最終話 本当の“愛”を求めて、私たちはこれからも
「行ってきます」
私以外誰もいない家に自分の声が響き渡る。
結局、“先生”は書き置きを残して自分の家へと帰ってしまっていた。その書き置きにはこう書いてあった。
『しおりちゃんの細かい事は私に任せて』、と。
夜が明けても一体何の事なのか分からず、私は仕事の昼休みの時にでも聞こうと思いながら、最寄駅へと向かう。
その最中、私のスマホに一通のメッセージが届いた。相手は、しおりちゃんである。
『無事学校に着きました』
そのメッセージを見て私は一安心した。
もしかしたら学校へ行く途中で昨日の男が待ち伏せしてるのではと思い、“先生”から譲り受けたボイスレコーダーをしおりちゃんに持たせたが、杞憂だったようだ。
『お疲れ様。一人で大丈夫だった?』
『大丈夫でした。“先生”が後ろについていてくれたので』
「えっ!?“先生”何してるの!?」
衝撃の文字に私は声に出して驚いてしまってた。
しおりちゃん曰く、心配になって後ろからこっそり“先生”が見張っていたとの事。
孤児院があると言うのに、変わらない行動力に私は感服する。
『とにかく無事なら良かったわ。“先生”によろしく伝えておいてもらえる?』
そう送ると、私は駅の改札を通りスマホをコートのポケットにしまった。
しばらくしてヴヴ……ッと、振動をコート越しに感じる。
その振動の余韻に浸りながら私は電車に揺られ、会社へと向かう。
いつもなら苦痛なこの時間。息は苦しく、不用意に密着される不快感。
けれど、ポケットで握るこのスマホには愛しい人からのメッセージが送られてきている。
この時間を乗り切れば、癒しが待っていると考えるだけで、不思議と何時間でも耐えられる気がした。苦痛がいつもよりも短くも感じられた。
あっという間に会社の最寄駅に着くと、早速私はスマホを開く。
そして案の定しおりちゃんからのメッセージ。
『お互い、頑張ろうね』
昨日契りあった決め事。弱さを曝け出し、隠し事が無くなった私たちが決めた約束事。
シンプルで、簡単なようで実は難しい約束事。
どちらかが頑張っていては絶対に成り立たない約束事。
自分たちが似た者同士だと分かっているからこそできる約束事。
私たちだからこその、約束事。
きっと、これからも私としおりちゃんの間には色んな障害が待っていると思う。
けれどその度に乗り越えてみせる。だって私たちには“先生”がついているのだから。
「よし……頑張ろう!!」
戸籍や扶養、さまざまな問題もあるけれど、それもきっと時間の問題なのだと思う。
“先生”の紹介で弁護士を紹介してもらえる事になって、正式にしおりちゃんが私の家に暮らせるようになるのはまた、後の話。
それでも私としおりちゃんの毎日は変わらない。
『それじゃあ、行ってくるね!』
『行ってらっしゃい、詩織さん』
本当の“愛”を求めながら一緒に生きていくだけなのだから。
しおりちゃんと詩織さん〜愛に怯える少女は本当の温もりをまだ知らない〜 こばや @588skb
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