第3話 「雑魚過ぎるでしょアンタ」
俺とウサスケは重装甲改め「PK」から見て左右へ別れて
だが、PKはそのうち片方だけ追う、という事は無く両袖のガトリングがそれぞれに対して使用される結果になる。
流石と言うべきか、先ほど半壊状態だったトルーパーであれだけの動きをやって見せたウサスケはアバターでも軽い身のこなしで、PKの射撃を完璧に見切っていた。
他人の動きを偉そうに評価している場合ではないが。
俺はというと、重い両腕に体を左右に揺らされながら、何とかギリギリで被弾を避ける程度だ。
『おニーサン、プロゲーマーが行きがかりのプレイヤーより動き悪いとか、情けないっスよ』
「煩いわっ。 あっちが上手すぎるんだよ」
自分で言うのもなんだが、俺だってこんな両腕の
単純比較できるものではない、と言ってやりたい。
が、何よりも先ず、巻き込まれてしまったからには、ここに至る経緯をウサスケから聞き出すべきだろう。
ひと所に留まらないように移動を維持しながら、俺は彼に言葉を投げた。
「一体どういう訳なんだ? ここがPK禁止エリアなのは君も知ってるだろ」
「知らないわよ! こっちは始めたばっかなんだから! 気分良くロボットで飛びながら景色を見てたのに、急に後ろから撃たれたのよ。 勘違いしないで欲しいけど、不意打ちで翼をやられなかったら楽勝で返り討ちにしてたんだからね?」
ウサスケも俺と同じ開始直後なのか。
ともすれば被弾で一撃死しかねない損耗状態で会敵して、今の今まで独力で凌いでいたことになる。
上手いとは思っていたが、これは想像以上なのかも知れないと、万全なら勝てていたという彼の言葉が単なるイキりではないことを認められた。
タイミングが前後すれば、先に襲われていたのは俺だったかもしれないが、果たして彼と同じように戦ってのけられたろうか?
自信がない。
『彼も何にも知らないんスか……アテが外れたっスね』
「みたいだな。 こうなれば、こっちも見逃してもくれなさそうなPK本人を、殴り倒して聞くしか無い訳だ。 ウサスケくん――!」
「ちょっと! 何をぶつぶつ言ってるワケ? まさか逃げるわけじゃないでしょうね? 一気に二人で仕掛けるわよ」
まさに俺が言おうとしていたところなのに。
応、と弾のカーテン越しに彼へ合図すると、ガトリングの追跡を回り込んで反転、PKへ向けてダッシュする。
だんだん身体を使うコツがつかめてきた。
今までこの腕を振って走っていたが、これがいけない。
ファイティングポーズで体を前倒しに、腕の重さをすべて体の前に持ってきて、それに身を預ければ自然に前へ移動できる。
腕の装甲が盾代わりにもなり、さながら突撃する鉄の弾丸、と自称できるのではないだろうか。
一方ウサスケの方を見ると、両手に短剣を構えて、ジグザグと進行方向を変えながら接近。
完全にPKを翻弄しており、俺の心配は必要無さそうだ。
むしろ、彼に対しての攻撃制御へ気を取られてか、PKの俺への注意が散漫になっているかもしれない。
明らかに操作に余裕がなくなっている。
――あんまり上手くないなこのPK。
あのウサスケを相手に比較してしまうのは可愛そうか。
しかしこのPKは動きが直線的過ぎるというか、攻撃対象の動きを予測立てているというよりは、見てから判断しているような隙があり、だから射線が俺たちを追うことしかしてこない。
だから、二体一の構図ではあるものの、俺たちは簡単に奴の懐まで潜り込めた。
ウサスケが初対面で実力も不透明な俺にいきなり「一気に二人で仕掛ける」などと言って来たのも、それで何とかなると読んだのかもしれない。
相手の視界の左右から、俺たちは同時に襲撃する。
お前たちの実力のお披露目といこうか。
俺は両腕に力を込めた。
「いくぞ! パイル――」
相手の横っ腹目掛け、両手で同時に
「――バンクアアアアァーーーーー!」
肘から飛び出る鉄の杭が回転し、俺の前腕の中で高速に滑る。
反動で腕が跳ね上がりそうになるのを両肩で、それを体の軸で受け止め、脚でそのバランスを維持。
両手からまるで炎を吐く様に火花が散って、その射出口から鉄杭が目で追えない加速を受けて打ち出される。
敵の装甲に先端が振れた。
酷い接触音が俺の身体を芯から襲って、震わせ、パイルの針は弾き飛ばす――俺を!
「グホッ……なんでぇ」
肩から持っていかれるように体をくの字に曲げ、気付けば俺は体を跳ね上げられてしまっている。
『普通に考えて、自分より質量の大きい相手にそんな攻撃したら、自分の方が押し負けるの、分かりそうなもんっスけどね。 戦闘開始から確かに、おニーサンのバイタルにはやや乱れはあるっスけど。 勝負弱いのは、そもそも作戦立てが甘いんじゃないっスか?』
「ダッサ……」
辛辣なコメントがお二人から寄せられる。
ウサスケお前だって、と言おうとしたのに、刃がレーザーのような光になっている彼の短剣はPKの肩口、関節の露出部に深々と刺さっていた。
「雑魚過ぎるでしょアンタ」
不敵にウサスケがそう投げかけた先はPKへなのか、俺へなのか。
そうですね、鎧には関節部を狙う。
基本ですよね。
だが、彼が蝶のように舞って蜂のように刺すプレイスタイルならば、俺のこのパイルバンカーにだって別の闘い方があるだろう。
空中で姿勢を整えて、着地だけはなんとか成功させた。
そこへ、PKのブレードによる追撃が振り下ろされるが、懐にさえ入ってしまえばこいつの大ぶりな攻撃は緩慢過ぎる。
俺は最低限の横移動で応じて、避けた。
そうして作られるのは、PKの胸部の傷と俺の近まった距離感。
奴の胸にまで繋がる腕が今、俺の横まで振り下ろされている。
咄嗟に飛びついて肩まで乗り上がると、俺は奴の首元へ。
首周り、少し胸側へ突き出すようにして水平になっている構造は俺にとって絶好の足場になる。
首が上がってカメラが俺を見上げるが、もう遅い!
俺はカメラへ尻を向けて、足を装甲の継ぎ目に引っかける。
尻を突き出すようにしてしゃがむと、両手をPKの胸部の傷、そこに遺されたブレードの切っ先の折れ目へ添えた。
「今度こそ頼むぞ。 パイル――」
ブレードの先端の届いている先はPKのコックピットのはず。
攻撃をハンマーに、釘打ちの要領でちょいと叩いて押し込んでやれば、内側をザックリと
「――バンクアァッ!」
再びの金属接触。
反動で身体が持ち上がりそうになるのを、引っかけた足で耐える。
脚へ痛みが走り、俺はダメージを自覚するが――。
俺の意図する通り、ブレードがズンとコックピット内部へ押し込まれていく。
「手応えありだ」
中身の柔らかい何かにブレードの切っ先が到達した感触がある。
『おー、お見事っス』
明らかに何かを刺したところで、内部から傷口を伝って外へ、ドロッとした液体が湧き上がり、俺の足元へ飛沫をかけた。
酷い匂いだ。
しかしこれは、明らかに人の血でも油でもない。
突然、俺の足場にしている装甲が膨れ上がった。
何かが内側から膨張している?
爆発を警戒して、俺は跳ねて地面まで降りたが、そこで想像とはかけ離れた現象を見ることになった。
「何よこれ。 プレイヤーってゴリラにもなれるワケ?」
嫌悪感たっぷりの悲鳴をウサスケが上げた。
コックピットがはじけ飛び、毛むくじゃらのものが内部から盛り上がる。
トルーパーの頭部がシャンパンのコルク栓のごとく飛んで、下から動物の頭がせり上がった。
トルーパーの装甲がバラバラ砕けて出現した中身は、肩から血を流した巨大な猿。
「ウギギリィィィ……」
猿が吼えると同時に奴の頭上、エネミーを表す橙のアイコンとネームが表示される。
その名も”百人斬りのエテベア Lv21”。
「こいつは……森に居た
「うっそぉ。 じゃあ普通に雑魚モンスターが操縦してたって言うの? そんなのにやられたなんて、なんか余計にくやしいんだけど!」
『はぁ、つまりは何かの拍子にプレイヤーの手を離れた機体にエネミーが入り込んで動かしてたって事っスか。 分かってみれば、つまらないトリックだったっスね』
エテベア。
俺が上空を飛行中に、何度か森の中で見かけた野生動物型のエネミーだ。
ちなみに一切戦闘行為は行わなかった。
何故かと言えば、俺が飛んで来るのに気付くや否や、ノロノロと逃げ去るという、初期モンスターに相応しい臆病なエネミーだったからである。
なんだか哀れに思えて、俺もあえてそれを追うことをしなかったのだ。
多分このゲームで最弱に設定されたエネミーなのではないだろうか。
しかし、目の前のそれは俺の知っているエテベアとは様子が明らかに違うし、何よりコックピットにこれがどう収まっていたのかと思うくらいデカい。
違うと言えば、
「なんなんだ、あの百人斬りって表記は」
『エネミーのレベルアップ称号っスね。 メタサイではエネミー側もプレイヤーから経験値を得てレベルアップしたり、学習を経てAIが賢くなった個体が誕生したりするっス』
つまりこいつはトルーパーに乗り込んで、それで初心者狩りを繰り返してレベルアップしてきた、強力なチキン野郎ってことか。
コックピットがはじけ飛んだのも、レベルアップに伴い身体が巨大化して、それでギチギチに高まった内圧に装甲のダメージが決め手となって崩壊したのだろうと、俺は予測立ててみる。
「ウサスケ君、気を付けろよ。 これは雑魚がPKでレベルアップしたユニーク個体だ」
「アンタこそ気を付けなさいよね。 ハラハラして見てらんないんだけど」
『アタシの提供した情報を、さも自分が知ってたみたいに拡散するのやめてもらえないっスかね……』
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