第55話 結末
ダンジョンを進むこと10日が過ぎた。
現在86階である。
「む」
「ん、どうした?ロキ」
「いえ、これは?」
攻略中にダンジョンで出た、オリハルコン製の槍を握りしめるロキである。
オリハルコン製の槍はダンジョン攻略中に5本出たのだが、アリッサの体格や手には合わなかったため、ロキ、アヒム、イグニルの3人が装備しているのだ。
アリッサは店売り装備のアダマンタイト製の槍を装備していた。
「もしかして、ああ、槍のスキルレベルが4になってますね」
(まじか、90階層到達前にスキルレベル4になったぞ)
NAME:ロキ=グライゼル
Lv:37
AGE:30
HP:688/688
MP:0/0
STR:448
VIT:224
DEX:293
INT:0
LUC:224
アクティブ:剣術【2】、槍術【4】
パッシブ:礼儀【1】
EXP:569671947
アヒム、イグニル、アリッサのレベルも37であるが、台車運び担当が回ってこない分、戦闘回数が多くて早くスキルレベル4になったと考えるおっさんである。
なお10人全員レベル37である。
(いや、3人の槍のスキルレベルが3で、ロキが4になったのは、3人と違って検索神に選ばれているからな。才能も大きいかもしれん。それだと検索神に選ばれているイリーナとセリムも30台でスキルレベル4なるかな)
「そうですか。やはり」
おっさんによるスキルレベル分析である。
スキルレベル1:駆け出し
スキルレベル2:ベテラン
スキルレベル3:達人
スキルレベル4:英雄
スキルレベル5:神域
槍術が英雄の域に達したロキである。
「なんか違いますか?3のころと」
「はい。できれば、次のモンスター1対1で戦わせていただけませんか?」
力を、技を確認したいロキである。
50階層から出てきたAランクモンスターをおっさん以外は1人で戦わせていないのである。
2人以上で戦わせてきたのだ。
仲間支援魔法で全ステータスが3倍になっているが、それでも無理をさせてこなかったのである。
(そうだな。最高装備のオリハルコンとスキルレベル4の力を確認しておく必要はあるな)
「では、1体をロキに任せます。どの1体になるかは状況で判断しますね」
そして3時間が経過する。
目の前には体長15mのオオカミがロキの前に横たわっていた。
ロキを食らおうと顎を大きく開け、襲ったが、一瞬にして顔面に無数の槍を討ちはなったロキである。
顔面を貫き、脳にまで達したロキの槍であった。
たった1人でAランクモンスターを倒したのだ。
「す、すげえ」
セリムが驚愕している。
おっさんは別格としても、それ以外のクランメンバーがAランクモンスターを1人で倒せる力に達したことに驚いているようだ。
「1人で倒せましたね」
「はい」
ロキは自信をもって答えるようだ。
「みなさんもオリハルコン製の武器を持つこと。スキルレベルが4に達することを基準に1人でAランクモンスターを戦っていただきます」
「「「はい」」」
「それから、アリッサ」
「はい!」
「どうも体格的にアリッサにあう槍が今後もないかもしれません」
「はい…」
しょぼくれるアリッサである
「そこで、残っている2本のうち1本を武器屋にいって加工してもらおうと思います。大は小を兼ねると言いますからね。細く短くするなら大丈夫でしょう。戻ったら武器屋に行きましょう!もしくは鍛冶屋です」
どこに行けば加工してくれるかは分からないおっさんである。
「はい!」
満面の笑みで返事するアリッサであった。
(まあいくらかかるか知らんが、白金貨の100枚や200枚出しますよっと)
コルネがうらやましそうに会話を聞いている。
81階層に入って、あまり元気がないコルネである。
吹雪で索敵も難しく、ダンジョンの出口を発見するのも難しいのだ。
店売りの弓より良い弓が宝箱から出ているのだ。
コルネは2度ほど弓矢を新しい物に変えたのである。
しかし、アダマンタイトからオリハルコンに代わるロキ達の槍と違い、どうも劇的な攻撃力のアップは見込めないようである。
しならないためかオリハルコンの弓はでていない。
71階層以降新しい弓矢は見つかっていないのだ。
コルネの様子に気付いてフォローをするおっさんである。
「コルネ。ダンジョンは適材適所があります。今回はセリムやロキが活躍する場所だったのです。今までもあったようにコルネが活躍する場所はきっとあります」
(たぶん見つかった弓も70階層以下のもので、そこまで武器による攻撃力の上昇が見込めないんだろうな)
「うん。分かりました魔導士様」
コルネも納得したようだ。
そして、吹雪のダンジョンを土魔法で作った土壁の道を進んでいくおっさんら一行である。
ダンジョンコアが見つからないまま、90階層に到達したのだ。
「とうとう90階層まで来てしまったな」
イリーナがボスの間の扉を見るのであった。
「はい。まずは中に入ってみましょう」
扉を開けるとそこはとても広い部屋であった。
「ずいぶん広い部屋であるな。奥の方にいるのがボスであるか」
何もない広い部屋の先に何十体ものボスが動かないでいる。
「おそらくそうです。きっと何体いるか分かりませんが32体いるのでしょう」
「やはりそうであるか。かなり多いであるな」
「そうですね。ロキも成長したことですし、私も魔法の限界に1つ挑戦したいと思います」
ロキに対抗意識を燃やして1つ攻撃魔法をレベル5にしようと思ったおっさんである。
英雄の域から神域に挑戦するおっさんである。
おっさんもロキと同じで魔法Lv4ではAランク1体しか倒せないのだ。
攻撃魔法Lv5はASポイントを10000Pも使うため無駄にはできないが、今後Aランクモンスターも増えていくため、取っておいた方がいいと思っていたのだ。
「「「え?」」」
皆がおっさんを見て固まるのだ。
「今まで以上の魔法があるということか?何を言ってるんだ?」
パメラが代表して聞くようだ。
何を冗談をという顔をしている。
「はい。風魔法を今回は使います。全部倒せない可能性もありますので、魔法を放ったら一度壁を作りたいと思いますので陣を組んでください」
「「「はい」」」
魔石の回収も考えて、風魔法を選んだおっさんである。
「ではいきます、テンペスト!」
魔法陣がおっさんの周りに無数に展開されるようだ。
(え?結構発動まで時間がかかるのか。ん?敵は動き出さないな)
魔法陣が発生しただけでは、敵は動き出さないようだ。
狼、熊、雪男など、81階層からでてきたAランクモンスター達が密集している。
十数秒後、無数の竜巻が敵陣を襲うのだ。
遠くで竜巻に呑み込まれる敵を見ながら、おっさんの力に驚愕する一行である。
「これほどの力がこの世にあるのか…」
自分の仕える主の力は、人の域にいないことを目の前の無数の竜巻に飲まれていく、Aランクモンスター達を見て思うのだ。
「これは、ダンジョンコアの番人に何がいようと問題ないのではないのか?」
パメラも感想を述べる。
魔法の発動が止むと切り刻まれたモンスターの肉片が、広範囲に散っている。
「魔石の回収をしましょう」
「「「はい」」」
(魔力消費120か。今魔力消費低減使ってるからな。実際は魔力消費200か。この辺は魔力抵抗解除レベル5と同じだな。攻撃範囲は、半径50mかな。なんだろうこの半径50mルールは。10体以上いたら魔力消費的にはレベル5の魔法の方がいいのか)
自分の使った魔法の検証を進めるおっさんである。
どうやら魔石は無事のようだ。
「では、91階層を見てから拠点に戻りましょう」
「「「はい」」」
(石壁、土壁、森林、砂漠、宮殿、海、空、吹雪の次は何かな?暑かったりして。マグマとかは嫌だぞ。いや広間は暑くないし、それはなさそうだな)
「む、これは、なんだ?」
おっさんら一行が91階層を見ると、そこは古代遺跡であった。
何かが壁でゴトゴト動く音がする。
「遺跡か何かのようですね」
「は、はい」
91階層を見たので、ワープゲートに入り、街に戻るおっさんら一行である。
「い、いらっしゃったぞ」
「今回は何階層まで行かれたのか」
「おい、聞いたか今度は、Aランククラン深闇の騎士団が51階層に活動階層を移動したらしいぞ」
「まじか、上の階層がどんどん空いていくな。ダンジョンが空いて助かるぜ」
「ああ、下の階層で活動する冒険者が増えていくな」
人口密度の高い2km四方のダンジョン広場に道ができていく。
おっさんら一行の歩みを邪魔しないためだ。
おっさんがした講習会のおかげで上の階層の人が減ったと口にする冒険者達である。
おっさんの行う講習会を始めて数か月が経過する。
とうとういくつかのAランククランが50階層までの攻略に成功し、活動場所を51階層以降に変更したのだ。
また、倒し方、攻略方法、道順を知ったBランククランもそれに習って30階層から40階層を活動拠点を変え始めているのである。
拠点に近づくと、見慣れない馬車が停まっているようだ。
ウガル家の紋章が見える。
夕暮れが始まっているのか、夕日に馬車の紋章が当たって光っている。
馬車の前に2人の騎士が立っている。
御者であろうか、おっさんらを見ると90度に頭を下げ、礼をする。
(ん?ウガル家の人が来ているのか)
セリムを見るおっさん。
セリムが顔をしかめていくのが分かる。
拠点に入るおっさんら一行である。
来客室には2人の客人がいるようだ。
セリム母が接客中である。
「これはお待ちしておりました、セリム様」
(お、おれもいるよ。よく分かったな、今日戻ってくるの)
おっさんは目に入らない客人である。
ウガル伯爵代官リトメルと家宰ギルベルドがセリムを見て立ち上がる。
「な、何しに来たんだよ!」
どちらからともなく土下座を始めるリトメルとギルベルドである。
「本日はお迎えに上がりました。ウガル家にお戻りください。セリム様」
「な!?」
「お気持ちは分かります。しかし、セリム様に大変な非礼を働いたのは、ウガルダンジョン都市を預かるこのリトメルに全ての責任がございます。お戻りいただいた後に、全ての責任はとらせていただきます」
リトメルの発言に絶句するセリムである。
時間は止まったようだ。
誰も言葉を発しないので、止まった時間を動かすおっさんである。
「もう時間も時間ですし、リトメルさんもギルベルドさんも食事をして帰りませんか?何か話があるなら、その時お聞きしますよ。ウガル家の家庭料理になりますけど」
「な、こんな奴らに飯食わすのか!」
「もちろんです。私もウガル家には食事をごちそうになってますので」
「そんな?!」
「セリム!」
「う」
セリム母に怒られるセリムである。
「そして、リトメル」
「はい」
セリム母がリトメルに話しかけるのだ。
土下座したまま返事をするリトメルである。
「この件は、ウガル伯爵は知っているのですか?」
ウガル伯爵の意思でここに来たのかと聞くセリム母だ。
言葉使いには、当主の娘らしい力強さを感じるおっさんである。
「い、いえ、私の一存です。全責任は私にあるのです。ウガル伯爵にセリム様についての話を幼少のころからしてきたのも私です」
ウガル伯爵が代官を置いて20年が経つのだ。
その間で代官は一度代わったが、セリムの才能についてウガル伯爵に報告してきたのはリトメルなのである。
今回セリムが家を出ていってしまった件のすべての責任を取るというリトメルである。
「分かりました。では、私もセリムも戻れませんね」
「まあ、場所を変えましょう」
込み入ってきたので、おっさんは2人を打ち合わせ場所兼食事場所に案内する。
いつもの14人とリトメルとギルベルドで食事をする。
リトメルとギルベルドが従者や侍女も一緒に食事をすることに動揺をしているようだ。
「すいませんね。何分貴族の食事に疎いもので」
おっさんが、動揺する2人に言葉をかける。
「い、いえ、とんでもありません」
「お、おれはウガル家に戻るつもりはないぞ!」
話もそこそこに、家に帰らない宣言をするセリムである。
どうやら、2人も直ぐにウガル家に戻ってきてくれると思ってはいなかったようだ。
また来ますと言って馬車に乗って帰るようだ。
「帰ってしまいましたね」
おっさんがいう。
「戻らないって言ったのに。また来ますって。お、俺どうしたらいいんだろう」
セリムに答えを求められるおっさんである。
「こればかりは他の誰かが決めることではありません。セリム自身で決めてください」
「やっぱりそうだよな」
「しかし、物語には結末をしっかり載せてほしいです」
「え?結末」
思いがけない単語に反応を示すセリムである。
「はい、貴族の家を追い出された召喚士が、その後素晴らしい活躍をして、貴族の家をどうするかです」
「そっか」
それだけを言うと、セリムは走って出ていた馬車の向かう方向を見つめ続けているのであった。
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