよ」


庭の先はテラスになっているようだ。

テラスまで走って庭先の兵達に攻撃しないよう慌てて指示を出すロヒティンス近衛騎士団長である。

片方に言ったらもう片方にである。


「セリムよ。この飛竜は言うことを聞くのか?」


セリムの横に行く国王である。


「はい」


「そうか、飛竜をなでさせてくれ」


「お、王お戯れを!」


「戯れなものか、このガニメアス=フォン=ヴィルスセンは王国の未来を示す責任がある。召喚士の力を自ら見極めねばならぬ」


国王は、王国の未来のため、召喚士の力を知らねばならぬと思ったようである。

おっさんは窓を開ける。

窓の大きさでは、飛竜は頭を広間には出せないが、ゆっくり開いた窓に顔を近づけるのだ。

飛竜の巨大な顔が近づき、息を飲む貴族達である。

顔だけで3m以上あるのだ。

ウガル伯爵もその様子をじっと見ているのだ。


「ど、どうぞ」


セリムの言葉に、おそるおそる飛竜の鼻先をなでる国王である。

触った状態のまま、貴族達を見回すのだ。

まるで、王家が召喚士の力を証明するかのように。


「なるほど、確かに言うことを聞くか。飛竜を撫でる日がくるとはな、これがセリムの力か」


「そうです。セリムなくして、ダンジョン攻略はあり得ませんでした」


おっさんが返事をする。


「召喚士の力、十分に分かったぞ。だした飛竜とセピラスを消すことはできるのか?」


「はい、では消します」


両手を広げ、飛竜とセピラスを消したセリムである。

何人かの貴族が気を失っているようだ。

何人かの貴族が漏らしてしまったようだ。

兵たちに運ばれていく。

おっさんもセリムも元居た場所に戻り、跪く。

国王も王座に座る。

静寂が広がっていく。


「たしかに、飛竜を自在に操るセリムの力確かに見た。そして、ウガル伯爵よ、その力を読めなかったことも一定の理解を示そうではないか」


「は、はは」


「しかしだ、それでセリムは納得できまい。家を追い出されたのだからな。どうけじめをつけるのだ?」


「は、ウガル家にセリムを戻し、伯爵の地位を譲りたいと思います」


即答をするウガル伯爵である。


「セリムを伯爵にし、領を治めさせるということか?」


「はい」


「セリムよ」


「は、はい」


「そなたに2つの選択をやろう。1つはウガル伯爵の後を継ぎ、お主が伯爵となることだ。しかし、それでは納得できないのであれば、2つ目の選択肢だ。ウガル家は王家が取り潰す。そなたが伯爵として新しい家を興すのだ。そして伯爵領を治めるがよい」


ウガル家に戻り伯爵になるか。

ウガル家を潰して、セリムが新たな家を興して伯爵になる。

どちらで伯爵領を治めるか自ら決めよとそういうわけである。


王族、貴族達の視線がセリムに集まっていく。

固唾を飲んで見守るのだ。

どちらを選ぶのか。


「私、セリムはウガル家を継ぎたいと思います」


「そうか、良いのか?貴族に生まれたお主が追い出されたのだ。苦労したはずだ。許されるのか?」


「はい、確かに家を追い出された2年間は大変でした。ケイ、じゃなくて、ヤマダ男爵にダンジョン攻略を誘われなかったと思うと今でも震えが止まりません」


ダンジョン攻略中ずっと思っていたのか、よどみなく話をするセリムである。


「ふむ」


相槌を打つ国王はセリムの話を最後まで聞くようだ。

黙って聞くウガル伯爵である。


「私はダンジョン攻略の中で、ウガル家がどれだけ、街で愛されているか知りました。私は攻略中たくさんの声援をいただきました。もちろん攻略後にもです。これは私を通してウガル家に対する声援だと気づかされました」


ウガル家への反発から考えないようにしていた、街の住人のウガル家への信頼である。

一度言葉にすると止まらず、どんどん溢れてくるセリムである。


「そうか」


「また、ダンジョンの奥でウガル家の思いに触れました。50年間ずっとダンジョンコアを探し続けてきた先代からの思いです。ウガル家はどれだけ街のためにダンジョンコアを目指していたかを知ることが出来ました」


「先代の思い?」


「はい、先代アレク様の思いです。そして、祖父に剣を渡してほしいと言われました」


「な!?」


ここまでずっと黙って聞いていたウガル伯爵が父の名前を聞いて、セリムを見るのである。

何を言っているのだと、そういう顔で見ているのだ。


「剣?先代のウガル伯爵から剣を貰ったのか?」


国王にそう言われると、セリムは服の内側に手を入れる。

服の内側にいれていたボロボロになった宝剣を出すセリムである。


「これを祖父に渡すように言われました。ウガル家の思いのすべてが詰まっている剣です」


セリムは立ち上がり、国王に向けて跪いているウガル伯爵に剣を差し出すのだ。


「こ、これは。わ、わ、私が父上に書斎でねだった短剣ではないか。こ、この宝玉は間違いがあろうはずがない。大人になったらくれると、なぜ、こ、これを」


我を忘れて、震える両手で朽ちた短剣を受け取るウガル伯爵である。


「ダンジョンコアの前でアレク様より頂きました。そして、アレク様から父に伝えたい言葉を預かっています」


「な、なんだ、父は何て言ったのだ!?」



「ありがとう、そしてすまないと」


「そ、そんな。おおおおおお!父上ええええええ!!!」


泣き崩れるウガル伯爵である。

父との記憶、父との別れがボロボロの短剣から蘇ってくるようだ。

途中から何の話か分からなかったが、王族も貴族も何も言わないようだ。

ウガル家に取って大切な話であるとそう思ったのだ。

国王の御前であるがだれも咎めようとしないようだ。

ウガル伯爵の号泣が謁見の広間に木霊したのであった。

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