第15話 コルネ
ガリヒルの街を抜けてから数日が経つ。
今日にもフェステルの街に戻れるようだ。
街からやってきたであろう馬車とすれ違う数も増えてきた。
「また、銀の板を見ているのか」
「そうですね、分析と検証がとても大事ですから」
何度となく出た会話である。
あれから、何度か同じ部屋になったが、色々な意味で死線を乗り越えたおっさんであった。
(我慢の限界は近いかもしれぬ、なぜか毎度抱き枕状態だしな。しかも背を見せるなって早々に言われたし。我の墓場に墓標はいらぬ…)
正面から抱き枕状態のおっさんであった。
タブレット見ながら、そんなことを考えるのである。
(道中の成果もあったしな。魔力回復加速は検証できたぞ)
宿屋はともかく、野宿では外套を羽織って眠った際、MPを消費してねることによって効果を検証したのだ。
【ブログネタメモ帳】
・魔力回復加速効果検証
効果検証結果
・1時間に10%のMPを回復する
・睡眠中、行動中は問わない
(これはかなり効果いいな。さすが白金貨20枚の外套といったところか。20億円だしな。10時間で完全回復か、睡眠時間の6時間の全回復と併用することがダンジョン攻略のコツだな。あとはスキルとの併用具合か)
おっさんは、魔力回復加速Lv1のスキルを取っていない。
なぜなら、スキルポイントが足りないからだ。
(いやまじで、ブログネタっていえば、ドラゴンステーキと今回の魔力回復の検証の2つのみだしな。王都までブログネタが多かったのに一気に枯渇したわ。イリーナとのベッドの話をブログに載せようものなら、禁則事項に触れて、検索神様の怒りに触れそうだわ。性描写と違法行為の掲載は厳禁だな)
ブログネタの枯渇が著しいおっさんであった。
そしてブログネタを欲する理由はほかにもあるのだ。
(仲間専用スキルまじで使えるな。中にはネタかよっていうのもあるが、貪欲にブログネタを集めよという神の強い意志を感じざるを得ないわ。つうか全体的にASポイント高くね。封印魔法とか取れる気がしないんだが)
通常スキルと同じく無限に近い数がある仲間専用スキルの探索を進めたおっさんであった。
仲間専用スキル
・封印魔法(仲間)Lv1 100000ポイント
・収束魔法(仲間)Lv1 10000ポイント
・物理攻撃無効(仲間)Lv1 10000ポイント
・魔法攻撃無効(仲間)Lv1 10000ポイント
・取得経験値上昇(仲間)Lv1 1000ポイント
・体力支援魔法(仲間)Lv1 100ポイント
・力支援魔法(仲間)Lv1 100ポイント
(○○支援魔法っていうのは、ステータス分の全種類あるな。必要なASポイントは100で統一か。取得経験値上昇は早めにとっておきたいな。俺の経験値にも反映してくれるかもだしな。あと通常スキルでとっておきたいのもあったな)
おっさんは飛竜と戦い、王都にある外套を見てあるスキルの可能性に気付いたのであった。
通常スキル
・物理抵抗解除Lv1 1ポイント
・魔力抵抗解除Lv1 1ポイント
(ふむ、飛竜のように魔力抵抗の高すぎるモンスターもダンジョン下層にいると想定するとこの辺も必須だな。仲間専用スキルに比べてポイントは良心的か。いやAランク以上のモンスターが飛竜のように抵抗力が半端なさそうだな。スキルレベル4や5にしないといけなくなって、結局大量のASポイントが必要で一緒か)
「ロキはダンジョンに一緒に入ることを快諾してくれたしな」
「え?ありがとうございます」
「何を言っているんですか。もっと早く話してくださいよ。あの銀の板なんですかって何日も、もやもやしていましたよ!」
今は3人で馬車に乗っているのだ。
今後ダンジョンを攻略する上での話や、フェステルの街での日程などを調整している。
ロキもタブレットの『仲間』機能で仲間にしたので、イリーナと話し合って、ロキもダンジョンに入ることにしたのだ。
タブレットの話もイリーナと同程度にしてあるのだ。
「ロキさんたしか槍使いでしたよね」
「うむ、そうだな。なかなかの腕だぞ」
「そんなにではありませんが、槍は長槍でも短槍でも大丈夫ですよ」
「それはすごいですね!ダンジョンなので短槍でしょうかね。広さにもよるでしょうけど」
「あと8人だな。どういうものを仲間にするんだ」
「え?10人必ず仲間を集めるわけではないですよ」
「ん?どういうことだ?」
「前も話しましたが、手に入った経験値は人数割りです。仲間は少ない方がいいのです」
「では3人でダンジョンにいくのか」
「ダンジョンの難易度にもよりますね。350年踏破不能のダンジョンをさすがに3人ということはないと考えてます。今魔1人、剣1人、槍1人なのであと、斥候罠解除1人、弓1人、回復1人かな。あとはタンク系ほしいかな」
「タンク系ってなんだ?それにケイタは回復魔法使えるだろ?」
「タンク系とは、守備力が高く、後方職を守り、敵との前線を押し上げる役割ですね。重戦士や盾使いでしょうか。それと回復魔法ですが、今私は、攻撃魔法、回復魔法、敵弱体(デバフ)魔法、味方支援(バフ)魔法を一手に引き受けていて正直手が足りません。特に生命線になる回復魔法は私の補助でもいいので複数いたほうがいいのです」
実はゲームではタンク系が好きだったおっさんである。
ゲーム脳をフル稼働している。
「では、その辺りの仲間が冒険者ギルドにいれば、仲間に誘うってことですね!」
ロキがぐいぐい話に参加する。
実はこの3人の中で一番ダンジョンの攻略を目指しているのはロキである。
ブログのネタにしたいおっさん。
おっさんについていくイリーナとはやる気が圧倒的に違うのだ。
飛竜の監視や競りの関係で、国王とおっさんの話を遅れて聞いたロキは思うのである。
このまま1年以内に前人未踏のダンジョンの踏破を行えば、未来の主であるおっさんは子爵になる。
もしかしたら、封土も与えられ、封土を守る騎士団を持つことになるかもしれない。
そうすれば栄えある騎士団長はこの俺であると。
もしかしてロキ自身も爵位も今後の活躍で与えられるかもしれないのだ。
「そうですね。ですので、フェステルの街で私とロキは冒険者ギルドに向かいます」
「そうか、いいのか?館にいかなくでも」
「はい、城壁の完成に2日かかるので、銀皿亭に泊まった方が動きやすいです。イリーナは館で副騎士団長の引継ぎがありますよね?」
おっさんとロキはダンジョンに行くための準備がある。
おっさんはその上、城壁の作成にあたる。
館に向かうフェステル子爵とイリーナとは南門で解散である。
1月近くぶりにおっさんが作った8kmに及ぶ城壁が見えてくる。
さらに進んでいく一行である。
おっさんの城壁も抜け、南門に近づいていく。
「なんか、すごい行列ですね」
というおっさんである。
「うむ、出ていく馬車も多いしな。ずいぶん賑わっているみたいだな」
時間は15時過ぎである。
行列ができる時間はもう少し先である。
南門からフェステルの街に入ろうとする馬車で長い行列ができている。
街からでる馬車も以前より多く感じる。
馬車に刻まれた子爵の紋章に頭を下げる行列の人々達。
門を抜けたところで、おっさんとロキは数名の騎士ともに荷馬車に乗り換える。
「では3日後だな」
イリーナは言う。
「そうですね。3日後に館に向かいますね」
というおっさんである。
ロキとともにおっさんは冒険者ギルドに向かう。
「いますかね、仲間」
「どうでしょう。途中何度か街に寄ったりしたときに『近くから探す』で探したのですが、近くにはいませんとしか出ませんでした。もしかすると、仲間にする条件は厳しいかもしれませんね」
(仲間にする条件って何だろうな?俺の親しい人だと、一緒に王都に向かった騎士だと反応してもよさそうなんだけどな。検索神が決めているのかな。例えばレベル上がって成長が見込めるとか、そういうところで)
冒険者ギルドの中に入るおっさんとロキである。
建物内はおっさんによって静まり返るのだ。
冒険者達は街を救った英雄を凝視する。
「結構な人がいますね。さて、では探してみます」
「はい」
タブレットの『仲間』機能を起動させる。
仲間を探すを選択し、『近くにいる人を仲間にする』をタップする。
『近くに仲間にできる人がいます。誰を仲間にしますか?』
『コルネ』
「え、います、ってどこかで見たような」
「え、本当ですね、コルネって出ていますね」
(なんか、横からタブレット覗かれると抵抗あるな。現代人的に)
横からおっさんのタブレットを覗き込む、現実世界のマナーの概念のないロキである。
「ま、魔導士様」
「あ、コルネさん」
「はい…」
そこには、2カ月ほど前、ルルネ村で別れた少女が弓をもっておっさんの前に立っていた。
「へ?ケイタ様のお知り合いですか?」
「そうです。ルルネ村でお世話になったのです」
「ああ、あのゴブリンの件ですね。でもケイタ様とお知り合いでしたらちょうどいいのではないのですか?武器も弓みたいですよ」
「………」
「………」
無言のおっさんとコルネ。
「込み入った話もしますし、あちらの酒場で話をしましょうか」
気が利くロキは、話をする場所を移動させるのである。
「それでコルネさんというんですね」
「はい」
酒場の一角で果物ジュースを飲みながら話をする3人である。
おっさんはあまりお酒を飲まないからである。
ロキもおっさんに合わせて果物ジュースである。
ロキがコルネに話しかける。
「実は私とこちらの方はこれからウガルダンジョンっていうダンジョンにいくところなんですよ。ちょうど弓使いを1人探してお」
「参加します!」
食い込むようにコルネが答える。
「おお、参加していただけますか!」
「ちょ!?ちょっと待ってください!!」
参加を喜ぶロキと止めるおっさんである。
「え、どうしたんですか?」
ロキが首をかしげる。
「実はコルネさんには一度ルルネ村で仲間にするのをお断りしているのです。まだ若くて危ないと思って」
「あ、危ないのは承知の上です!それに、こ、これを先日ギルドからいただきました。い、一人前の証です!」
慌てるように肩から掛けている荷物袋から冒険者証を取り出す。
銀色の冒険者証に緑色で『C』の表示がある。
コルネは1カ月弱の間にランクをDからCへ上げていたのである。
「Cランクの冒険者ですか。一人前ですね…」
ロキは改めて仲間にした方がという目でおっさんを見る。
「ですが、こんなに若いのに…」
「ふむ、ではこうしましょう。コルネさんはおいくつですか」
「16歳です」
「立派な大人ですね。ケイタ様よろしいでしょうか?」
「え?はい」
「冒険者は自己責任です。そして16歳は大人です。私達は弓使いを1人探しています。そして、ここに若くしてCランクをとる才能のある弓使いがいます。また、ダンジョンへの参加も希望しています。何か問題でしょうか?」
「そうですね。今のところないですね…」
「それでもお断りしますか?」
(むむ、ロキさんが正論で固めてきたな。これは断る理由はないか。さてと、ここにいる3人で覚悟が足りないのも俺だけか)
おっさんは覚悟を決めコルネに話し出す。
「コルネさん、私達は3日後にウガルダンジョン都市に向かいます。もし、それまでに参加の希望が変わらなければ、3日後の2の鐘のときに南門に来ておいてください。ちなみにウガルダンジョンの踏破を目指す仲間を探していることもご承知おきください。また、1年近く活動することを想定しています。食料等はこちらで用意します。弓代が必要でしょうからそれは、ウガルダンジョン都市で皆のお金で買いましょう」
「分かりました!」
コルネはその時一番の笑顔を見せたのである。
おっさんは3日後に南門にいるなら、その時はコルネを仲間にしようと思ったのであった。
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