第54話 愛しき少女の元へ再び

 私は車を走らせた。家に帰るために。しおりちゃんの待つ家に。

 残り僅かな距離だというのに、妙に遠く感じられた。


 早くしおりちゃんに会いたいと思い過ぎてるからだろうか。さっきのコンビニでの出来事で、より一層思いが増した気もする。いや、気のせいでは無く、実際にそうだ。

 早くしおりちゃんの元に戻って様子を確認しないといけない。

『一向に電話に出やしねぇ!』

 しおりちゃんの父親らしき人がそう言っていた。それを聞いて落ち着いてなんていられなかった。落ち着けるはずが、無かった。その場で問い詰めてしまいたいと考えるほどに。

 けれど、きっとそれはしおりちゃんの為にはならないのだろう。こればっかりは私が勝手に動いていい問題では無かった。


 そう、しおりちゃんの問題なのだから。しおりちゃんが超えないといけない問題なのだ。

 その手伝いの為なら私はいくらでもするつもりだ。しないという選択肢なんて無かった。


 だから、助けを求めてるであろうしおりちゃんの元へと一刻も早くたどり着きたかった。それなのになかなかたどり着けない。チラリと時間を見ると、コンビニを出た時からほとんど時間は経っていなかった。


 私は心の底から安堵した。本気で時間がかかってるのでは無いかと思っていたから。それに、しおりちゃんを待たせてしまってるのではないか、とも。

 いや、待たせてはしまっているのか。“彼”の事を優先して、家にしおりちゃん一人で、長い時間待たせてしまっている。


 早く帰ろう。そしてしおりちゃんを思いっきり甘やかそう。きっと私がいなくて寂しい思いをさせてしまったに違いないのだから。

 そう思って、私はアクセルを踏みしめる。法定速度なんて関係ないくらいに。しおりちゃんに会いたい一心で。


 家に着くと電気がついてる感じはしなかった。それを見た私はガレージに車を頭から入れた。後のことなんて今はどうでもよかった。明日のことは明日考えればいい。しおりちゃんの事と比べたら些細なことだった。


「しおりちゃん!!」

 玄関を開け、電気が付けっ放しの廊下で第一声。しおりちゃんからの返事は無かった。

 しかし家の奥からは、電話らしき音が聞こえ、しおりちゃんのローファーは玄関にあった。家にはいる。それだけで私は気が楽になった。しかし、それと同時にきっと電話に怯えているのだろうとも考えられ、私はまた気を張った。


 一歩、また一歩と“音”に近づく。次第に大きくなっていく“音”。それがまるでしおりちゃんの怯え度合いを表してるようで、一歩一歩が大きくなる。


 しかし、私がリビングへの扉を開ける頃には“音”は鳴り止む。それが途端に不安になり

「しおりちゃん!大丈夫!?」

 勢いよく扉を開け、さっきよりも一段と大きな声でしおりちゃんを呼んだ。そしてすぐさま寝室にいるしおりちゃんの姿が目に入ると、そばまで駆け寄り、無言で手を握る。


 どこか納得したような表情のしおりちゃん。私のいない間に何があったのか、気になっていると

「……大丈夫です。何も、ありませんでしたから」

 掠れた声で、そう言ってきた。


 何も無いわけが無かった。さっきまで電話が掛かってたのは知ってるし、声が掠れてるのも気になって仕方がなかった。問い詰めたくて仕方なかった。


 そんな思いを私はグッと、抑え込む。しおりちゃんが口にするまで、聞かない事にしようと、封じ込める。きっと、しおりちゃんなりの考えがあるのだろうから。


 そう思った私は、

「なら、良かったわ……」

 となんとか平静を装って声をかけ、コンビニ袋をテーブルの上に置くのだった

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