十三冊目
「ある程度使えるまで上に帰れると思わないでね」
言うと九尾苑さんは、未だ羽団扇を抜いていない僕に向かい蹴りを繰り出す。
一言言ってからにして欲しい。
急すぎる。
即座に羽団扇を抜き、気絶前の様に下段で構える。
風は吹き荒れてこそいないが、僅かに羽団扇の刃の周りに存在した。
羽団扇で蹴りを防ぎ、その勢いで九尾苑さんに斬りつける。
しかし勢いそのまま空振る。
斬りつけた筈の九尾苑さんの体が煙となり、消えてゆくのだ。
「残念、ダミーだよ。
「本物と偽物の見分け、出来る様になってね」
声のする方に振り向くと、僕は背中を思い切り蹴られる。
「ダメだよ、戦ってる敵の発信した情報を素直に信じ過ぎちゃあ」
僕の背中を蹴った九尾苑さんは、服のポケットに両手を突っ込むなどと言う余裕ぶりだ。
少々腹が立つ。
しかしそんな事も考えてられない、今僕は囲まれてしまったのだ。
九尾苑さんの大量のダミーに、五十体ほどだろうか。
ダミーの蹴りは僕に絶え間なく襲いかかる。
縦横後前、全方位からだ。
イメージだ、イメージしろ。
このダミーを全て吹き飛ばす様な風をイメージするんだ。
僕は羽団扇を床に突き刺す。
あの風の感覚を思い出せ、その感覚を全身に巡らせろ。
その瞬間だった。
羽団扇と僕を中心として、風が吹いた。
煙のダミーは消え、本物の九尾苑さんだけが残る。
「ちとコツを掴むのが早すぎる。
「もしかして天才かい」
そんな適当な言葉を並べた後、九尾苑さんは拍手をしながら言う。
「おめでとう、第一段階、自分の意思で風を出せ、クリアだよ」
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