第65話 ウガル家①
「それにしてもあっという間だったな。ケイタが街を出ていったことも昨日のことのように思い出すぞ」
「いえいえ、アロルド様への連絡が少なくてすいませんでした」
アロルド=フォン=フェステル子爵をアロルド様と呼ぶおっさんである。
「なに、構わんよ。魔石の件本当に助かったぞ!セバスと新たに必要になった魔石をどうするか迷っていたのだ」
フェステル子爵とは2日前、ゼルメア侯爵の館であったのだ。
魔石の件とはダンジョン攻略中にAランクの魔石20個をフェステル子爵に送ったのだ。
ここは王城の一室である。
おっさんら一行10人とフェステル子爵である。
「そ、それにしても完全武装でよいのでしょうか?」
ロキが戸惑っているのだ。
「まあ、これだけの功績であるからな」
フェステル子爵がフォローをする。
現在、国王への謁見のため、応接室で待機しているのだ。
何と全員フル武装である。
ソドンだけはさすがに2つの大盾だと重いので盾1つとハルバートである。
王城の中ということもあり仲間支援魔法は使っていないのだ。
国王との謁見は武器を装備しないことが基本である。
国王がいるのだ。
当然である。
しかし、戦争で多大な功績を残した将軍に帯刀を許したまま謁見することもあるのだ。
王家としてはそれだけ功績を認めており、信頼もしているぞというわけである。
謁見に参列した周りの貴族にも、功績を残した者の信頼を示すことができるためである。
しかし、今回は少し勝手が違うのだ。
そもそも、おっさんは武器を持たずオーガの大群も飛竜も屠るのだ。
武装しようがすまいが関係ないのだ。
そして、王家としても2000人の騎士でもなしえなかった攻略を、たった10人で達成したのだ。
どれだけの武力がおっさんら一行にあるか王家として知る必要があるのである。
王国の未来に関わることなのだ。
おっさんだけに力があるのか、他の9人にも力があるのかである。
それが、おっさんらの信頼を貴族に示すことができて得があっても損はないのだ。
時間のようだ。
騎士達が謁見の広間に案内をしてくれる。
フェステル子爵も含めて11人が騎士達に連れられて謁見の広間に向かう。
観音開きの扉が開けられる。
先を進む2名の騎士の、真ん中やや後方を歩くおっさんら一行とフェステル子爵である。
先頭は2人、フェステル子爵とおっさんだ。
下には真っ赤な絨毯が引かれている。
参列の貴族達がその両サイドに立っている。
黒目、黒髪、漆黒の外套の魔導士を、羨望のまなざしで見る貴族も多いようだ。
「ほ、本当に侍女が鎧を着てオリハルコンの槍を持っているぞ」
「何を言っているヤマダ男爵を除いて9人全員あの武器も巨大な盾もオリハルコンではないか」
「見よ、前に座る第三王子を。オリハルコンの剣を帯刀しているぞ。なんでもゼルメア侯が動いたと聞いているぞ」
「そうなのか?1人でヤマダ男爵を囲い込んでいるとは本当のようだな」
「ああ、お茶会にヤマダ男爵を先日も呼んで、ケイタ呼ばわりだったと聞いているぞ」
「せめて、ヤマダ男爵は無理でもお仲間とお近づきできないものか」
貴族達が周りとひそひそ話をしているようだ。
そして正面の王座には誰もいない。
部屋の真ん中あたりで2名の騎士が歩みを止めるので、事前の説明どおり歩みを止め、片足をつき、ひざまずく。
視線はやや下にして、数m先の真っ赤な絨毯を見る11人である。
フェステル子爵、おっさんと横1列に、残り9人が後ろに2列で跪くのである。
ほどなくすると、
マデロス宰相に連れられて国王が王妃とともにやってくる。
そして、王国騎士団であろうか数名の騎士が国王の両サイドに立つ。
真っ赤なローブを着た王宮魔術師も何人も国王の側に控える。
マデロス宰相が話し始めるようだ。
「ふむ、これから儀式を始める前に、1つ気になることがあるのだが。王の御前である。パメラといったか、仮面は取れぬのか?」
(やっぱり仮面はまずかったか)
パメラに視線が集中するのだ。
ソドンは当然仮面をつけていないのだが、パメラは仮面をつけて謁見をしたのだ。
そもそも謁見を断ろうとしたパメラである。
それはできぬと王家から全員で謁見するよう言われたので、仮面をつけて謁見したパメラであるのだ。
「王家のお目を汚してしまいます。何卒ご容赦ください」
「何を言っている?ダンジョンで顔にけがを負ってしまったのか?」
これ以上パメラは何も言わないようだ。
深く頭を下げる。
困ったなという顔をするマデロス宰相である。
王の御前であるが、王国の英雄である。
できれば、無理に取りたくないというのが心情であるのだ。
「まあ、構わぬではないか?仮面をつけての謁見を許そう。ソドンは仮面をつけていないのだな」
「は!」
「それにしても久しぶりだな。4年ぶりくらいか。2人とは湖畔のほとりでの会議に出向いて以来か?」
「はい、ガニメアス国王陛下におかれましてもご健勝のほど、喜び申し上げます」
「まあ、そこは何のことでしょうととぼけたほうが良いと思うのだがの。お主も相変わらずのようだな。余はな、獣王国とも仲良くしたいと思っているのだ。あとで、会議室に2人とも来てもらえぬか?」
「は!」
ソドンがパメラに代わって返事をするようだ。
国王とソドンの会話はそこまでのようだ。
どうやら国王はパメラとソドンが誰なのか分かったようだ。
何の会話だろうと思う王族たちである。
そして、貴族達である。
しかし、もう1人分かったものがいるのだ。
「ソドン?パメラ?き、きみはパルメリアートなのか!!ぶ、無事だったのか!?」
立ち上がるジークフリート殿下である。
横にいる王族達も参列する貴族達も何事だと顔でジークフリート殿下を見るのだ。
しかし、パメラは顔を伏せたまま面を上げないようだ。
「も、申し訳ございません。私はパメラと申します。王族に知り合いなどいるはずがありましょうか」
声が上ずっている。
どうやらパメラが泣いているようだ。
いつも冷静沈着なパメラが動揺をしているのだ。
仮面から雫がこぼれていく。
「良かった。生きていたのだね。か、顔を見せてくれないかな?逃げるときにけがを負ったの?安心して。怪我は王家の薬師が必ず治す。いや顔などどうでも良いよ」
(なんだ、パメラの知り合いか?ずいぶん親密な関係っぽいぞ)
安どの表情を見せ、パメラの元に向かおうとするジークフリート殿下である。
「ジークフリートよ。ここは謁見の場である。控えよ」
しかし、国王が制するようだ。
「な、そ、そんな!」
「ジーク!!!」
「か、畏まりました」
仮面のやり取りでざわざわした状況も国王の怒号により静まり返るのだ。
諦め切れず、じっとパメラを見つめるジークフリート殿下である。
場が落ち着いたので、マデロス宰相は儀式を執り行うのである。
「この謁見は王国の歴史を刻むものである。彼のもの達は、王国のために、350年踏破ができなかったウガルダンジョンを踏破し、そのダンジョンコアを王家に捧げたのだ。この前人未踏の功績を称えるものだ。持ってまいれ!」
謁見の間の扉が再度開くようだ。
台車にコロコロ乗って何かが運ばれてくる。
しかしただの台車ではないようだ。
台車から30cmのところにダンジョンコアは浮いているのだ。
ぽこぽこと白い泡が発生している。
魔道具を備え付けた台車のようである。
「おおおお!!ダ、ダンジョンコアであるぞ!!」
「な、なんと美しい!光り輝いているのではおらぬか!」
「英雄だ!王国に英雄が現れたのだ!!!」
(この感じはダンジョンコアが運ばれてきたようだな)
後ろを見ることができないおっさんが、貴族の反応で予想するのである。
パメラの仮面の件で何事だという雰囲気もダンジョンコアが状況を変えてしまったようだ。
貴族たちも王族達もダンジョンコアを食い入るように見ている。
この大広間には窓が両サイドに取り付けられており、十分明るいのだが、それ以上の光である。
腰を掛けた王族達も、目を見開き半腰の姿勢で今にも立ち上がりそうである。
ダンジョンコアとたった10人でそれを成しえた英雄たちを交互に見るのだ。
吸い込まれるようにダンジョンコアの置かれた中央に少しでも近づこうとする貴族もいる。
「静粛に、気持ちはわかるが静粛にするのだ。国王の御前である」
場を落ち着かせるマデロス宰相である。
国王がマデロス宰相に目で合図を送る。
「これから、国王からの褒美の話になりますが、その前に確認せねばならぬことがある。セリムよ、前に出よ」
「え?おれ、じゃなくて私ですか、は、はい」
ガッチガチに緊張したセリムがたどたどしくおっさんの前に行く。
(俺も最初は緊張したな。今も緊張してるけど)
マデロス宰相の言葉により、一番前に並ぶフェステル子爵とおっさんより数歩前に跪くセリムである。
「確認とは、今回の功績を精査するにあたってでございます。とんでもないうわさを聞いたのです」
「うわさだと、そんなものは良い。素晴らしい功績と余も聞いておるのだ。早く褒美の話が余はしたい。儀式を進めよ、マデロス宰相よ」
「申し訳ございません、国王陛下。あまりに荒唐無稽なうわさでありますが、確認さえできればすぐ済みますので」
「そうか、手短に頼むぞ」
「は、すみやかに!それで、セリムよ。ないとは思うのだが、そなた、ウガル家を追放されたと聞いたが真か?」
「な、なんだと、それは真か?!追放だと!なんだその話は!聞いておらぬぞ!!」」
国王陛下が激怒して立ち上がる。
「お、お静まりくださいませ。国王陛下!あろうはずのない単なるうわさであります。しかし、これを確認せずに褒美の話はできませんゆえに。な、そうであろう、セリムよ、は、はよ答えるのだ。単なるうわさであると」
そうかと椅子に掛ける国王である。
(なんだろう、謁見の度に茶番を見させられている件について)
【おっさん心のメモ帳】
・謁見と茶番
ただ正直に答えればいいと付け足すマデロス宰相である。
沈黙する謁見の間。
全員がセリムを見るのである。
覚悟を決め話し出すセリムである。
「お、恐れながら、マデロス宰相様。そのうわさは本当であります。3年近く前にウガル家を母ともども追い出されました。今はただのセリムです」
「な、ば、ばかな」
「初めて聞いたぞ、そのような話」
「ウガル伯爵は血迷ったのか、王国の英雄になんてことを」
ざわめく貴族達である。
国王の顔を伺うマデロス宰相である。
国王はすぐに何も言わないようだ。
貴族達も何も話さない国王陛下の顔を伺う。
国王の沈黙が逆に怖いと思う貴族達である。
「ウガル伯爵よ。前に出よ」
「は、はは!」
静かな口調で謁見の場にいたウガル伯爵を前に出す国王である。
「何か申し開きはあるか?」
「ございません。全て真実にてございます。セリムは貴族の務めを果たせぬと判断しました」
「ふむ、どうやら事の重大さが分かってないように見えるの。マデロス宰相よ、分からせてやれ」
「は、今回のヤマダ男爵の一行の素晴らしき功績をお伝えします!この功績は王命と王印をもって書面とする。そして、速やかに王都を含める全領都に掲示するものである!」
そして、並ぶ王族も参列する貴族達にも聞かせるようにおっさんら一行の数多の功績を語りだすマデロス宰相である。
350年未踏のダンジョンを攻略したこと。
王国最高深度100階層のダンジョンのダンジョンコアを王家で管理することになったこと。
そのため、ウガル伯爵領の収益は早晩に倍以上になると予想できること。
攻略の間に1000個近いAランクの魔石を提供していること。
王家にも魔石や白金貨による多額の上納を行い、王都の活動にも貢献したこと。
今だAランクの魔石による施設のなかった、全ての男爵領への各種施設の新設が決まったこと。
おかげで王国全土が現在活気づいていること。
「王国に多大な利益をもたらしたのだな?」
「そうです!そして功績はそれだけではありません!!」
ダンジョン攻略の方法を何度となく冒険者ギルドの会議室で行い、冒険者達に攻略方法を説いたこと。
ダンジョンの道順の記録を40階以降99階まで冒険者ギルドに提供したこと。
ダンジョンコアが設置するまでの間生活が困らなくてもいいように白金貨2000枚を冒険者に寄付したこと。
ダンジョンコアを慰霊祭に捧げ、遺族の心を慰撫したこと。
50年前に亡くなった騎士の遺族のために、遺品をできる限り回収したこと。
「冒険者の生活に、民草の心に寄り添ったのだな」
「は、さようでございます。また、一部の魔石がガルシオ獣王国にもいきました。獣王から感謝の親書が届いております」
「ふむ、隣国との関係もよくしたのだな」
「そのとおりでございます」
「その話も聞いた上でもう一度確認する。よく考えて答えよ。先ほどのうわさは真か?」
「真実にてございます。このウガ」
「もうよい。話すな、うつけものが!そして下を見よ。顔も見たくないわ!このうつけものを連れて行け!!」
激怒し、立ち上がる国王である。
騎士達がウガル伯爵に駆け寄っていく。
ウガル伯爵は、全ての覚悟ができているのか、目をつぶり、何も抵抗はしないようだ。
「こ、国王陛下、どのようにされるのでございますか?」
「処刑に決まっておる。マデロス宰相も先ほどセリムの功績を述べたではないか。これは王国への反逆行為であるぞ!貴族でありながら、子や孫の力を見抜くことが出来ぬとは!このうつけをさっさと牢に入れぬか!!」
両手を2名の騎士に持たれ、立たされるウガル伯爵である。
「な!?ま、まってください!!」
セリムは、慌てて口にするのだ。
報酬の場と思っていた貴族達も多いのだ。
騒然とする謁見となったのだ。
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