第20話 ダンジョン手当

クランを結成し、資料室で調査をしたあと借りた自宅に戻りみんなで夕食を食べているときである。

従者3人と侍女2人も合わせた9人全員で1階の広い打ち合わせ室で夕飯を囲むのである。

実は独身で1人暮らしが長かったおっさんにとって楽しみな時間であったりするのだ。

仕えの従者も侍女も最初は道中でも遠慮していたが、今ではそういうものかと考えるようになっているのだ。


「結局仲間はいなかったですね」


おっさんは今日あったことを口にする。

飲食店の中、戻ってきてからと帰り際の冒険者ギルドでも調査をしたのだが、どうしても仲間がいないのである。


「そうですね、あまりいないようですね」


「ふむ、まあいないのであれば当面の間は私達4人でダンジョンを攻略するしかないな」


ロキとイリーナが反応する。


「そうですね、資料室で調べたら罠が20階以降出てくるみたいなので、それまでには私達だけでの攻略も可能のようですね。できれば仲間の1人はこの街やダンジョンに詳しい方が良かったのですがね。こまめに探していたら、そのうち見つかるでしょう」


「そうだな、それで明日はもうダンジョンに潜るのか?」


「いえ明日は武器を揃えようと思います。あとどうも灯りを照らすものなどいくつか必需品の買い物をしたいと思います。魔道具屋に行って揃えましょう。それと、これは早めに言っておきたいことがあります」


「ん?何かあるのか?」


「えっと、アヒム、ツェプト、イグニル」


3人の従者の名前を呼ぶおっさんである。


「「「はい」」」


「今回のダンジョン攻略に際してどうも一度潜ると少なくとも1週間前後ダンジョン生活になりそうです。また荷物持ちなる職業があって荷物を持ってもらうことが一般的なようです。そこで、荷物持ちやモンスターの素材の回収、夜番でアヒム、ツェプト、イグニルの3人が手伝っていただけるなら手当を発給します」


資料室で確認したことと、元々荷物持ちの可能性があったので検討していたことを口にするのだ。


「手当?」


「そうです。ダンジョンは危険を伴うものです。ダンジョン手当です。今から説明はしますが、あとで紙にもまとめるので読んでおいてください。今回は私達4人でダンジョンに入るので、戻ってくるまでにどうするのか考えておいてください」


タブレットのメモ帳を出して読み上げるおっさんである。


ダンジョン手当

・ダンジョン手当は一度ダンジョンに入って出た場合に発生する

・諸事情があり、速やかにダンジョンから出た場合は発生しない

・階層1~19階は金貨1枚

・階層20階は2枚、それ以降は10階ごとに1枚ずつ増えていく

・最も深い階層の階が手当の枚数とする 

例:28階から31階まで活動した場合は30階の手当の金貨3枚

・仕事は荷物運び、素材回収、夜番

・戦闘への参加はリーダーが許可したときのみ


「これは少し高いのではないでしょうか」


ロキが手当について意見をする。

今回おっさんは、手当についてだれにも相談していないのだ。

初めて話を聞く面々である。

月に2度手当を貰えば、月給を超えるかもしれないので、驚きの顔で聞く従者達3人である。


「そうです、高めに設定をしています。たぶん余所でお願いするとこの半分以下で荷物運びを探すことができるでしょう」


「お考えをお聞きしても?」


おっさんは冒険者ギルドで調べた内容を基に話し出すのだ。

30階以降Bランクのモンスターが出てくるようになる。

50階以降Aランクのモンスターが出てくるようになる。

Bランクのオーガからおっさんは白金貨100枚手に入れた。

Aランクの飛竜からおっさんは白金貨200枚手に入れた。

今後、それ以上の稼ぎを私たちはする予定である。

50階はある程度皆のレベルが上がってから降りる予定であるが、30階には早々に行こうと思っているという話である。

であるなら、他のクランなどの冒険者グループと同程度ではなく、私たちの今後の稼ぎに見合った手当にしたいという話である。


ロキはまだダンジョンに行っていないので、稼げるようになってからでもと思った。

しかし、未来の主は、家臣思いであるのは旅をしていて十分分かっているつもりであるのだ。

自身の給金もおっさんに仕えることによって、今までの倍になったのである。

行き過ぎたときだけ、苦言しようと思うのであった。


「それと、あなた方に夢はありますか?」


3人の従者に問いかけるおっさんである。


「え?」


一番年上のアヒムが返事するようだ。


「私は私の係わった人にはなるべく幸せになってほしいと願っています」


「はい」


「従者にとって幸せとは何なのか、若いあなた方が帯同することが決まって考えていました。私自身まだその答えがありません。もし他に何かやりたいことがあれば私に相談してください。私の私室に来て相談してもかまいません。もちろんダンジョンの件も断っていただいて構いません」


「もちろんアリッサ、メイも同じです。せっかくの1年間です。何かやりたいことがあったら言ってください。できる限り協力をします」


「「はい」」


2人の侍女のアリッサとメイも返事をする。

この日は明日の買い物の予定を話し合ってお開きになった。


そして、次の日の朝である。

食事も終わり、ロキがいつものように一日の予定を従者と侍女達に指示をして家を出る。

今日は行く場所も多いので、馬車ではなく、小回りの利く徒歩で行く5人であるのだ。

今日は荷物が多そうなので、アヒムに荷物持ちを手伝ってもらう予定だ。

ウガルダンジョン都市はダンジョンに支えられた人口20万人の大都市である。

朝9時過ぎだと人通りも多く、歩く冒険者も多いのだ。

おっさんは人混みの中、定期的にタブレットで仲間を探すのである。


(全然見つからないな。おそらくこの仲間機能も半径50mくらいを対象に探していると思うんだが、数千人探した中で0人か)


統計学や分布図を頭で考えながら、目的地に向かうおっさんである。

なお、雑学の範囲なので専門的な知識があるわけではないのだ。


「お、あそこが武器屋だな」


イリーナが武器屋のマークのお店に気付くのである。


(さすがにもう武器屋ネタは通用しないな。2度も記事上げたしな)


中に入る5人である。


「おう、いらっしゃい」


武器屋っぽい店主がカウンター越しに声をかける。

おっさんは軽く会釈して中に入るのだ。

使う武器は剣槍弓と違うので皆バラバラと武器を見るのである。

なお、アヒムも含めて皆自前の武器は持っている。

相変わらず武器の良し悪しが分からないおっさんである。


「すいません、店主」


「おう、なんだ?」


「弓と矢と槍を探しています。槍はこの人で弓はこの人が使う予定です」


「予算はどんくれいだ?」


「上限はありませんので一番いいものでお願いします」


「ほう、言ったな、ちょっと待ってろ」


ガニ股で歩きながらカウンターの奥に消えていく店主である。


「「え?」」


ロキとコルネがおっさんと店主の会話に反応をする。

イリーナはどこかで見た光景だなと王都を思い出すのだ。

アヒムは何が起きたのだと現状をまだ理解できていないようだ。


「おう待たせたな。当然買ってくれるんだろうな。あんちゃんよ。こっちはアダマンタイトの槍だ。刀身はもちろん握りも含めた全体にも使った業物よ。こっちは飛竜の腱を弦にした古代樹の弓だ」


1本の槍と、1つの弓をに握りしめてカウンターから出てくる店主である。


「もちろんいいものだったら買いますよ。ロキとコルネ使ってみてください」


「は、はい」

「分かりました…」


ロキとコルネは恐る恐る受け取るのだ。

店主から受け取り、使いごたえを確認する2人である。


「いかがでしょう?」


使っている様を見てもどうなのかわからないおっさんである。

構えや軽い素振りで持った感触を確認するロキ。

弓を引いて、引いた感じを確認するコルネである。


「す、すごくいいかと…、こんないいもの騎士団長でも一生無理ですよ…」

「はい、すごく良いです…」


(お、いい感じなのか。じゃあこれにするか)


「いい感じみたいですね。店主おいくらですか?」


「おう、槍は白金貨12枚で弓は白金貨8枚だな。もちろん買ってくれるんだろうな?冷やかしだと分かってんだろうな?あ?」


「白金貨20枚ですね」


小袋からお金を出して払おうとするおっさんである。


「ちょ、ちょっと待ってください、ケイタ様」


たまらず全力で待ったをかけるロキである。


「え?なんでしょう」


「私はこんないい武器買えません」


「え、もちろん私が買いますよ?」


「こんないい武器いただけません!」


「なぜですか?」


「そんな働きをケイタ様にしていないからです。いい働きをして始めていただけるものかと」

「わ、私もです」


ロキの意見に乗っかるコルネである。


「どうしてもですか?」


「どうしてもです!」


(む、これは折れそうにない感があるな)


「では貸します」


「貸す?」


「そうです、期限はこれより良い槍や弓がダンジョンででた時まででいかがでしょう?」


「はぁ」


「店主、これよりいいものがダンジョンで手に入ることはありますか?」


「そうだな、あんまり聞かないが、50階以降だとあるかもしれねえな」


ダンジョンでは、まれに宝箱を発見することがある。

宝箱の中には武器防具宝石等が入っている。

たまに罠だったりもするのだ。

かなりレアであるが、魔法書と呼ばれるアイテムも入っているのだ。

下層のほうが、宝箱の中身は良くなっていく傾向にあるというのが資料室での情報である。


「聞きましたか?ロキ、コルネ、これよりいいものが50階以降にでてくるかもしれないらしいですよ。もし出てこなかった場合は、ダンジョンコアが手に入ったら、この武器はあなた方ものです。前人未踏の働きをしていただきました、私からの報酬です。もちろんそれだけが働きに見合う報酬とは考えていませんが」


そこまで話したところで武器を見つめるロキである。

これをいただけるだけの働きができるのか自分に問いかけているのか。

何かを納得させようとしているようだ。


「分かりました。大変貴重な槍をお借りします」

「私もお借りします」


「ありがとうございます、店主お待たせしました。白金貨20枚です」


小袋から白金貨20枚を出し店主に渡すおっさんである。


「お、おう、あんちゃんお金持ちだな」


「1つ聞いていいですか?」


「おうなんだ?」


「この武器屋はダンジョンで手に入った武器の買取はしていますか?」


「おうしているぞ?」


「武器の数や買取価格に上限はありますか?上限などないとは思いますが念のためです」


「もちろんねえよ、当然だろ」


不敵に笑い合うおっさんと武器屋の店主だった。

そこまでのそのやり取りを黙ってみていたアヒムである。

自分が今後仕える主がとても大物に見えたのであった。

帰ったら、皆に伝えねばと思うのである。


武器屋では補充用の矢を大量購入し、一部は家に届けさせるのであった。

異世界にも住所ってあるんだなって、ロキと店主の話を聞きながら思うのである。


その後、防具屋にいこうとしたところ、防具は今のままで十分であるという話なので、防具については30階のBランクモンスターが出るようになったとき、そして50階のAランクモンスターが出るようになった時に更新するという話で落ち着いたのであった。

武器は一番いいもの、防具は階層ルールが設けられた瞬間である。

その後、日持ちのする食料品や魔道具屋でダンジョンに必要な魔道具や魔石を買う5人である。

魔道具屋の出来事もブログに書こうと思ったおっさんであった。

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